FJ

レヴィナとジャハトが駐車場に着くと赤い布に被さったバイクが置いてあった。レヴィナは、垂れ下がる紐を引っ張ると萎んで、地面に落ちた。バイクに乗り、エンジンを掛ける。

ジャハトも真似してエンジンを掛けると、二人は同時にバイクの音を出しながら走って行った。曇った薄暗い景色をライトが軌跡を辿りながら進んでいった。

ジャハトはレヴィナと並ぶと銃のマガジンを装填し、ベルトに差し込んだ。レヴィナも同じようにした。「レヴィナ、お前はウイルスの駆除に集中していいぞ」ジャハトはそう言うと、ハンドルを強く握りしめ、アクセルを全開にした。スピードが上がると同時にエンジンの音が大きくなり、車体が大きく揺れ始めた。

レヴィナも後を追うとジャハトは、さらに加速させた。

ジャハトとレヴィナの乗る二台の車は、高速道路を走っていた。レヴィナは、ジャハトの指示通りに道を進んだ。ジャハトは、前を見ながら運転をしていたが、ふと、バックミラーを見ると、後ろに青い車が来ていることに気付いた。

「ゼロか?」

「いえ、ウィルスバスターです」ジャハトは、ハンドルを左に切ると、タイヤを滑らせながらカーブを走り抜けた姿にレヴィナは、驚いていた。「すごいテクニックですね」

「それはどうも」

ジャハトは、鼻で笑うと、またバイクのスピードを上げていくとレヴィナから距離を離してしまい、彼女は必死に後を追うように走ると、後ろからは車のクラクションが鳴り響いていた。「おい! そこの赤いウィルス! 重大な脅威として武装解除するぞ! 止まれ!」その言葉にレヴィナは、振り向くとそこには、運転席に座っている男の顔は、黒いサングラスを掛けており、白い歯を見せながらこちらを見ていた。ジャハトは、銃を片手で持つと身体を後ろに向いて車両に狙うと、引き金を引いた。銃弾が当たると車両は、バランスを失い、横転しながらガードレールを突き破っていった。流れ弾が顔の横に通過するとレヴィナは背を低くした。「ジャハトさん! 危なかったですよ!」レヴィナが怒鳴ると、ジャハトは、「ああ、そうだな」と言いながらも笑みを浮かべていた。「あの運転手、俺達を殺す気満々だったぞ? だから正当防衛だよ。まあ、あいつはもう死んでるけどな」と、彼は楽しげに話していた。レヴィナが目を細めて呆れていた。

「私が死ぬとこでしたよ」

ジャハトは、「ははっ、悪かったな」と軽く謝ると、レヴィナは、ため息を吐いて再び走り出した。

レヴィナとジャハトが走っていると、前方には巨大な壁が見えてきた。「あれは?」レヴィナが訊ねると、ジャハトはハハっとなにかにツボったのか笑い声を上げた。「この先は瓦礫とか障害物が多いんだよ」と、言いながらハンドルを切ると、そのまま勢いよく壁に突っ込んでいった。「え!?」レヴィナの驚く声を無視して、ハンドルを大きく回して車体を上げると、そのまま瓦礫の上を飛び越えていった。「嘘!? 飛び越えるの!?」初めて見た光景に驚愕すると、ジャハトは愉快そうに笑っていた。レヴィナは降りながらゆっくりと瓦礫の上に進むと、足を踏み外して落ちそうになった。レヴィナを見守るジャハトは、そんな彼女を引っ張り上げると、「大丈夫か?」と心配してくれた。「ありがとうございます」

礼を言うと、二人は先へと進んで行った。ジャハトが先頭で景色を堪能してると横にレヴィナがヒョコッと出てきて驚く反応をした。

「おや? こんにちは」ジャハトは笑顔を見せると、レヴィナも微笑む。「あなたも観光ですか?」ジャハトは、首を傾げると、「いや、違うね。俺は、ただの配達屋だよ」と言うと、レヴィナは、大笑いをしていた。「面白い人ね」

「そうか? お前と話すだけで文化遺産だけどね」

「それってどういう意味でしょうか?」

レヴィナは眉を傾げるとジャハトは知らないふりをして前に進んだ。「さぁね」と、適当に返事を返されると、レヴィナは顔をポカーンとして見つめていると、ジャハトは振り返り、「早く来ないと置いていくぞ」と急かすと、レヴィナは慌てて彼の後を追った。

二人はバイクを走るとバックミラーに緑色のバイクに乗った男が写っているのに気付いた。「誰だ?」ジャハトは、ハンドルを右に切ると、車体を傾けてカーブを走り抜けると、レヴィナも同じように曲がっていく。

しばらく走って行くと、徐々に近付き始めた。

「おや? レヴィナさん。あの黄色いバイクに乗ってるのは誰か知ってますか?」ジャハトが訊ねると、彼女は少し考えてから答えた。「確か、イーセットですね」

ジャハトがえーって垂れ流すと、アクセルを強く踏んでスピードを上げていくと、黄色く光るバイクは一気に追いついてきた。

ジャハト!?っと物凄い爆走でレヴィナは驚きの声を出すと、ジャハトは不敵な笑みを浮かべる。そして、彼は身体を左に曲げると、タイヤが擦れる音と共に後輪を滑らせてカーブを曲がりきると、後ろからはイーセットのバイクが迫ってきていた。

「レヴィナも捕まりたくなかったら早く来いよー」

ジャハトは、余裕の表情で煽ると、レヴィナはムッとした顔になりながらも必死に食らいつくように走っていた。

「ちょ! 絶対に許さん!」レヴィナは、怒りに燃えながらジャハトの背中を追いかけていた。すると、ジャハトがバイクを減速してレヴィナに並ぶとグッドポーズを向けてくると、彼女の頭に拳骨を落とした。「イテッ」と、声を上げると、「何するんですか!」と怒るが、ジャハトは涼しい顔で「俺より遅いのが悪いよ」と言い返すと、また走り出した。

レヴィナもすぐにギアを上げて追いかけ始めると、ジャハトを追い越した。だが、イーセットのバイク馬力が上回り、少しずつ差は縮まっていった。「うわっ!」とレヴィナの悲鳴が上がると、間一髪前輪の浮きを制御して何とか体勢を整えて事なきを得た。しかし、イーセットのバイクに追いつかれてしまい、ついに横並びになってしまった。

ジャハトは、ニヤリと笑うとバイクを傾け、アサルトライフルをイーセットの車体に向けて連射した。

銃弾の雨はイーセットの車体に当たり火花を散らすと、レヴィナが急いでハンドルを切ってかわしていく。

ジャハトは、バイクを立て直し、再び走り出すと、レヴィナは怒鳴った。

「それ止めてください! 危ないですよ!」ジャハトは、大笑いしながら、片手でハンドルを切りながら、もう片方の手では銃を乱射していた。

「ははっ、悪いね。でもこうしないと面白くないだろう?」

ジャハトは、口角を釣り上げて不気味に笑って見せた。

レヴィナは、呆れたような顔をして溜め息をつくと、ジャハトは、またバイクを走らせ始めた。「レヴィナ。もっと飛ばせるか?」「これ以上は無理です」「そうか」ジャハトは残念そうな表情を見せると、急ブレーキをかけた。「えっ!?」レヴィナは、慌ててスピードを落とすと、ジャハトは、レヴィナの身体を持ち、後部席に座らせるその瞬間だった。大きな音が鳴り響くと同時に、レヴィナの乗っているバイクが爆発し、炎上してしまったのだ。

「バイク破壊したの!?」

ジャハトは、炎に包まれたバイクを見て、満足そうに笑っていた。

レヴィナは、ジャハトの肩を掴み揺らす。

「会社の私物より私の命の方が大事なのですか?」

レヴィナの質問にジャハトは、平然な態度で答える。

「俺が何回人に砂をかけたか覚えるだけで、このCRSがサプリメントで栄養摂取してるのが分かる」ジャハトは、レヴィナの頭をポンと叩くと、レヴィナは理解出来ない様子で、首を傾げた。「いいか、よく聞け。全てのウイルスを倒せるのは君だけだ。だから、君はここで死ぬ訳にはいかない。分かったな?」ジャハトは、真剣な眼差しを向けると、レヴィナは静かに首肯いた。「聞きの良い奴だ。早速俺のテクニックを伝授しよう」ジャハトは、ハンドルを下まで回すと、徐々に速くなり、カーブを曲がっていくと、レヴィナはジャハトの背中にしがみつきながら目を閉じていた。

レヴィナは、目を開けて振り向くと後ろは10台ぐらいの車が並んで走っていた。ジャハトは、アクセルを更に強く踏み、一気に加速させると、車はどんどん引き離されていき、レヴィナはジャハトの背中で風を感じていた。すると、ジャハトがレヴィナに声をかける。「どうだ? 楽しいだろう?」レヴィナが、戸惑いながら答える。「そ、そうですね。楽しいです」ジャハトは、嫌々ながら微笑むと、またバイクを加速させ、トンネルに入るとバイクのライトを照らされる度に眩しく光り輝いていた。そして、バイクは勢い良くカーブを曲がりきると、レヴィナは驚きの声を上げた。「きゃああああっ!」すると、ジャハトが笑いながら言った。「どうだ、スリル満点だろ!」レヴィナは、ジャハトの危険運転行為に少し不満を抱きながらも、苦笑いを見せていた。「は、はい」ジャハトは、そんな彼女の様子を見て、嬉しさを感じた。バックミラーには銃弾が飛んでくるが、彼はそれを見越して避けていく。運転技術も一流で、ジャハトは、バイクから身を乗り出して後方に向けてアサルトライフルを撃ち放った。「ちょ!? 耳元で撃たないでください!」レヴィナは、ジャハトに怒鳴る。「おっと、悪いね」ジャハトは、すぐにバイクを立て直して走り出すと、バイクが揺れて、レヴィナの身体も左右に振られてしまった。ジャハトは、片手でハンドルを切ると、レヴィナは、必死にジャハトの身体にしがみつく。ジャハトは、楽しげに笑みを浮かべて、レヴィナの様子を伺っていた。

バイクの燃料を確認するとあと数センチで切れてしまい、トンネルの奥の光は残り800メートルぐらいになっていた。レヴィナは、もうダメだと諦めかけていたその時だった。

ジャハトは、アクセルを回し、スピードを上げ、残りの燃料を気にしながらバイクを走らせる。そして、ジャハトは、バイクのハンドルを切り、タイヤを滑らせ、トンネルを抜け出すとジャハトは検知されないようにスモークを張り付けた。

ジャハトは、バイクを急停止させると同時にレヴィナの身体は空中に投げ出されそうな所をジャハトが、片手でレヴィナの腰を掴む。その瞬間、青色のバイクは横に通り過ぎて走り去っていった。

ジャハトは、clearと言いながら笑顔を見せる。

「えっ……えぇ……」

困惑と声の震えが止まらない。レヴィナは、呆然としながら言葉を漏らす。すると、レヴィナの不安を和らげるようにジャハトは、言った。

「なかなか手強かったけど視野角はそんな広くなく、音波で敵を検知する。特に光には敏感だが、それ以外は無力だ」彼は、そう言うと再度バイクを走らせた。「ありがとうございます」と、レヴィナは礼を言う。ジャハトは、笑いながら答えた。

「音と光でまた追跡されるから省エネモードに切り替えるぞ」

そう言い終えると、バイクのライトが豆電球のように暗くなった。しかし、先程のような明るさはなく、目に直接入るようなほどではなくなっていた。レヴィナがそれに気づくと、「何をしたんですか?」と言いなから彼の顔を見上げた。ジャハトは、得意げな表情を浮かべながら言った。「さっきのが高性能バイクならこいつはローコストのバイクだな。無駄を省いて必要最低限の機能だけを搭載した最高のマシンだ」そして、彼は、ポケットから手の平サイズのリモコンを取り出し操作すると、バイクのエンジン音が静かになっていった。

「確かに、私の耳に優しい感じがしますね」と、レヴィナは言った。

「褒め言葉どうも」ジャハトは、親指を立てて褒めたたえると、バイクのライトが明るくなり、辺りを見回すと都心の近くが見えた。

「そろそろ着くぞ」ジャハトが言うとレヴィナは、目を輝かせながら景色を見ていた。

ネオンの光に彩られた都市が広がっており、夜でも活気に満ち溢れていた。

ジャハトはバイクに乗って道路を走っていくと、やがてあるビルの前へ到着した。それは、レヴィナが見覚えのあるビルだった。レヴィナが目をくりくりさせながら驚いていた。ジャハト達は、ビルの中へ入って行くと、エレベーターに乗り込み24階のボタンを押そうとするが突然目の前が真っ暗になった。

「システムを壊したのか?侵入者の防ぎ方が雑なんだよ」とジャハトは、愚痴を零していた。エレベーターが停止すること数秒後。扉が開くと同時にレヴィナがジャハトを押し退けて飛び出すと、目の前には武装した集団が立っていた。その集団の中には一人の男が立っていた。その男は大柄で髭を生やしており、屈強な身体をしていた。その男を見たレヴィナは、驚いたがジャハトは手帳を提示した。

「CRS元長官、ジャハト・ボブだ」大柄男は、手帳を見ると驚いた表情をしていた。「……お前が、あのジャハト・ボブなのか」大柄男は、ジャハトを睨みつける。

「何?俺って有名なの?」ジャハトは、嬉しそうにそう答えるとレヴィナはそんな会話を無視して大柄男を指差した。すると、その男は顔を引きつらせながら答えた。「当たり前だ!お前の事は忘れたくても忘れられねぇよ!」そして、その男はジャハトに向かって怒鳴り散らすように言う。「お前のせいで、私は死にかけたんだぞ!」それを聞いたジャハトは、興味がなさそうに答える。「ああ?知らねぇなぁ?」すると、大柄男が怒りの表情を浮かべてジャハトの胸ぐらを掴もうとする。だが、それと同時にジャハトはリボルバーを引き抜き大柄男の腹部に銃口を押し当てると同時にレヴィナが大柄男の手首を掴み捻り上げて床に押し倒した。男の叫び声が響いた瞬間、エレベーターから武装集団が次々と出てくると、ジャハトは冷静な口調で言う。「今のは正当防衛だからな」

男は怯えた表情を浮かべて、何度も首を振っていた。

だが、ジャハトは容赦なくリボルバーを男に向けながら言う。

「FJの研究者は何処だ?」そう聞くと、男が答えた。

「FJは……もう無い!壊滅した!俺は何も知らん!」その言葉を聞いて、ジャハトはニヤリと笑って言った。「嘘つくなお前」ジャハトは、リボルバーを向ける。すると、大柄男は怯えながら答えた。「ほ、本当だ!私の部下も全員死んだ!」その言葉を聞いた瞬間、ジャハトは軽蔑した目で男を見ていた。「嘘に決まってる。FJが壊滅なんてあり得ない」とジャハトは、リボルバーを額に突きつけると、男は叫ぶように言う。「本当だ!ある人達によって消されたんだ!信じてくれ!」男は涙を流しながら訴えかけるように言うと、ジャハトはリボルバーを下げて言う。「そうか、その人達の特徴は分かるか?特徴はなんだ?」すると、男は泣きながら言った。「黒いロングコートを着た男、ゴーグルをかけた男……」そして、男は言い終えると同時に気絶した。ジャハトは呆れながらため息をついてリボルバーを納めてレヴィナの方を向くと彼は少し笑っていた。レヴィナがジャハトに対して疑問に思った。「何故笑ってんの?」彼女は、不思議そうに質問すると彼は答える。

「すまん。ただ、可笑しかったから」

そして、彼は拳銃をしまいながら周りを見渡すと廊下の方に歩き出していった。

2人は廊下を歩いていた。レヴィナは、緊張した表情で歩いているがジャハトの方はとてもリラックスした様子で歩いていた。レヴィナが質問しようとした時、ジャハトは小声で言う。「静かに」そう言われて彼女は黙り込むと、彼は部屋のドアをゆっくり開けていくと、部屋は資料やら機械などが散らかっていた。ジャハトが、部屋を見渡すように周りを見ると一つの資料を発見できた。ジャハトが、それを手にすると、そこにはFJの真実についてと書かれた報告書だった。彼は、レヴィナに見せて彼女に言った。「お前が探しているものはここにあるかもしれないな」

ジャハトはレヴィナに資料を渡した。レヴィナはそれを受け取ると中身を確認すると驚愕していた。内容には、こう書かれていた。どうやらFJが壊滅したのは数時間前らしい。突然、一人の研究者が侵入し全員を始末したと書いていた。しかも、その男の特徴がゴーグルをつけ黒いローブを纏った異様な姿だったと言う。それと、もう一つ記されていた。何か特別な機械を持って去っていったと書かれていた。「特別な機械?何だろうか?」レヴィナは疑問を口にするとジャハトは少し考え込むような仕草をして答えた。「恐らくそれが目的だろうな……」その瞬間、部屋中に銃声が響いた。レヴィナが驚きながらも目を向けると、そこには拳銃を構えた研究員の様な男が立っており、その銃口からは煙が出ていた。それを向けられたレヴィナは、恐怖で震えていた。すると男はジャハトを睨みながら言った。「貴様ら……どうやって侵入した!?」それを聞いたジャハトは鼻で笑いながら答える。「この俺を知らないのか?」男がそう聞くとジャハトは答えた。最初はFJの研究員かと思ったがただの職員らしい。では何故、拳銃を持っていたのかは分からないが、何か重要な情報を持って逃げているに違いないと思ったジャハトは彼に質問する事にした。

「お前、何か重要な情報を持ってないか?」彼がそう聞くと、男は答える。「何も知らない!」ジャハトはため息をつくとリボルバーを取り出して男に銃口を向ける。その瞬間、銃口から火花が飛び散り男の眉間に穴が空き倒れこむ。それを見たレヴィナが思わず悲鳴をあげる。

「ポンコツロボット。演技が下手だぞ。お前の演技が下手すぎて笑えて来ちまうよ」そうジャハトが言うと、レヴィナは顔を真っ赤に染めて怒り出した。「失礼な!ポンコツじゃありません!」それを聞いたジャハトは腹を抱えながら笑っていた。そして、銃をホルスターにしまうとレヴィナに言った。「よし、じゃあFJの研究所に向かいますよ。ポンコツロボットさん」そう言い彼は部屋を出ていった。彼女はまだ、プンスカ怒っていたのか頬を膨らませて走って追いつこうとする。

場面が変わり、FJの中央管理所と呼ばれる施設に来ていた。ここには様々な機械があり、中央管理局がある。その中央管理局でジャハトはFJの研究者が残した資料などを調べていた。レヴィナも一緒にいるがあまり役に立たなかった。何故なら彼女は資料を全く読めなかったからだ。だが、彼が代わりに読もうとすると彼女は理解が出来なかったのだ。どうやら専門外らしかった。こんなコードを見て理解できない……いや、そもそも機械で作られてるから読めないのだろう。だから、ジャハトはレヴィナに言う。

「これはシーザー暗号。ただ文字をずらしてるだけで簡単だ」

彼女は必死に理解しようとはしていたが無理そうだった。それを見たジャハトは、彼女に無理すんなとだけ言った後、諦めて席を立つと調査を始めた。その最中、彼女は彼に対して質問した。「なんでそんなに必死になって調べるんですか?」すると彼は答える。「そりゃもちろん、FJを消した連中の情報が欲しいからだ」彼がそう言うと、レヴィナが聞く。

「その暗号知ってるなら何故読まないのでしょうか?」

「これはお前が読むべき資料だ。だから自分で解読してくれ」レヴィナがそう納得すると再び本を読み始めた。

レヴィナが資料を解読出来た頃、外は既に日が暮れ夜になっていた。そしてジャハトはやっと終わって伸びをしていた。すると、彼女は彼に聞いた。「終わったんですか?」すると彼は答えた。「ああ、資料整理で疲れた」しかし、そう言いつつ彼は作業を続けていた。その様子を見ていたレヴィナは言う事にした。「手伝ってあげますよ。暇なので」レヴィナはそう言いジャハトの手伝いを始め、数時間後やっと終わりを迎えた。その頃には、もう夜遅くになっていた。ジャハトは疲れ切ったのかグッタリした様子で言う。「流石に疲れた」それを聞いたレヴィナはクスクス笑っていた。

「笑うな。こっちは機械で作られてねぇぞ。生身の人間なんだ」「知ってました。それにしても……もうこんな時間……ですね」彼女が言うとジャハトは疲れた表情で答える。「もう帰って寝るよ。流石に眠い」すると、彼女は突然何か思いついたのか彼に近づいてきて言う。「じゃあ、送りますよ!」ジャハトはその言葉に驚き思わず聞き返してしまった。「へぇ〜わざわざこんな遠い所をか?」彼が言うと、彼女は目を逸らす。どうやら図星らしい。

さらに彼女は続けて言う。「だから送ってやりますよ」それを聞いた彼は鼻で笑い言う。「いやいや、いいよ!お前じゃ方向音痴で無理だろ?」そう言うと彼女はムキになって反論する。「そんなわけないでしょ!馬鹿にしないで下さい!」そう言って怒る彼女に対してジャハトはからかう様に言う。「じゃあ、一人で帰れる?外はウイルスだらけだけど?」彼はそう言うとソファーで横になった。レヴィナは憤慨しながらもジャハトを見守ることにした。

彼女は緊張していた。何故なら、外の世界はウイルスだらけの地獄だと聞かされたからだ。もし、自分が一人で帰ってウイルスに襲われたらと考えるだけで怖い。だが、それでも帰るしかない為覚悟を決めた。「じゃあ帰りますよ!」そう言った瞬間レヴィナは部屋の外に出ていた。それを見たジャハトは少し驚いている様子だったがすぐに笑顔になった。

彼女は堂々と入り口から出ていったのだ……数分後、彼女が戻ってきた瞬間ジャハトは腹を抱えて大爆笑していた。

「親の誠実さが見えてるぞ」彼は爆笑しながらレヴィナにそう言うとレヴィナは頰を膨らませて怒っていた。

「違います!貴方の為に真面目にやったんですよ!」

彼女はそう言いながら、ジャハトに言う。彼女によると方向音痴の自分が一人で街を歩くのは自殺行為だと思い、ジャハトの為を思ってやった事であるそうだ。それを聞いたジャハトはニヤニヤしながら言う。「ほう、意外と素直だな?」とジャハトがからかうように言った瞬間、彼女は顔を真っ赤に染めて叫んだ。「う、うるさいですね!」

そんな様子を目の当たりにした彼は背を向けた。「羨ましいな〜。親が居るやつは……でも、俺には居ねぇからよ……」彼がそう言うと、レヴィナは不思議そうな顔をして首を傾げる。ジャハトは続けて言う。「いやな、実は俺……親が居ねぇんだよ……」そう言った瞬間、彼女の表情が一瞬暗くなったように感じた。親が居ないことで。

しばらくの沈黙が走り彼女は驚いた表情で言う。「えぇ!?そうなのですか!?てっきり貴方の両親って仲悪いだけですかと思いました!」それを聞いたジャハトは少し苛立ちながら言う。「はぁ?何言ってるんだ?」レヴィナが説明する。「だって、貴方の顔と態度は親には見せれないじゃないですかー!だからきっと仲が悪いのかと思いましてねぇ」そう言いながらニヤリと笑う彼女に、ジャハトは言う。「いや、違ぇよ。俺は孤児なんだ。生まれてからずっと一人さ……俺を育ててくれたのは職員だったからよ」それを聞いた瞬間、彼女の表情は悲しくなった。それを見たジャハトは慌てて弁解する。「あ、誤解するな!職員は俺に優しくしてくれたんだぜ?いつも優しくしてくれてよ……それに親代わりだ。俺はその職員に恩返しがしたいんだ」彼がそう言うと、彼女は思い出すと胸が締め付けられるような感覚に陥りながら言う。「そう……ですか……」それを聞いたジャハトは不審に思い、問いかける。

「お前の親はどんな人だ?どうせ仲悪かったんだろうよ」と彼が言うと、彼女は笑いながら答える。「はい!父様は最低です!母様はいつもいつも、父様に注意してましたが……結局ダメになってました。特に私の教育に厳しくてとても優しかったんですが……ある日突然、行方不明になってしまいました」それを聞いたジャハトは少し黙った後彼女に言った。「そうか……で、お前の親父は?」と聞くと彼女は悲しそうな顔をしながら彼に言った。「父様も行方不明になってます……」それを聞いたジャハトは少し黙り込んだ後、彼女に聞く。「え?じゃ、どこに居るんだよ?」彼女が答える前に彼は言った。「で、結局一人なの?じゃ家族もいないのか」彼女は小さく首を縦に振った後呟いた。「はい……だから私は1人なんです……」それを聞いた彼はレヴィナが顔を合わせないことに怪しんでいたが、それは自分自身の問題も含んでいたからで、しかもそれは彼女には絶対に知られたくない事だったのだ。

「隠すな。行方不明なら何故探すという顔をしてないんだ?何故、探そうとしない?」彼がそう言うと彼女は目を伏せながら答える。「はい……それは……」彼は察したのか大きく溜め息をつくと彼女に言った。「そうか……だからお前はずっと1人だったのか……言いたくないことだってことは分かった。お前の両親は【死んだ】んだな?」その言葉に彼女は大きく驚いた。そして、徐々に涙を流していた。それを見たジャハトは心配そうに声をかける。「おい?大丈夫か?」すると、レヴィナは泣きながら口を開くと怒り叫んだ。それを聞いたジャハトは一瞬驚いた後、冷静に答えた。「そうか……お前の親はお前を置いて【死んだ】んだな?」そう聞くと彼女は泣きながら頷き続けた。彼は彼女の目から流れる涙を手で拭いながら言う。「親が死んで悲しいのか?それとも親に会えなくて寂しいのかよ?」彼がそう聞く。それを聞いた彼女は目を瞑り答える。「分かりません……ただ悲しさが込み上げてきて……気がつくと涙が止まらなくて……」と伝える彼女の目には大粒の涙が溢れ出し、それは次々と溢れ出してくる。だが、彼はそんな様子を見ても何も言わずに黙って見ていただけだった。しばらく沈黙が続いた後、彼は何かを感じたのか口を開く。「死ぬ遭遇はいつものことだ。まあ、運が悪かったのさ。お前に【同情】してんじゃねぇか?」そう言うと彼女は泣きながらも彼の目を見て静かに聞いた。「そうですよね……そうなんですよね」と彼女は自分自身に言い聞かせるかの様に何度も呟く。それを彼は黙って聞いていただけだった。その後、彼女は落ち着いたらしく、ジャハトから離れると頰を赤らめながら謝罪の言葉を口にする。「す、すみませんでした!取り乱してしまって……恥ずかしい所をお見せしました……」すると彼は静かに微笑みながらこう言ったのだ。

「この世界は死んでもおかしくない。それだけは覚えとけ」それはまるで、自分に向けて言っているかのように感じられた。だが、それでも彼女は彼に対して思うことが一つあり、思い切って伝えた。「あの……これからどうすれば良いのでしょうか?」すると彼は当たり前のように答えるのだった。「そうだな……取りあえずはFJの情報を見つけることだな。情報が一つもないと本格的な捜査が出来ない」そう聞いた彼女は少し戸惑ったが、彼についていくことにした。何故なら、今の自分には本当に何もないからだ。「分かりました。行きましょう!」そう元気よく答えると彼は笑顔で返す。それを見てホッとすると同時に少し照れくさくなりながらも心の中で言うのだった。(やっぱりこの人についていけば大丈夫そうだな……)と思った瞬間であった。二人はFJの捜索に向かうことになったのだが、その前にレヴィナが質問してきたのだ。

「FJの人を探すのですか?危険ですよ?それに、私が居ても足手纏いです」それを聞いた彼は真剣な眼差しで答えた。「大丈夫だ。FJはそんなに危険な人物ではない。むしろ、有益な情報を持っているかもしれん」それを聞いた彼女は驚きながらも質問した。「え?そうなんですか?でもなんで分かるのですか?」それを聞いたジャハトは答える。「いや、何となくそんな感じがしてな」と答えるので彼女は苦笑いしながらも言う。「何となく、ですか……まあ良いですけど……」と彼女が言うと、彼は言う。「そろそろ行くぞ」そう言って歩き出す彼の後に続く感じで歩き始めた。



数分後に目的地に着いた。

周りは静かで薄暗く、冷たい風が吹いていた。まるでホラー映画に出てきそうな雰囲気だ。二人は廃墟のような場所に足を踏み入れ警戒しながら進んだのだ。すると、ジャハトは呟くように話し始めた。「どうやら此処をFJが指定したらしいな……しかし……」彼は何か考え込んでいた様子だったが彼女は不思議そうに問いかけた。

「あの……どうかされました?」彼が黙っているので彼女はもう一度問いかける。「あの……どうかしましたか?」しかし反応が無かったので彼女は諦めて話しかけようとはしなかった。しばらく沈黙が続いた後、彼は口を開く。「ここだな」彼はそう言って立ち止まった。レヴィナも立ち止まって辺りを見渡すと誰も居ない事を確認する。しかし、本当にこんな所にFJがいるのだろうか?そう思いながら首を傾げる。

そこに居たのはFJではなく、見知らぬ男だったのである。その男はこちらをじっと見ていた。

「また会ったな、エモテット。また迷想か?」それを聞いた彼は顔を上げた。前髪は隠れていて口元しか見えない彼の表情が笑っていると分かった瞬間、ジャハトは怒りを我慢して答えた。

「……あぁ、そうだな。また会ってしまったな」男は掠れた地声の声でそう言うと男は嘲笑うかのように鼻で笑い言う。「貴様は何がしたいんだ?」突然の問いかけに困惑したが彼はいつもの調子で答えた。「世界の破滅を防いでいるのだが……」それを聞いた男は腹を抱えて笑いだした。その笑い声を聞くとますます腹が立ったのか彼は強い口調で言った。「何がおかしい?」それを聞いた男は笑いを止めると彼の方を見ながら言った。「いやいや……申し訳ないな……」ジャハトが苛立ちながらも必死に怒りを抑えていると、男が続けて言った。

「いや、FJが貴様を嫌ってるのがようやく分かってな」そう言うと男は再び高笑いまま聞いた男は言う。「何を言っているんだ?何で俺がこんな奴なんかに嫌われなきゃならないんだ」聞いた瞬間、ジャハトが答えた。

「まあ、貴様には分かるまい……俺も分からんからな」と不気味な笑みを浮かべる。それを見た男は何かを感じ取っていたのか、少し動揺したので隙ができてしまう。それを男が見逃す事なく、男の腕を掴み捻り倒すと彼を投げ飛ばした。地面に叩きつけられた男は驚きつつも冷静に観察したのだ。

余裕の笑みを浮かべながらゆっくりと立ち上がろうとする。その様子を見たジャハトは急いで駆け寄るように近づくともう一度投げ飛ばした。その後も攻撃を続けるが男は攻撃を避けず平然として立っていたのだ……。

「やはり、先制攻撃は苦手なようだね。また、貴様の攻撃パターンは分かりやす過ぎるよ」そして、ジャハトはニヤニヤと笑みを浮かべながらゆっくりと近づこうとした瞬間、男は身構えた。だが、男が近づいても攻撃を仕掛ける様子はなかった。それを不思議に思ったジャハトだったが、その後ろからもう一人の男がナイフを振りかざして襲いかかってきたのだ……ジャハトは振り返ると同時に攻撃を躱すとその男は距離を取る。「おいエモテット。仲間がいるのか?」

それを聞いたエモテットは答える。「あぁ、他にも居るぞ。なにせここの周囲は俺専用の罠が数え切れないほど仕掛けてある」

ジャハトは少し焦ったように問いかける。「な、何?何だと!?」その言葉を聞いた男は笑い始める。そして、楽しそうに話し始めた。「ふっ……面白いだろ?この電脳世界が貴様の墓場になっちまうとは残念だったな……」それを聞いたジャハトは怒りの表情に変わり怒鳴るように言う。「もう、良い!宣言する!自白するかその場で抹殺するか……いずれか選べと!」しかし、男は笑うだけで何も自白はしなかった。

「やってみろ。既にお前の能力は暗号化されてる。どうせ、暴けないぞ。それに、この周辺に既にジャハトウイルスを散布したからもう終わりにしよう……」そう男が言うとジャハトは悔しそうに男の顔を見て言う。

「何だと……暗号化?いつの間にウイルスを展開したんだ?俺をからかっているならやめておけ。俺はウイルスなんぞじゃ何ともないぞ」そう言うと勝ち誇ったかのようにニヤリと笑い始める……。

だが、男は何も反応しなかった。それどころか、不気味な笑顔を浮かべていたのだ。それを見たジャハトは驚くも冷静に分析し始める。(どういう原理だ?全く分からない……まず、暗号化するタイミング隙はなかったはずだ)

すると、男が話し始めた。「ジャハトウイルスをどうやって防いだのか教えてやろうか?」それを聞いたジャハトは即座に答えた。「いや、聞かなくても分かるぜ。どうせ自己解析プログラムでどうにかしたんだろ?」それを聞いた男は口角を上げると笑い始めた。それを見たジャハトは少し苛ついた表情でこう言った。「何だ?違うとでも言うつもりか?それとも、ウイルスの効果をまだ理解してないとでもいうのか?」それを聞いた男は笑い始める。「あぁ、そうさ」と答えた後、彼は話し続ける。「このウイルスはお前の行動が遅せえんだよ!遅すぎなんだよ!おかげで、こっちの準備は全て整ってしまったぜ!」

それを聞いたジャハトは悔しそうな表情をしていた。それを見た男は話を続ける。「まあ、このウイルスに感染すれば、即死のはずなんだがな……」ジャハトは不思議そうに問いかけた。「なぜだ?それに何故貴様は他のウィルスと比べてこんなに危険なんだ?」すると、男はニヤリと笑いながら答えたのだ。

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