第34話 下品な落ち
私は機械的に何の期待も無く、四角く見える岩を投げやりに触ったら、どういう訳か扉が開いてしまった。
〈えぇー、そんなバカな〉としか思えない。
こんな場所にあるのは、絶対に反則じゃないの。
「うーん、
私はないものねだりを言って、この
自分の考えが間違っていたのが、かなり悔しかったんだ。
でもこれで新人の時は、この部屋を拠点に出来るから、かなり有利になると思う。
〈はがと〉が探してきた、少年の家へ行く日だ。
私は久しぶりに、ちゃんとした服を着たため、気分が高まっていると思う。
鼠色でかなりボロいけど、女らしい線の服だから、少し恥ずかしいのと併せて誰かに見てほしくなってしまう。
ここには〈はがと〉しかいないのだから、もっと有難そうに私を熱く見なさいよと、言いたくなるわ。
女心が全く分かっていないのね。
まあ、〈はがと〉は身体だけ大きな少年だから、許してあげよう。
私は大人の女性なんだもの。
「ふふ、〈はがと〉案内を頼むわよ」
「了解だよ。だけど名前は〈はが〉と言ってくれ、三文字は目立つと忠告されたんだ」
「その通りね。了解したわ」
〈はが〉か。
しょうがないけど、かなり間抜けな響きね。
歯が抜けていそうね。
少年の家に行くと、少年のお母さんが出迎えてくれた。
子供の恩人だからか、丁寧な対応をしてくれる、上品で綺麗な女の人だ。
こんな貧民街に、いるような人じゃなって感じに見える。
ただ、私の服より上等で素敵な色の服を着ているのが、何だか
私が命懸けで手に入れたお肉で、苦労せず手に入れた服だからだと思う。
着いた先にいた商人の印象は、ものすごく良くなかった。
私のことを値踏みするように、足の先から頭まで、ジロジロと無遠慮に見てきたからだ。
娼館へ売った時の値段を、実際に付けていたんじゃないのかな。
お婆さんだけど、そんな風に冷徹で、
「わしは、〈カユ〉と言ってな。この地域でケチな仲買人をやっておるんじゃ。たまに仲介人でもあるがな」
ひゃー、仲介人か、やっぱりね。
注意しろって習ったんだ、仲介って言う名の
わざわざ言ったってことは、自分は裏組織に属していると宣言したってことよね。
力づくでは、勝ち目が無いって言うことなんだ。
「おっ、本当に【咬鼠】じゃな。お前さん達は、これをどこで手に入れたんじゃ」
〈どうして手に入れたか〉か、それは聞かれるわね。
【咬鼠】は〈塔〉にしかいないのだから、当たり前のことよね。
ここをどうやって切り抜けるのかが、運命の分かれ目よ。
「破棄された〈塔鉱山〉の奥で、運良く狩れたのです」
「お嬢ちゃんは何者じゃ」
んー、上手くいかなかった。
こんな説明で納得してくれるような、お人好しのはずがないか、裏社会で生きてきた長老だもの。
しょうがない、〈はがと〉の演技はまるで期待出来ないし、バレてしまう嘘はつかないでおこう。
「私は〈見習い巫女〉です。人さらいに会い、ここまで連れて来られましたが、ここにいる〈はが〉と運良く逃げることが出来たのです。〈南部連合街〉へ帰りたいと願っております。私も〈はが〉も、〈位階〉が一つ上がっていますので、【咬鼠】を狩ることが出来たのです」
「ほぉ、〈見習い巫女〉かの。確かに気のきつそうなとこは、その通りなんじゃろう。ただ、【咬鼠】が昔の〈塔鉱山〉におることは嘘じゃな。そんなとこに出おったら、この地域がもう襲われているはずじゃ。もちっとマシな説明がないのかえ」
人のことを、きつい女なんて言わないでよ。
あんたよりは、よっぽど優しいわ。
でも困ったな。
この説明で納得してくれるって言うか、諦めて取引に応じてくれないと、もう言うことがないのよ。
死病の〈赤星病〉にかかっていたとか、逃亡奴隷ですって言えば、もっと状況が悪くなってしまうわ。
「迷路のようになっている坑道の奥に、穴を見つけたんです。あれは人が作ったものじゃなくて、大昔に穴を掘る〈塔獣〉が作ったものだと思います」
えぇー、〈はがと〉何を言っているの。
「おっ、未知の〈塔獣〉がいたっていうのかい。それはまた、大きく出たもんじゃな」
ほら、当然だけど全く信じていないわ。
「えぇ、そうなんです。僕はそいつに〈岩土竜《いわもぐら〉〉と名前を付けました。【咬鼠】よりかなり強いので、【咬鼠】はそいつが掘った穴を通ることは避けているのです」
〈はがと〉、もう止めてよ、何が〈岩土竜〉よ。
聞いてる私の方が、辛くなってくるわ。
「その〈岩土竜〉はどうなったのじゃ。聞いたこともないの」
〈はがと〉のバカ。
「〈塔獣〉の世界も厳しいものなのです。個体としては〈岩土竜〉の方が強いのですが、繁殖力は【咬鼠】が圧倒しているのです。何せ鼠ですからね。〈岩土竜〉は穴を掘ってばかりいたので、繁殖競争に敗れ去り舞台から退場していったのです」
「ほっほっ、短い間に良く考えたの。ちょいと下品じゃが、落ちも何とかついとる。おぬしは不思議な男よ。おぬしが普通じゃないことは、このババアにも分かるぞ。〈巫男〉となり〈塔〉に挑んだおぬしが、どこまで高みに登れるか、老い先短いわしの楽しみの一つに加えてやるわ」
えぇー、あんなバカげた説明で、どうして納得したのよ。
〈はがと〉がすごく不思議なのは事実だけど、すごいことをやるようには、まるで見えないよ。
それに下品な落ちってなんだろう。
何も面白くない話だったわ。
転生奴隷は命をかけて巨塔に挑み、少女達は何を抱いたのだろう 品画十帆 @6347
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