第21話 本題

 三限目の授業中。

 今になって、今週は部長が部室に来ないことを思い出した。

 放課後に会いに行こうと思っていたが、それでは会えないのだ。

 どうしよう。


 俺も部長に習って授業をサボって部長を探してみようか?

 どの教科の授業も覚えたことしか繰り返さないし、別にサボっても問題はない。

 だけど、肝心の部長がどこに居るのかがわからない。

 もしかしたら今はサボっていなくて教室にいるかもしれないし、サボってたらサボってたでどこにいるのかがわからない。


 俺は素直に部長に連絡を取ってみることにした。

 授業中に。


『少し話したいことがあるのですが今はおサボリ中でしょうか?』


 返事はすぐに来た。


『そうだね。おサボリ中だよ。なんだい、私に会いたいのかい? 愛の告白でもされちゃうのかな^^;』

『そんなわけないでしょう。どこに居ますか?』

『し、辛辣……少しは付き合ってくれてもいいんじゃないかい? ……保健室だよ。みんなには内緒でよろしくね』


 部長は文章だと意外とお茶目らしい。

 俺は教師にトイレに行くと言って、そのまま保健室へと歩みを進めた。


 保健室の扉をガラリと開ける。

 ツンと鼻に付く匂いを感じながら中を覗くと、保健の先生と見知った人物がそこには居た。


「や、奇遇だね。君もサボり?」

「部長。奇遇でもないですしサボりなのも知ってますよね」

「手厳しいね」


 保健の先生は俺と部長の会話に微笑みながら椅子から立ち上がってこちらを向いた。


「こんにちは。君は……二年四組の」


 柔らかい笑みを浮かべながら保険の先生は俺の顔を覗き込む。

 組と名前を知っていると言うことは、もしかしたら全生徒の顔を覚えているのだろうか?

 それだったら凄いと素直に思った。


「初めまして、かな? 一応全校集会とかで挨拶はしてるけど。私は東雲美崎(しののめ みさき)。よろしくね」


 その表情は保健員に相応しいように思えるほど優しいものだった。

 ここまで保健の先生にピッタリな人間もいないだろう。

 俺は敬意を込めて東雲先生と呼ぶことにした。


「文乃……あ、君の部長さんからよく話は聞いてるのよ」

「そうですか」


 部長を下の名前で呼ぶなんて随分と仲が良いんだな、と思いながら俺はベッドに寝転がり始めた部長を指差した。


「やっぱり常連なんですか?」


 東雲先生は困ったように笑って肩をすくめた。


「この時期に多いだけだよ。復習ばかりの授業なんてつまらないだろ?」

「この子、いっつもこうなの」


 自信満々に胸を張る部長と、呆れたように笑う東雲先生。

 仲が良い、と言うにはどうにも仲が良過ぎるように思える。

 不思議な人間関係だ。


「それで君は、どうして?」


 ぼけっと突っ立っていると、東雲先生はいつも使用しているであろう席に座った。

 隣にある椅子に手を向け、彼女は俺に座るよう促す。

 どうやら仕事モードに戻ったようだ。

 先程まで部長が座っていた椅子に座り、東雲先生の質問に答えた。


「そこの部長に話があったので、特には」

「文……佐々原さんに?」

「まぁ教師にトイレ行くって言ってそのまま保健室に来たんで怪しまれてるかもしれませんね。口裏合わせてくれると嬉しいです」

「あらら、結構ワルなのね」


 東雲先生はクスクスと笑うと、何かを書き始めた。


「今二年四組にいる先生ね。わかった、私から言っておくわ」


 東雲先生はペンを置くと「少し出てくるね」と言って保健室を出てしまった。

 恐らくは、担当教師に話をしに行ってくれたのだろう。

 それもついでに部長との話の為に席を外すという形で。

 正直ここまで協力的とは思っていなかった。

 こんな教師は初めてで、俺は心底驚いた。


 東雲先生を見送り、部長の方を見る。

 彼女は先程まで東雲先生が座っていた椅子へと腰を降ろしており、俺と向き合った。


「さて、じゃあ……」

「はい」

「本題に入ろうか」

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