第23話 筆を取るのは何のため
踵を返して、保健室を出る。
俺は自分がした行動にけじめを付けなければならない。
本当になんであんなことしたんだよ、自分に悪態をつきながら歩く。
部長の過去だとか、勘違いだとか、部誌だとか、葬式だとか、色々ややこしい話のようにも思えるが、結局のところは全て俺が小説を完成させれば解決する話だ。
それが、部長が悪くないと証明する術だ。
ならばやるしかないだろう。
確かに部長の小説は凄い。
劇薬だ。
特に文字を書く人間に取っては。
恐ろしいとも思う。
一年生の時に小説を書いて賞を取るなんて俺にはできない。
俺は小説を書くのが初めてだし、文芸部をやめた先輩のようにいくら練習しても部長の領域まで届くことがないのかもしれない。
俺の小説は、どうしようもなく淀んでいて、見ていてつまらないものなのかもしれない。
だけど、それが書かない理由になるか?
答えは否だ。
教室にたどり着くと共に、授業の終わりを告げる鐘が鳴る。
席に戻り、カバンから原稿用紙を取り出し、淀んだ過去と対峙した。
◇
木曜、金曜と二日にわたって授業中も堂々と小説を書いていたからか、社会の教師に怒られて原稿用紙を奪われるようなハプニングもあったが、小説は着実に進んでいた。
書いている最中に詰まるところも多かったが、そういう時は日並に電話で相談をしたりした。
作中のヒロインがどう思うか、どう動くか、というところでよく詰まったので日並の答えは最適だった。
「夜にスマン、女の子って手を繋ぐ時ってどのくらいの親密度だと嬉しいんだ?」
『なに、口説いてるの?』
「いや小説の参考にしたくて」
『あ、はい。う~ん、やっぱり好き合ってる時じゃないと嬉しくないんじゃないな』
「わかった。あと告白される時にどんな言葉が嬉しい?」
『答えるの恥ずかしいんですけど! 私じゃなくて女の子としての一般論だとしたら、やっぱ直接ド直球が嬉しいんじゃない? 俺と付き合ってくれ、とか』
「ありがとう、俺と付き合ってくれ、だな」
『あ、ちょっと! そのまま使わないでよ!? ねぇ!聞い───』
そんなやり取りをした翌日に、部長のいない文芸部で日並と顔を合わせると、彼女は露骨に不機嫌そうな顔をしていた。
この一件が終わったらお礼とお詫びを込めてスイーツでも奢ろうと俺は思った。
土曜、日曜といつもなら無限に思えるような夏の休日は、小説執筆というやらなければならないことがあったおかげか退屈しなかった。
なんか先週もそうだったような気がする。
でもそうだ、そういえば小説を書くとだいぶ精神が参ってしまうんだった。
書き終わった後が少し怖かった。
いやしかし、よく考えたら本当にそうなんだろうか、とも思う。
あの時の疲れはもしかしたら熱中症のせいだったのかもしれない。
体調が悪いと気持ちも落ち込んでくるものだ。
結局、終わってみなければわからない、か。
自分のことだというのに、わからないことが多過ぎる。
どうしたもんかな、と俺は思った。
そんなことを考えながら俺は小説を書き続けた。
睡眠も取らずに書き続けて、完成するころには月曜の朝になっていた。
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