月が散る

ナナシリア

月が散る

 雲がかかっていた。どんなに広い空も、どんなに奇麗な月も、覆い隠されていては意味がない。


 だが、月の方から出てきてもらえば話は別だ。


 海の波打ち際。そこに、月がいた。


 言葉はいらない。ただ自然に雲が開け、明るい光が差し込む。


 彼女はこちらを見ていた。


「きみは、月は好き?」


 彼はなにも言えなかった。


 代わりに、彼女に手を差し伸べる。


 どちらが言い出すでもなく、二人手を繋いで砂浜を走る。軽快な足取りはすぐに崩れた。


 彼女が、崩れ落ちた。


 散り際の月がより一層光り輝く。


「大丈夫か」


「はは、これ以上走ったら死んじゃうかも」


 彼女は重大な病気を抱えていた。


「——わたしを、殺してよ」


 二人はただひたすらに走った。彼女の息は切れない。


 唐突に、彼女が再び崩れ落ちた。


 輝きは徐々に失われていた。


 彼の号哭が、空を衝いた。

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月が散る ナナシリア @nanasi20090127

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