第33話 銀貨
お婆さんの家を出て、僕達は無言で、早速交換したばかりの靴を履いてみた。
僕の靴は少し小さかったけど、古いことが幸いして革がビロンと伸びていたから、何とか履くことが出来た。
だけど靴下がないんだよな。
それにこんなにキチキチだったら、二日も歩けば靴擦(くつず)れしそうだよ。
〈アワ〉の方は大き過ぎるようで、「詰め物をしなきゃ」と溜息を吐いている。
僕達はそれでも最低限の物は手に入れることが出来たので、少年の家へ行き、何とか交換することが出来たと、お礼をすることにした。
「どうでしたか。なかなか、がめつい人だったでしょう。心を見透(みす)かされているようで、私は苦手なんです」
「ははっ、そうですね。でも何とか交換はしてくれましたよ。これは紹介のお礼です。少ないですけど食べてください」
「あらあら、息子の恩人なのに、また頂けるのですか。それはどうなんでしょう。うーん、それならこの子の服と交換しましょう。少し大きいですけど、この先女ですって言うその服よりは、男の様な恰好をしていた方が良いんじゃないですか」
「私は有難いのですが、良いのですか」
「えぇ、構いません。また服と交換できますしね。〈マセ〉、早く脱いであげて」
「えぇー、今脱ぐの。女の人の前じゃ恥ずかしいよ」
「はっ、子供が何を言っているの。色気づくのは早過ぎよ」
〈マセ〉君は顔を真っ赤にしながら、しぶしぶ服を脱ぎ出した。
母親って言うのは、時に無茶な事を言うよ。
自分の子供はずっと子供のままだと思っているらしいけど、大人と子供の間が一番恥ずかしいんだよ。
自分もそうだったはずなのに、どうして忘れてしまうのだろう。
〈アワ〉は気を利かして、後ろを向いて見ないようにしているけど、ちょっぴり笑っているようだ。
お母さんといい〈アワ〉もそうだけど、女って残酷な生き物だ、僕は〈マセ〉君に大いに同情したのは言うまでもない。
お母さんの女物の服を着ている〈マセ〉君を横目に、お母さんにこの貧民街から〈南部連合街〉へまでの道を尋ねた。
〈マセ〉君の苦難はまだ終わっていなんだ。
お母さんが言うには、何でもここは〈ペペイン王国街〉でも北の方にあるらしくって、〈南部連合街〉まではかなり距離があり、二日はかかるだろうと言うことだ。
がめついお婆さんの言ってたことと、合っているな。
〈南部連合街〉と〈ペペイン王国街〉は、南の端で接しているから、〈ペペイン王国街〉の中心を抜けていくことになり、進めば進むほど段々と賑(にぎ)やかな所になっていくようだ。
人が多くなるので悪い人もその分多くなるから、常に気をつけろと言われたけど、この貧民街より危険なら、もう無法地帯だよ。
先が思いやられるな。
あ母さんが、〈力鉱石〉の工場へ出勤したので、家をお暇(いとま)した。
廃鉱山で暗くなるまで仮眠をして、一旦、部屋に戻り旅の準備の仕上げをする。
水筒に泉の水をたっぷりと入れて、残しておいた燻製肉をリュックに詰めれば、もうこれ以上僕達に出来ることはない。
後は運を天に任せるだけだ。
〈アワ〉も泉へ向かって、長い祈りを捧げていたな。
「ところで〈アワ〉、銀貨ってどのくらいの価値があるんだ」
「はぁー、銀貨は銀貨の価値よ。それがお金って言う物よ」
「答えになっていないぞ。例えて言えば、朝食が何食買えるんだ」
「えっ、本当に分からないの。んー、パンとスープだけなら、たぶん二食分くらいよ」
一食ワンコイン五百円として、一銀貨千円かな。
十銀貨なら一万円か、そう考えるとこれはかなり安いぞ、一日分のアルバイト代くらいだ。
あのお婆さんが、すごくがめついのは真実だな。
「泊まることを考えると、十銀貨でギリギリ二日分ってことか」
「うーん、一晩どう過ごすのかが問題なのよ。安全な宿はすごく高いらしいわ」
◇◇◇◇◇◇ 〈アワ〉の視点 ◇◇◇◇◇◇
お肉と毛皮を売りに行くのに時間があるから、私の提案で〈塔〉側から扉が開かないかを調べることになった。
調べ出して半日が過ぎても、手がかりさえ見つけられない。
これはきっと、〈塔〉側から開かない造りなんだと思い、〈はがと〉にもう止めようと言おうとした時に、〈はがと〉がまた変なことを言い出した。
「〈アワ〉、見てみろよ。あの天井のあそこ少し変だと思わないか」
はぁ、思わないわよ。
そんな高い所に、あるはずないじゃないの。
そんなところにあったら、毎回毎回、部屋への出入りがすごく大変だわ。
「えぇっと、普通の岩にしか見えないけど」
〈はがと〉が珍しくしつこいので、仕方がなく調べてみることした。
これが終わったら、扉の仕掛けを調べるのはもう終わりにしよう。
最後にここを調べれば、〈はがと〉も納得してくれるだろう。
〈はがと〉の肩に立って、私は二つのことに、ハッとした。
「〈はがと〉、下着を履いてないんだから、絶対に上を見ちゃだめよ」
一つ目はこれだ。
今の私の下半身は無防備なんだから、卑怯な真似はしないでほしい。
二つ目は、私が簡単に〈はがと〉の肩へよじ登り、今普通に立っていられることだ。
これは絶対に〈二段階〉へ上がり、能力が強化されたせいだと思う。
そう思うとすごく嬉しくなり、顔がにやけてしまいそうだ。
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