第41話 国家が響くカラオケルーム
翌日、月曜日。
今日も今日とて俺は家を出ていた。
辰也に遊ばないか、と誘われて連絡を取り合いカラオケに来ていたのだ。
ノウハウを知らない俺は受付を丸ごと辰也に任せ、ドリンクバーで飲み物を用意してから案内された個室へと入った。
「これが噂に聞くカラオケボックスか」
俺は呟きながら、四畳ほどの部屋を見渡した。
灰色の壁にテーブル、椅子が四つ、大きいディスプレイにマイクが四本。
なるほど、そしてテーブルの上にあるタブレット端末で色々と操作をするらしい。
そうして俺がタブレットをポチポチと弄っていると、辰也は「高校生で初めての奴とかいるんだなぁ」としみじみとつぶやいた。
「おかしいか」
「うん」
なんとなく聞いてみたがバッサリであった。
「中学の時に友達とかと来なかったのか?」
「来るような友達いなかったし、来る暇もなかった」
辰也は「えぇ……」と引き気味だった。
だけど少し考える素振りを見せると、何かに納得したように頷いた。
「そりゃお前……小説上手く書けなくても仕方ないよ」
辰也は悲しそうな顔をしていた。
「やっぱり、『体験』か?」
「あぁ。絶望的に足りなさ過ぎる」
「そんなにかよ」と俺が聞くと辰也は腕を組んだ。
「逆に聞きたいんだけど……なんでそんなに遊んだりしてなかったんだ? 友達とかもさ。別に友達ができない性格って訳でもないじゃん」
「そうは言われても……」
困ったものである。
中学の頃は家事と当時小学生だった小百合の世話で精一杯だった。
遊ぶ暇はあまりなかったのだ。
友人関係に関してもクラスメイトとはあまり趣味も合わず、いつも一人で小説を読んでいたから本当に薄い関係性だった。
それらを辰也に伝えると、不思議そうに首をかしげた。
「まぁ、友人関係についてはわかったけど……家事? 小百合ちゃんの世話?」
「うん」
「お前が?」
「うん」
「なんで?」
「なんでって……俺、兄だし」
「お前、それ……いや……」
辰也はなにかを言い掛けると、深く考え込むように顎を擦り始めた。
なんだろう。
俺はなにか変なことを言っただろうか。
しばらく部屋内は沈黙に包まれたが、辰也は気を取り直すように立ち上がった。
「ええい! なんでカラオケでこんな暗い話をせないかんのだ!」
「お前が先に聞いてきたんだろ……」
「せめてボケろよ!」
「そんな無茶な」
「ともかく!」と辰也は叫んでマイクを手に取った。
「話は戻るが、今日は体験の為にカラオケに来たんだ。思いっきり歌うぞ!」
「まぁ、そうだな」
いつもの調子を取り戻した辰也はタブレット端末を俺に渡してきた。
早速、なにを歌おうかと曲を探してみる。
だがそこで、俺は重大なことに気が付いた。
「辰也……まずい」
「……ん、なんだ?」
「歌える曲が、国家しかねぇ」
「国家」
「うん。あとは卒業式に歌ったカントリージュピター」
「なんか混ざってる混ざってる」
「どうしよう、歌える曲ないよ」
俺が恐る恐る告げると、辰也は絶句した後に「ブッ」と吹き出した。
「ブハハハハ! いいじゃんかよ、国家と卒業式に歌った歌が歌えるなら」
「じゃあ……入れるか」
「よっしゃ! 一発目は国家だな! 次にカントリー……えっと、正式名称なんだっけ」
それから俺は、辰也と一緒に四時間ほど歌い続けた。
最初は音楽の授業みたいに綺麗に声を出すよう心掛けていたけれど、辰也にアドバイスをされて最終的には心の赴くままに叫ぶように歌った。
大声を出すのはこんなにも気持ちいものなのか、と心底驚いたものだ。
カラオケを出る時は若干喉が枯れていた。
そして俺はやっぱり、辰也とのやり取りに違和感を覚えた。
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