ロザリオの命の詩

みなみがわ

第1話 模擬戦

「なあ?ルートはどの職業にするんだよ?」


魔法/剣術アカデミー (以降は魔剣アカデミーと呼ぶ) の同級生ジンはそう俺に聞いた。


「え〜…、決まってないんだよなぁ…まだ。」


魔剣アカデミーは3年制の学校だ。そして俺たちは今月から3年生になった。卒業まではもう1年を切っており、そろそろ自分が何の職業に就くかを決めないといけない時期なのである。


とは言っても、魔剣アカデミーは普通の学校ではない。将来、この国「アークルイン王国」を担っていく優秀な戦士達を育成する学校なのである。


つまり、ここで言う「職業」と言うのは、八百屋やアイテムショップとは違うのだ。


俺達、魔剣アカデミーの生徒が目指しているのは、ドラグーンナイトや大魔導師、精霊術師といった戦闘職なのだ。中でも、今言った3つの職業のような「上級職」に就くことが最終目標なのである。


「俺はもう決めたぜ!この1年間で剣士の資格を取得して王国騎士になるんだ!」


ジンはそう言った。


王国騎士は、この国でもっとも名誉ある職業の1つと言っても過言ではない

しかし、その分目指してる人間も非常に多く、かなり倍率の高い人気職だ。


それに、王国騎士は訓練が理解不能なほど厳しいことで有名だ。仮に入団試験を突破できても、ほぼ全ての人間が完全に心を折れてしまい、途中で退団してしまうケースがほとんどである。


王国騎士は上級職にあたる。

王国騎士になるためにはまず、ジンの言っていた「剣士の資格」を取得する必要がある。

これがいわゆる「一般戦闘職」とも呼ばれる上級職以外の職業のあたる。


無事に剣士となった後は、そこで一定の成果を出さなくてはならない。そうでなくては、王国の目には留まらない。

王国騎士の入団試験を受けられるのは、王国直々にスカウトのかかった剣士だけなのだ。


そんな茨の道を、ジンは歩もうとしているのだった。


だが、ジンの剣術は確かにすごい。


俺もジンもまだ今年で18歳だが、ジンは明らかに18歳のレベルを超えている。

それどころか、去年の屋外での戦闘実習の授業では、実習中に乗り込んできた山賊の連中を1人でボコボコにしていた。


正直、こいつなら王国騎士にだってなれるのではないかと思っているのも事実だ。


一方の俺はというと、これと言って自慢できる様な才能はない。

だが、昔から勉強が好きだっだこともあり、剣術や魔法について、もっと専門的に学ぶために学力推薦でこの学校に入学したという経緯がある。


だから、勉強はできるし理論は理解できるが、肝心の実行の所でいつもつまずくのだ。

だから、尚更職業を決められずにいるのである。


「キーンコーンカーンコーーン」


2限の始まりのチャイムがなる。俺たちは席についた。


しばらくして先生が教室に訪れ、教卓の前に立った。


「お前達、今から戦闘実習室に来い!」


先生がそう言うと、クラスメイト達は混乱しているような様子だった。


だがそれも無理はない。この時間は進路相談のはずだったのだ。それなのに、相談室などではなく戦闘実習室に行けと言われれば、そりゃ誰でも混乱する。


俺とジンがさっきまで進路について話していたのも、次の時間が進路相談だったからだ。


だが、先生がそういうのなら、きっと何か理由があるのだろうと考え、俺達は戦闘実質室に向かった。


向かっている途中、ジンはずっと難しい顔をしていた。「どういうことなんだ?」とでも言いたそうな顔である。


自教室からの長い廊下を歩き終え、やっとの戦闘実習室に入ると、とんでもない魔力の流れを感じた。


「うおぉっっ…!?」


思わず声が漏れる。


「お前達にはこれから、この教室で模擬戦を行ってもらう。この教室には先生達が特殊な魔法をかけているため、自分が思い描いたイメージそのものになることができる。ただ、自分がなりたいものをイメージするんだけだ。そうすれば、その姿に変身できる。」


先生は強く、かつ優しい口調でそう言った。


先生が言っていたことを簡単にいうなら、この教室には自分が頭の中でイメージしたものになれる魔法がかかっている。だから、その状況下で模擬戦をしろ。ということだろう。


俺が考えるに先生は、将来自分がなりたい姿をイメージするであろうクラスメイト達にその職業の適性があるかを見極めようとしている。そんなところではないだろうか。


そして、先生が再び口を開く。


「ルールは2vs2のチーム戦で、相手チームを2人ともノックアウトさせたチームの勝利だ。怪我はしない様になってるから安心しろ!チームは各自で自由に組め!」


恐らく、この試合はチームメイトとのコンビネーションも大事になってくるのだろう。


だとすれば、チームメイトの候補はやはりあいつしかいない。


「ジン、俺と組んでくれ」


ジンにそう言って、手を差し出す。


「ちょうど、俺もお前しかいないと思ってたんだ…!!」


そう言って、ジンは俺が差し出した手をバシッと強く握り返した。


「では、第1回戦を始める! ルート・ジンチーム vs レイア・ルールカチームだ!」


相手は、レイアとルールカだ。


レイアは確か、代々ドラグーンナイトをしている家系の長男だ。恐らくドラグーンナイトに変身して向かってくるだろう。


ルールカはすれ違うだけで分かる量の魔力を常に体から放出している女の子だ。悪く言えば、魔力制御が出来ていないとも言える。(それにしたって魔力量が桁違いなのだが…)


「では、試合開始ッッ!!!!」


先生の開始の合図と同時に、4人が動き始めた。


直後、俺の右隣でジンが光に包まれ騎士に変身した。


それに続いて、レイアもドラグーンナイトに変身する。


やはり、確固たる意思や強い目標も持つ人間達の変身は早かった。


2人に少し遅れを取って、ルールカも精霊術師に変身した。


なんというか…変身したルールカの姿は精霊術師というより、小さい頃テレビでやっていた魔法少女モノのアニメのソレだった。それに、「ヒャウゥ〜」という謎の鳴き声を出しながら泣いてるように見えた。


そして、変身出来てないのはとうとう俺1人となってしまった。


直後、ジンとレイアが重い音を立てながら剣を交えた。


剣と剣が交わっている部分には、ものすごい量の火花が散っている。


レイアが片手で思い切り振り下ろした大剣を、ジンが軽々と両手でしっかりと握った長剣で防ぐ。そんな状況だった。


レイアの後ろでルールカが「どうしよう」と繰り返し言いながら慌てている。


レイアは何度もジンに向かって大剣を振り下ろす。だが、何度もジンはそれを跳ね返した。

何度もその光景を見ているうちに、ある事に気がついた。


「レイアが持っている大剣の素材は…ドラン鉱石か…!あの鉱石の硬度は確か470…!一方で、ジンの長剣は…イージュアルメタル製…!イージュアルメタルの硬度は280…!このままあの打撃が続けば、ジンの剣は確実に破壊される!!」


どうすればいいか、打開策を必死に考える。


仮に俺が捨て身で加勢したとしても、きっとジンが俺に気を遣ってしまって戦闘に集中出来なくなる。


遠隔から武器強化の魔法をかけようにも、俺はその魔法の詠唱方法を知らなかった。


「何か無いのか……、、  そうか……!?!?」


俺の頭に、1つの作戦が思い浮かんだ。


「武器を…作り出せばいいんだ…!!」


レイアの大剣の素材の硬度が470なら、それを超える硬度の素材で武器を作り上げればいいのだ。


俺は脳内で、今まで読み込んできた鉱物図鑑を全てスキャンし始める。


硬度470という数値は鉱物の中でもかなり高い数値であり、それを超えるものを見つけるのは簡単なことではなかった。


「ローランガ結晶…硬度390…違う…! リンダール鉱石…硬度445…違う…! クソッッ!!!」


俺が考えてるうちも、ジンはレイアの猛攻をひたすら受け止め続けている。


幸い、ジンの息は上がっていないため、まだまだ体力的に余裕はあるようだが、このままでは武器が壊れるのが先だろう。


「レディカメタル…硬度450…! モールドール岩石…硬度455…! ハチェンノラ鉱石…………硬度…490…!?!?!? これだ!!!!!!」


遂に見つけた。硬度470を超える素材を。

俺は自分が持っている全てのエネルギーを指先に集中させ、滝のような汗を全身から吹き出しながら武器を錬成する。


錬成中もジンとレイアは交戦しており、次第に猛攻を受け止めている側のジンの長剣がギチギチと限界を迎えたような音を立て始めていた。


「間に合え…!! 間に合ええええええええぇぇええええエエェえええ!!!!!!」


手先で蠢いていた光の玉達は、1つの光の塊になり、やがてそれは剣の形を成していく。

そして……、


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉおぉおおおお!!!!!!!」


シャンっという大きな音と共に、その剣は出来上がった。


そして、それとほぼ同時に振り下ろしていたレイアの大剣の一撃により、ジンの長剣の刀身は木っ端微塵に破壊された。


「ジンッッ!!これを使え!!!」


それを見て、すかさずジンに向けて自作の剣を投げる。


ジンはその剣を空中でキャッチする。

そして、ジンは俺の見て笑いかけ、今度はジンがレイアに攻撃を仕掛ける。


ジンは、レイアに向けて思い切り剣を振るう。


さっきまで片手で大剣を持っていたレイアだったが、余裕が無くなったのか、両手持ちに変わっていた。


ジンの反撃は止まらない。風を切る音が、あまりの剣を振るう速さについていけずに遅れて聞こえてくる。まさに、音を置き去りにしていた。


だが、レイアも負けてばかりにはない。

ジンの猛攻を受けつつも、しっかりとダメージを最小限にカバーしながら戦っているのが分かる。


「ロロルカ・ルールカ・マシュマロプリンアラモードっ!!」


直後、レイアの背後からそう声が聞こえてきた。

そう、ルールカの声だ。声は少しだけ震えている気がした。


その瞬間、ルールカの持つステッキが発光し、ステッキの中から、チョコレートやクッキーの形を模した小さな兵隊のような生物達が大量に放出された。


「がんばってレイアくんをたすけて!お菓子の兵隊さん達!」


ルールカがそういうと、お菓子の兵隊達は「うおおおおお!」と声を上げ、ジンに向かって突撃していった。


いくら強力な武器を持ったからと言って、流石にジン1人であの数の敵を相手するのは不可能だ。


だが、俺はジンを甘く見すぎていたらしい。


中央のジンとレイアを囲むように、四方八方からお菓子の兵隊が迫ってくる。


ジンは剣を両手持ちから左手の片手持ちに切り替える。そして、レイアそれを振り下ろす。レイアは大剣で応戦する…はずだったのだが、全く剣同士の当たった音がしなかった。


直後、左手で握っていたはずの剣を、なぜかジンは右手で握っており、それをそのまま、ガードの甘い脇腹にお見舞いすることで、レイアは壁まで吹っ飛んだ。


その気迫に、ルールカは気絶してしまった。


決着がついたのだった。

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