第67話 侵攻の開始
森人族の国のあちこちに広場は存在する。広場を中心にして森人族の住宅地は存在し、それぞれの広場には200~300人ほどの森人族たちが世代ごとに住んでいる。
基本的に祭事のような特別なことがない限り、森人族たちは広場から大きく離れること少ない。
「おーい! この一帯はそろそろ終わりでいいだろう! 取りすぎてないだろうな!」
「やっぱり雨期終わりは豊作でいいな。これなら冬の備蓄に困らないねぇ」
森人族の文明に貨幣はない。それは、彼らの生活が広場という共同体の中で完結しているからだ。
「次に肉取るのいつだっけ?」
「来月あたりだ。そんときには、まー俺たち狩猟組もこんな風にのんびりと木の実取ってられないだろうけどな」
各広場では狩猟を担当するに森人と農耕を担当する森人が居り、彼らが広場全体の食料供給を一手に担っている。
そして、その他にも裁縫や建築、掃除や見張りなど、広場に住む全員でそれぞれの仕事を分担して生活を送っている。全員が自分たちの仕事をこなすことで、森人達の生活は成り立っているのだ。
「そう言えば、若衆の広場に国外の亜人が来たらしいな」
「聞いた聞いた。外回りの連中が愚痴ってたな。ジューダスが出てきたせいで変な奴を入れることになったって」
「まったく、変なことが起きなきゃいいが」
森人族は排他的とは言うけれど、多くの森人が国外の亜人に持つ感情は嫌悪ではなく無関心だ。いや、無関心とも違う。興味はあるけれど、関わり合いにはなりたくない。それだけだ。
まあ、彼らが十何年かに一度、国外の調査へと派遣される際に毎度の如く犠牲者が出ているのが大きな原因か。外の世界は恐ろしい場所。そんな認識が、この国の森人達には広がっているのだ。
だからこそ講談でユーリのことを知った森人たちは、意外にも好意的に彼らのことを受け入れていたりするのだが。
「とりあえず帰るぞ」
「はーい」
「了解」
さて、広場の役割として狩猟組分けられる彼ら三人は、今日の分の食料を取り終えて家路に帰るところだ。狩猟組という名目ではあるけれど、実際取っているのは木の実や野草だ。本格的な狩猟は祭日だけで、それまではこうして森に食料調達に駆り出されるのが彼らの仕事。
なので、狩猟をするときもグダグダとした空気の中で、とりあえずの収穫を手に入れた彼らは自分たちの広場に帰ろうとする。
その時だった。
「はろーぐっもにーんぐ、ぐーてんたく、にーはお!」
一人の首が飛んだ。
同時に聞こえる気が抜けるほどに陽気な声は、人一人が死んだ状況には余りにもそぐわない場違いなモノ。そのせいか、一時停止でもしてしまったかのように残る二人の体がぴったりと停止した。
「なっ……」
「戦闘態勢ィ!!」
しかし彼らも歴戦の猟師。一筋縄じゃ行かなような森の魔物たちと渡り合う森人族の戦士である。仲間の死に動じるよりも先に、彼らは戦闘の構えを取った。
けれども。
「んー、やっぱり地球の言葉通じないなー!」
歴戦の猟師たる彼らでも、此度の相手は手に余る。
振り上げられたハルバードが、つの字を描くようにしなったかと思えば、突如としてそれはばねのように形を戻し、二人の首が地面に転がった。
一瞬だ。一瞬にして、森人の首が三つが、地面に転がった。それから、首を無くした体は――
「〈
死したはずの肉体は、魂を失ってなお倒れることはなかった。それどころか、それらは意識があるように動き出し、地面に落ちた生首をそのまま広い、再び自分の体に戻した。
「さぁて、死の行軍を始めよう!」
森人族の国の南西。そこで、死体三つが歩きだす。その最後方で、女はからりと晴れたような笑顔を浮かべながらそう言った。
彼女こそは人間国が誇る英雄が一人。
「さぁて、めんどうくさい仕事はちゃっちゃと終わらせちゃいますか」
明滅の勇者チナツである。
しかも、森人族の国に現れた勇者は彼女だけではない。
国の南東では、一つの傷もない骸が積み上げられ、夥しい数の泥人形の行軍が始まっている。
国の北からは覆面に武者鎧の異形集団が、千差万別の武器を構え、立ちはだかる森人たちをざっくばらんに切り捨てていく。
南西に居座るチナツのほかにも、勇者が二人。
同時に、国を取り囲むように人間たちの侵攻は始まった。
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悪役転生!~勇者召喚に巻き込まれた一般サラリーマンは、最強の魔人族に転生し勇者たちに復讐する!!~ 熊 @redpig02910
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