第3話 ゾンビパニックなゆめ
ゾンビパニックなゆめ
※ゾンビが出るよ
※版権キャラも出るよ
※ずっとゆめのなかでゲームしてる感覚だったよ
私は気付けば校舎の中にいた。高校だろうか、そんな風な建築の場所だった。窓から下を見下ろせば、相当高い階層にいた。見下ろした下はフェンスの向こうでぐちゃぐちゃと蠢き緩慢に動くゾンビで埋まっていた。
それらはゾンビよろしく皮膚は爛れ腐敗臭が立ち込めて、目などは左右で別の方向を向いている。灰色に曇って濁った目を覆う瞼は剥がれているモノが多いし、視線は意思を持たずに光に対する反射のように泳ぐ。全身がぶるぶると不随意に痙攣し、隣のソレとぶつかり合っては身体がボロボロと腐肉が剥がれ落ちる。フェンスに押し付けられ、食い込んだ肉は削れ落ちぼたぼたとやっている。ついでのように皮が鉄条網に引っ掛かり、びぃぃ、みちち……と嫌な音を立てて皮膚がいとも容易く引き裂かれていく。
余談であるが私はゾンビが心の底から死ぬほど嫌いである。ゴキブリと同等程度に嫌悪する対象と言えばこの気持ちをわかってもらえるだろうか。
そんなものが自分が今現在存在している校舎の近くにフェンス越しではあるものの、割と生活圏内に迫っている状況に心理的圧迫感を多大に感じていたのを覚えている。正直夢の中とは言えそのシチュエーションにぶち切れ寸前であった。どうして私の夢なのに手元に爆弾の1つや2つの状況打破手段がないのか。打破させてくれ頼む。
そんな願いも空しく、私は何も手に持っていなかった。服装はごく普通のありふれた学生のジャージに身を包んでいた。ポケットにはスマホが入っていたが、充電でも切れたのかただの精巧な金属の板としての存在感を多大に発していた。大事な時に役に立たないとか叩き割るぞお前。普段必ず持ち歩いているモバイルバッテリーはどこにいった許さん。
なんやかんやそんな現状確認をした私は、やはり手持ちに不安を覚えたらしい。近くの教室の扉をそっと開けて中を覗き込み何か武器になるものを探し始めた。中は荒れも大荒れ真っ只中で、そりゃあまぁ大惨事だった。おそらく見た感じ2、3人分の内容物でそこかしこがおきれいに飾り付けられていた。とても悪趣味である。
だがどうあってもゾンビという存在自体が許せないもの相手に丸腰で近付きたくはないという気持ちが、こんな所漁りたくないという気持ちに余裕で打ち勝ちその教室を漁り始めた。頼みの綱の掃除用具は同じ思考の者でもいたのか全て持ち出され何もなく、仕方がなく折れて曲がった机の脚を持つ。そのまま振り上げて床に叩きつけて机の鉄の尖った足を捻じり切って武器とした。バットくらいの長さだったように思う。そしてその惨状からこの校舎は全く安全ではなさそうだと見切りを付けたのか、私の思考は今すぐにでもここから逃げ出したいという文字のみで埋め尽くされていた。
終始嫌だなぁと思いながら脱出を図る為に階段をゆっくり降りて行った。階段は学校に良くある折返しになっているもので、どう降りても足音がトーン、トーン、とフロアに響き反響する。踊り場には赤黒い据えた腐った匂いのシミや固形物が散乱しており、足を滑らせないよう音を立てないよう気を張るあの心地は酷く嫌な緊張感のあるものだった。バクバクと緊張で跳ねる心臓をどうにか無理やり抑え付けて武器を縋るように強く握って、少しずつ階層を降りて行った。途中の階層、おそらく5階やそこらまで降りた時に突然雰囲気が変わった。何とも言い難いのだが、ここは誰かの私有地であると直接頭に叩き込まれたような気分であった。おいそれと勝手に踏み込み礼儀を欠けば、どうなっても知らない自己責任と言い離される場所だと、本能で理解させられた。あれが野生動物でいう所謂“縄張り”というものなのだろう。
まぁ夢の中の私は普段以上に倫理観が相当に欠如していたらしく普通にその階層に足を踏み入れたのだが。
足を踏み入れた直後、上階から大きな破裂音がして何かが降りてきた。ガンガンと酷く何かを打ち付けるような音と破壊音が上から落ちて来る。
見ていては絶対後悔するとわかっていたのに完全に動きを止めて振り返り、それを息を殺してみていた。
すぐに降りてきたそれはずんぐりとした見た目で、脆弱な人間風情では手も足も出ないような屈強な見た目をしていた。言ってしまえばスーパータイラントが一番近い。至る所から肉々しい質感の触手が生えてそれをずるずると引き摺り、べったりと人の臓腑で塗れた片方だけ異様に発達した大きな爪のある腕をぬらぬらと鈍く輝かせていた。ぎちぎちと発達した筋肉が音を立てて収縮し、ふしゅふしゅと息を吐いていた。階段を降りてくるそいつの触手はじぅじぅとタイルを焼き削ってコンクリートの壁をぶち砕いてきていたから、きっと濃硫酸でも纏った全てが筋肉で出来たタコの触手のようなものなのだろう。これこそがまさに前門の虎後門の狼。
言い忘れていたが言うまでもなく私のトラウマ作品はバイオハザードである。幼少の砌からのトラウマと恐怖心を揺り起こすビジュアルがお目見えした事により、恐れに塗りつぶされた私は何を思ったのかそのまま一番危険そうな、絶対に礼儀を欠いてはいけないと頭の中で盛大に警鐘が鳴り響く教室の扉に走り寄り、両の手でドア枠を引っ掴み思いっきり開け放った。最早ドアを反対の枠まで叩き付けたに近いほど力を込めていた。
夢から覚めた現在の文字起こしをしている冷静な頭で考えていて、きっとこれが化け物には化け物をぶつけて対消滅を目指そう理論なのだと納得した。
その教室の中はやけに冷えていて、冷気が外まで漂っていた。焦っていた私の焦点が合えば、そこには鎖で拘束されたハントレスが居た。何故なのか。
いつものように首をかくりと傾げて表情の伺えないお馴染みのウサギの面を付け、斧を両手でぎっちりと握りしめて仁王立ちをしていた。腕や胴、首を拘束する鉄枷がこれほど心許無く思えた事はない。
これがほんとのDeath or Die。私そんなに悪いことしたかなぁ?こんな酷い目に逢うような悪いことをしたかなぁ?と遠い目をしていれば、ハンターがマップに放出される時のように青白く半透明に凍っていたのが、すぅと瞬く間に解凍され滑らかにハントレスが動き出した。現代のフリーズドライ製法は優秀だなぁ。
流石に脳天を斧で勝ち割られて死にたくないと全力で飛び退いて、更に割と近距離まで迫ってきていたバケモンその1からも距離を取る形で飛び退けば丁度そのバケモン2体がかち合い、目が合った。3秒ほど静止したのち、2体はそれぞれ爪と斧で殴り合いを始めた。
振り下ろした大振りの爪での攻撃を斧で受け止め、迫りくる触手をバツンブツンと音を立てて手投げ斧で切り落とす。筋繊維の目に抗って無理やり断ち切る引き千切れる音なぞ一度聞けば十分だから、夢の中ですら二度と聞きたいものではないと思った。爪を斧でかち上げて弾き飛ばしたかと思えば、そのままの勢いで軸足を基準にぐるりと半回転して下から斧で切り上げる軌道を触手を当てて逸らす。視野外からの触手も難なく躱し、時折混ざる徒手空拳もお互いにいなしていく。触手はある程度再生出来るようで、引き千切られた端から再生する。じゅるじゅると皮膚の間からにじり出るように生えて来るのは見ていて気分のいい光景ではなかった。再生するのに対して手投げ斧の数が有限なハントレスが些か不利だろうか。
そんな突然目の前で始まった大怪獣合戦に気が遠くなりかけたが、そのまま別の階段から下の階へと降りた。結果?知らん。見ていない。
一階までたどり着き、防火扉を気休めに閉じて施錠して振り返れば生存者が大分居た。きょろきょろと見まわしていれば、下駄箱の先の玄関口にトラックが入ってきた。
そのトラックは後ろの荷台が鉄格子の折のコンテナになっていた。当然の如くぎっしりとゾンビが詰まっていた。ぶち切れそうになったが夢であるがゆえに何の抵抗も出来ず眺める事になった。ゾンビアンチ過激派の気持ちにもっと寄り添った夢にしろ。
何故現状安置である(化物が上階にいる時点で全く安置ではない)場所に脅威を持ち込もうとするのか訳が分からなかった。そう思うものも多いのか、そのトラックは遠巻きに眺められていた。そのトラックの運転席から降りてきた指導者らしき男性がこの状況を打破するために一致団結してうんたらかんたらと演説を始めるのもどこか他人事のように眺めていれば視点が変わった。
その場面ではトラックから飛び降りた男性と校舎内にいた女性が抱き合って感動の再会が行われていた。男性は薄汚れていて、包帯を巻いていた。ゾンビと聞けば連想出来る感染源の可能性を考慮して、この時点で近くの非常口の扉の近くへと私は移動を始めていた。ゾンビアンチ過激派として言える事は初動が命である事。絶対に判断が遅くてはならないし、絶対に日和っても躊躇ってもいけない。
すぐにまた視点が変わった。トラックの荷台の折の接合部にカメラなのだろうか、映像がフォーカスされる。ぎぃぎちと酷く耳障りな、小さくけれど着実に耐久力が蝕まれている音が聞こえてくる。グラグラと折自体も少し揺れていて、それがしっかりと私の目には映ったようだった。
即座に反転して非常口へと手を伸ばし、ノブを回す。ノブは周りはするがどうにも開き切らず、けれど必死に渾身の力でドアを無理やり体で押してどうにか開いた人一人分程度の僅かな隙間に体をねじ込んで校舎から飛び降りた。ドアと地面に1mほどの落差を作るな危ないだろうが。何とか着地して走りだせば当然のように背後から鉄の壊れる音と質量の大分ある雪崩のような轟音と悲鳴が聞こえてきた。それもパタリと無常に非常口のドアが閉まればくぐもって聞こえ辛くなり、走って離れる毎に何も聞こえなくなった。あぁこんな終わった世界で生きて行かねばならないのかと悲観しながら走る最中、ふと目が覚めた。
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