第33話

「特に変わったところはないですね······」


曲がり角にピッタリくっついて残念そうに呟く

一通り二人の会話を聞いたが、自分が予想していた展開にはならなかった


「絶対、絶対に本性を隠しているんですわ」


自己完結して、また周りを気にしないで注意深く聞き耳を立てる。


「あら、西園寺さんじゃないですか」


そこで急に後ろから声をかけられびっくりして振り向くと······


「えりす先輩!?すみません、気づきませんでしたわ」


そこには西園寺が尊敬する坂本えりすがいた。

西園寺にとって、この人は目指すべき目標の人になっていた。


「どうして、えりす先輩がここに?」

「えっと、少し私の弟に用事があって探していたんですよ」

「弟さん?たしか、弟さんもここですわよね?」

「そうですよ。ちなみに、私の弟はもう私の視界の内にいるんですよ」

「そうなんですか?それは良かったですわ!」

「よかったら一目見ますか?自慢の弟ですよっ」


少し前のめり気味に提案してくれるえりす先輩。

たしかに、えりす先輩の弟さんは話だけで実際に見たわけじゃない。

だけど、今は尾行中ということも忘れてはいけない。

だがそれでも、先輩から誘ってくれたことが嬉しくなってしまい·····


「····えっと、それではほんの少し拝見しても?」

「ええ、どうぞ」


そうして、指さされてあそこにいるわと言われたので見ると·······


(えっ!?もしかして、えりす先輩の弟さんって、あの男なんですの!?)


衝撃の事実で少しの間固まってしまう。


「·····えりす先輩。あのおと·····、彼の名前は?」

「坂本裕太っていうんですよ」

「へ、へぇー。そうなんですか」


未だに硬直が解けていない西園寺。

自分が最も尊敬している人と、今最も嫌っている人が姉弟だったと分かればこの反応は無理じゃない。いろいろと落ち着かいない。


「それでは、私は裕太と少しお話してくるので、またお話しましょう」

「は、はい。こちらこそ」


その短い会話でもう行ってしまった。

そして、まだ本当に姉弟なのかと疑っていたが、しばらくして仲良さそうに喋っているニ人を見て確信に変わった。


(なんで、あの男なんかがえりす先輩と姉弟なんですか!)


しばらくの間心のなかで突然愚痴を吐いたり、なにかの間違いだと考えていたりしていた。

そうやっているうちにあの男がまたもや動き出した。


(いきません、いきません。少し動揺しましたが、今は追うことに集中しないと!)


それからも尾行したが変な行動は起こさなかった。

逆に、教師が授業用プリントを落としたときは一緒になって拾うなどの善行がほとんどだった。


そうして1日中尾行して、西園寺の一日が終了した。

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