焦って転んでカサブタが出来た

無駄職人間

焦って転んでカサブタが出来た

 気づいたら私は泣いていた。

 大の大人が沈黙にも涙が頬を伝う。

 子どもの時と違うね。

『どうしたの、大丈夫?』

 そう言って誰かが私の泣き顔を覗いてくれた記憶。

 それが私を安心させてくれた。

 今はその懐かしさしか、感じることが出来ない。


 私は幼い頃から、周りについて行けない子供だった。今でもそうだ。

 それは他人の美しさに人一倍敏感でもあり、一方で常識的思考は鈍感であった。

 それで周りの子どもたちには笑われ、大人たちには理解してくれることはなかった。

 興味を見出そうとした人もいたが、そういう人から私は離れる傾向があった。

 どうしても孤独なのだ。他人からも自己的にも。

 それは私が天の邪鬼だからかもしれない。

 それか私は脳ミソのない、心で動いていたからかもしれない。

 だから、私は周りに追いつけるよう走った。

 頑張ったけど、何もなかったね。

 馬鹿だから逃げたんだ。

 怖かったから楽を選んだ。


 重力が心を掴まれた事に気がついたのは、数年前ぐらいのことだ。

 それまでは、夢重力の夢想家であり、いつか何でも出来ると信じていた、未来を見ていた少年であったのが私であった。

 だが、光は死んで、暗闇に弾かれ、雑多な制限に縛られている事を知ったときには、もう手遅れだった。

 宇宙を飛んでいた翼は蜜蝋の如く、私の熱で溶けて飛行能力を失っていた。

 これじゃあ役に立たないね。

 ふと、窓の外を見る時がある。

 そこには過去と思い出があった。

 私はあそこまで頑張っていたな。

 しっかりしておくれよ。

 笑顔で弾き返した盲信。

 それが今の私が総決算なのです。

 お代官様。


 部屋を見た。

 乱雑に積まれた未読の本。

 買い替えただけのパソコン。

 ボロボロになった参考にしない参考書。

 書き尽くされた未使用のアイデアブック。


 そこに老けた私だけがいた。


 夢見た栄光はなく、その片鱗さえも己自身で見つけることが出来ないままだ。

 ネットには焦ってできた作品を並べた。

 つまらないものだ。

 それが真実として見てわかる。

 読まなくてもね。

 だって傷だらけの私を誰が助けるものか?

 そもそも私はなんの為に書いているんだっけ?

 文学が嫌いな私が一冊の本から貰った喜び。

 それを今度は私が誰かに伝えようとしたからだ。

 だが、果たしてそれを私はしていただろうか?


 それに気がつけたのは最近のことだった。

 転んだ作品を読み返しても、傷ばかりしか増えなかった。

 書くのが向いてないなと、諦めて本棚を見た。

 そこにはホコリを被っていた本があった。

 その中に私が小説を書くきっかけになった一冊もあった。

 久々に読み返すと、これがとても懐かしく、涙が出たのだ。

 書きたかったのはコレであって、私がやって来たのは流行りに便乗することだけだった。

 それは幼少期の私がやって来た愚行と変わらぬではないか。


 しっかりしておくれよ。


 これからどうしようか?

 後ろには戻れぬ恥と弱い過去。

 前にはゴールが見えない人生。

 正しい道が見えない中で、歩くのはきけんだな。

 でも、独りで彷徨うしかないのだ。

 手にはおもちゃ。

 頭には空想を。

 それが始まりで、いつしか形にして、文字にして、浪漫にしたい。

 だって、無傷の英雄なんてツマラナイじゃないか。

 それが多分、僕なんだろう。

 焦って転んで、気が付かない内にタクさんのカサブタが出来て、動けなくなってた。

 そして今日、カサブタは取れた。

 しっかりするよ。











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