第4話 大学のようなところのゆめ

大学のようなところにいた。

なんと言えばいいのか、講習なのか完成披露なのかよくわからないが家族そろってそこにいた気がする。上階にいて中央は足の着く場所がなく、手摺で仕切られていた。2階建ての商業施設の真ん中がぶち抜かれているような形とでもいうのだろうか。綺麗に設えられた建物だったと思う。外界と仕切る壁はガラス張りで、雲がちらほらと有りはしたがそれ込みで晴れやかな青空と言われて人が想像するそのものであった。

そこで理由は分からないが(おそらく観覧態度がひどく悪いとか、そんな事)妹と口喧嘩になり、何を言っても聞かず体育座りをしている妹の靴を引っ掴んで階下へと投げ捨てた。妹は無反応であったが父親が私の靴も投げ捨てた。これこそまさに喧嘩両成敗である。

イラついたのでもう片方の靴も自分で脱いで投げ捨てた。何故か父親は妹のもう片方の靴も投げ捨てた。訳が分からない。

そして何故か取りに行くように言われた。私が?何故?と思ったが父親は明確な理由を求めたところで話が通じない唯我独尊タイプなので仕方なく階下を一瞥して外に出た。一瞥して分かった事は、片方の靴は階下の壁に当たり跳ね返っていたため、だいぶ奥に落ちていた事と、階下は二階などではなくもっと低いところにあるらしかった。晴天の青空とは程遠く、端まで見通せないような薄暗く、物の輪郭さえぼやけるような場所だった。

今思えばあれは、階下には窓がなかったか、何かで大幅に遮られていたのだろう。建築としては天井までガラス張りだったというのに差し込まない光に、夢の中では疑問にすら思わなかった。これがご都合主義というやつか。


ここで見ず知らずの黒髪で前髪を上げているのか前髪を作っていないのか、そんな女の子の視点に切り替わった。帽子をかぶってないエマちゃんみたいな。そばかすはなかった。訳が分からない。

その子は大学構内を歩き回っていた。大学生活に不安を抱えるような心の声のモノローグが聞こえた気がした。誰か知らんが個人の名誉のためにそれは伏せておく。その子が階段の下を通過しかけたあたりで上から人が降ってきた。私だった。人が多く一向に降りられずムカついて手摺を乗り越えて階段を飛び降りるショートカットを繰り返し披露して最上階から降りてきていたらしい。書いていて気が付いたが少なくとも4フロアは飛び降りショートカットしたので四階以上ぶち抜いた建築だったんだなこれ。

そこで視点は三人称のようになり、ビビって腰を抜かし座り込む女の子に上で靴を落としてしまったと靴下しか履いていない足を見せて説明して手振りで場所を説明しつつ案内人兼同行者を手に入れて靴が落ちたであろう場所を見つけた。ところで靴下が昨日はいてた警告色みたいなまっ黄色でした。突然日常のリアリティを出してきてたんだなとこれを書いている今現在泣いております。

そこは外界に面した講義室のようなところだった。女の子曰く、そこはまだ準備中で何も置いてなかったはずだけど…とのことだった。まぁ落とした靴を拾いたいだけなので気にせず入ろうとした。女の子は消極的だったが、私の足をちらりと見てついてきてくれた。優しいね、詐欺に気を付けてね。

その講義室は二重扉で、教室から直接外に出られる出口があった。その出口はレンガ造りで、アーチ状になっていた。おそらく外から見ればその講義室は全体が可愛らしい朱色のレンガ造りの家のような形だったんだろうと思う。一メートルほど張り出していて、レンガの出入り口。校舎側にも普通の大学の出入り扉があって面白い建築だなと思っていた。

今言語化しようとするとアレは大学にレンガ造りの家が食い込んでいるような取り込んでいるような歪な可愛いとは言えない見た目だと思う。ハウルの動く城みたいなちぐはぐな感じ。きっとこれがご都合主義だろう。

そこにいざ入ろうとすれば、すでに一枚目の扉を開けている人がいた。割と一メートルくらいの距離で目が合った瞬間怯えたようにドアを閉じようとしたので、入る入る!と言って扉を抑えて開けた。とても重い扉だった。見た目はただのドアなのに、重さはとんでもなく重かった。非力な女性ではおそらく引き続けられないくらいには重かった。その閉じようとしていた女の子は怯えた顔で震えていたので、同じように足を見せて説明してちょっと取りに行きたいと言った。多少震えがなくなった。その子は完全にショートカットで眼鏡で巨乳だった事をここに追記しておきます。

如何に夢の中であろうと如何に普段心がはがねタイプと言われようと怖いものは怖いし暗くてよく見えない教室に閉じ込められたくはなかったし、靴を四足持って重い扉を開けられる気がしなかったので、2人にそれぞれの二重扉を抑えていてくれるように頼んで教室に飛び込んだ。外側の扉は先に出会った多少快活そうな女の子の方に、内側の扉はおどおどしたおとなしそうな子に抑えてくれと頼んだ。

そこは酷く冷えているようだった。凍えるとか、物理的に寒いわけではない。肌寒くはあるのだが明確に冷気が吹いているわけではなく、ただただ冷えて感じた。まるで冷えている人に抱き込まれているような、そんな感じ。とにかくここには居たくないと本能的に思う場所だった。

そんな妙な不快感を覚えつつ靴を順に近い方から回収していき、一番遠かった壁に跳ね返った靴を目視したあたりで快活そうな女の子がそろそろ限界だと限界を訴えてきた。ちらりと見れば巨乳の子もプルプルと震えていた。すぐに走って取りに行き靴を引っ掴んで扉まで走る。その最中に何かを通り過ぎた気がした。何かが居て、それを無理やり通り過ぎたような。薄い膜を通過したような。体験したことないけど上昇負荷ってあんな感じかなと今は思う。

そうして通り過ぎて二重扉の内側の扉が閉まって、外側の扉も通ろうとして。小さな悲鳴が聞こえて振り返れば、内側を抑えていてくれたあの子が内側の扉の開いた隙間から出る腕に引き摺り込まれそうになっていた。すぐに靴を投げ捨ててとにかくその子の腕を必死で掴んだ。訳が分からなかった。でも離してはいけないと掴んで手繰り寄せた。外扉まで引っ張り扉を閉めて貰って、倒れこんだ。

肩で息をして立ち上がれずその教室を見上げた。真っ黒なヤツがこちらをじっと見ていた。ニタニタ笑ってドアのガラス部にぺったりと手を付けて、音など聞こえないのにげひゃげひゃと下品に笑い声を立ててペタペタとガラスに手跡をつけていた。

そうやって硬直していれば、用務員のようなおじさんがやってきて声をかけられた。喉は張り付いて声が出なかったけれど、途切れ途切れに説明すれば顔が強張った。すぐに私と快活な女の子を立ち上がらせて勢いよく同時に鳩尾にボディーブローを打ち込んできた。女の子と二人してげぇげぇと嘔吐して、それでも足りず指を喉に突っ込まれて吐かされて、さらに水を口に含ませられてはまた吐かされた。吐き出すものが透明になり始めた時点でおじさんがあんなところに入ってはいけないと言い、嫌悪するような表情で講義室を見ていた。

でも靴を落としてしまったのだ、私が巻き込んだのだと言えば。キョトンとした顔で足を指さされて、履いているだろうと言われた。履いていた。

女の子に振り返り縋れば、女の子も履いていなかったと言った。もう一人の子にもと見れば、あの大人しい子はいなかった。探していれば、講義室の中にいた。そこでバタバタと暴れていた。首を吊りながら。

扉へとすぐに走り寄ろうとしておじさんの腕で止められる。手をあらん限り扉に伸ばしても届かなくて腕を振りほどこうとすればおじさんは首を振って、あの子は元々あそこにいる子だと、そう言った。

それでも私はあの子の手を引いたのだ。あの子に、触れたのだ。

どうしていいかわからなくなり、足の力が抜けてへたり込んだ。

呆然とそれを見ていれば、おじさんが言った。

そういえばここには上の階などはないし、作る予定もないはずだが、どこから靴を落としたんだ?と。

その言葉が聞こえてすぐ、たくさんの悲鳴と人々が、上から落ちてきた。

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