第57話 夏祭りと彼女のスプーン
「あ、いた」
辰也と共にフランクフルトを齧っていると、図らずも日並と小百合の二人と合流を果たした。
小百合は片手に林檎飴を持っており、反対の手にはレジ袋を持っていた。
日並の方はなにかカップのようなものを手に持っている。
「そっちはなに買ったんだ?」
辰也が訊くと、日並は「ジャ~ン」と楽し気に手に持っていたカップをこちらに見せた。
「げっ、よりにもよってソレかよ」
「そうです。ブルーハワイです」
日並が持っていたそれは、ブルーハワイのシロップがかかったかき氷だった。
久しぶりに見るブルーハワイに、どこかおかしさを感じて笑ってしまった。
「お前ほんとソレ好きだな、と言うかちゃんと他にも買ったんだろうな?」
「いや、当たり前じゃん。私のことなんだと思ってるの?」
日並は辰也に少し怒った風に腰を当てた。
だけどすぐになんともないように表情を戻して、「そこに公園あったから、そこで食べよ」と脇道を指差した。
それを聞いた辰也は「腹が減った」と日並が指を差した方向へと足早に歩き始めた。
さらに途中で勝手に道を曲がろうとして、小百合が焦った様子で「そっちじゃないですよ」と辰也を止めに行った。
大通りに残された俺達二人は顔を見合わせて笑った。
「私達もいこっか」
頷きつつも、足が止まる。
どうしてか気になる彼女の手元のカップに目を向けていると、彼女は「ん、どうしたの?」と振り返った。
「いや、なんでも」
「なんでもってことはないでしょ……あ、わかった」
日並は何かに気が付いたようにいたずらな笑みを浮かべると、手元にある青色のかき氷をスプーンで掬って、こちらに向けた。
「はい、どーぞ」
顔には出さなかったが、俺は心底動揺した。
そのスプーンは、さっきまで彼女が口を付けていたものだ。
日並は自分がなにをしているのかわかっているのだろうか。
表情を見ても、彼女の考えはわからない。
薄暗くなった空と、屋台のぼんやりとした逆光が合わさって、何もかもが朧げだった。
「はやくしないと、はぐれちゃうよ」
日並はそう言って、俺を急かす。
どっちにしろ拒否権はないのだ、と自分に言い聞かせて、俺は勢いをつけてかき氷を口に入れた。
「どう? おいしい?」
「味わかんねーよ」
口にした氷の量は少しだけだったし、すぐ溶けてしまったし。
大体、味なんか気にならないほどに心臓がバクバクと高鳴っていた。
日並は俺の答えに満足したみたいに笑って、俺の手を握って公園の方へと駆け出した。
「遅いぞ、もう食ってる」
「お兄。これ、焼きとうころもし」
「あぁ、ありがとう」
「小百合ちゃん、とうもろこしだよ」
公園で屋台で買った夕飯を食べた後は、みんな浮かれ気分でそのまま草薙家へと帰った。
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