特定
約15分が経ち、ドアを開くとレヴィナが立っていた。
二人はレヴィナの復活に喜びの声を上げた。「よかった、無事だったんですね」「ああ、心配かけたね」
レヴィナは笑顔で二人と握手を交わし、再会を果たした。
『いやはや、苦戦しましたよ。まさか成功するとは思ってもみませんでした』
「直してくれたことに感謝します」
レヴィナは職員に深く礼をした。
「レヴィナ。早く行くよ」
「はい」
ハマーナスが急かすと、レヴィナは小走りで彼女の元へ向かって施設から出た。
3人の沈黙が続き、ハマーナスは独り言のように呟いた。「この世界にウィルス……?」
「どうしたんだ? ハマーナス?何か知ってるのかい?」「いえ、なんでもないわ」そう答えると、また黙り込んでしまった。
大輝達はその様子を見ながら、ただならぬ空気を感じていた。
しばらく歩いていると、ハマーナスの小さな自宅に戻り、ハンナの様子を見てみた。
ハンナは寝息を立てて眠っており、起きる様子はなかった。
三人はリビングの椅子に座り、今後のことについて話し合うことにした。
まずは、この世界にウィルスが、侵入していること。そして、その犯人は誰かということ。
「何故、ウイルスがここに?」
大輝はその疑問を口に出したが、レヴィナはすぐに理解できたようだ。大輝の問いに答えたのはレヴィナではなく、ハマーナスだった。
「恐らく、私たちの世界で、ウイルスが暴走しているのでしょう」
大輝は驚きの表情を浮かべたが、すぐに冷静になり、言葉を続けた。
大輝は、ウイルスが、暴走していた場合の対処法を考えていると、レヴィナが口を開いた。
大輝の思考を中断させ、彼はレヴィナの言葉に耳を傾けた。
「犯人はこのサーバーを知ってる人。でも、こんなことができる人は限られてる」大輝はレヴィナの推理に感心しながらも、確かにそうだなと思った。レヴィナは続けて、大輝達に問いかけてきた。「大輝さん、この世界のことをよく知っている人物は誰だと思いますか?」レヴィナが質問してきたが、大輝は少し考えた後、答えを出した。それは、この世界を作り出した、あの男しかいないと。
「ジャハトか……?」
「有り得る答えだけど、このサーバーを探すのに苦労するけど? ジャハトは簡単には見つからないと思うけど」大輝の考えを否定したのは、ハマーナスだった。だが、ここで一つの疑問が浮かんでくる。どうして、ジャハトはここを探し当てることができたのかと。その疑問に気づいたのか、レヴィナが大輝に向かって言った。「おそらく、この世界に知ってる人物がいるのかもしれません」
レヴィナは少し考える仕草をした後、こう続けた。「大輝さん、この世界のことを詳しく教えてください」
レヴィナは、大輝達の知らない情報を持っているかもしれないと踏んで、質問をしたのだ。
大輝は、この世界の仕組みを、一から説明を始めた。
大輝の話が終わると、レヴィナは少し考え込み、ハマーナスは、自分の家にあるコンピュータにアクセスし、情報収集を開始した。
「まず、このサーバーに入れたのはアルのIDのおかげなんだけど……」
アルのIDのおかげで入れた? どういうことだ? 大樹は困惑した。
自分の存在がバレている事に恐怖を感じたのか?
なぜ、バレバレな行動が? レヴィナが、ハマーナスに質問をする。
「アルが犯人じゃないの?」「違うわ。アルのIDで入れるなら、ジャハトのIDで入ればすぐ見つかるはずよ」レヴィナは納得したが、大輝はまだ混乱していた。その時、レヴィナのポケットにあった携帯端末が鳴り響く。着信相手は、【アル】と表示されていた。レヴィナは、通話ボタンを押して、電話に出た。すると、電話の向こう側から、アルの声が聞こえてくる。
「もしもし? 今こっちはウイルスに侵入されてて大変なんだよ!」
アルは少し慌ただしい口調で話しており、どうやらウイルスに侵されているようだった。
レヴィナが状況を確認するために、アルに話しかけると、彼女は、このサーバーにウイルスが侵入している事を伝えた。大輝達は、アルの状況を理解した後、これからの対策を話し合った。
レヴィナが、アルに事情を説明してから、ウイルスの駆除ができるかどうかを聞いてみると、できると返事が返ってきた。
「最後に質問だけど、アルってこっちにウイルス呼び出したりしてない? それとジャハトにお手伝いとかしてないよね?」「えっと……やってないですよ。ジャハトは分からないけど」レヴィナが、念のために確認を取ると、アルは、ジャハトにウイルスを送った覚えはないと返答した。大輝達は、ウイルスの除去方法を考え始めた。ウイルスの弱点や特徴などを考えていると、大輝はあることに気づいた。
それは、ウイルスの本体はどこなのかという疑問だった。大輝は、アルにウイルスの本体について聞くと、アルは、ウイルスは、このサーバー内にあると伝えた。だが、ウイルスがどうやってこのサーバーに侵入したのかが分からなかった。大輝は、ウイルスが、どのように侵入してきたかを考えると、ある一つの仮説が浮かんできた。
レヴィナとハマーナスも、大輝と同じ事を思っていたようで、アルに質問をしてみた。だが、アルは、ウイルスの侵入経路については、何も知らないと答えた。
だが、アルが嘘をついている可能性があるため、大輝は、アルに、ウイルスの本体の場所を聞くと、アルは、サーバー内にいると伝えてきた。アルは、ウイルスの本体は、このサーバー内のどこかにいると言った。大輝達3人は、ウイルスの本体を探そうと、動き出そうとするが、アルが大輝達に待ったをかけた。
アルは、このウイルスに強い磁場を感じると言っていた。このサーバー内で強い磁場を発する場所があるらしく、そこがウイルスの本体だと推測する。だが、その場所を特定するためには、コンピューターに詳しい人間が必要だとアルは言う。
しかし、二人は全くの素人であり、大輝に至っては、ウイルスの知識すら持っていないため、特定は不可能だ。
出来そうな人物は、今隣りにいるハマーナスしかいない。
「ハマーナス、ウイルスの本体を見つける事は出来る?」
大輝は、ハマーナスに聞いてみるが、彼女は腕を組んで悩んでた。
「出来なくはない、でもかなり複雑で難しい」
「そういえば、レヴィナは、ウイルスの駆除方法は知ってるの?」
レヴィナは、ウイルスの駆除方法を知っていた。彼女の話では、ウイルスの駆除方法は、ウイルスによって違ってくるらしい。レヴィナは、ウイルスの駆除の仕方を知っているようだが、残りの半分は珍しく、スパイも居るため言えないそうだ。
すると、向こうから爆発音がし、煙が立ち込めていた。大輝達は、その方向に向かって走り出した。
辿り着いたのがやはり、蜘蛛の仕業でハマーナスは槍を構えて突撃していた。レヴィナは蜘蛛を見て気付いたことがあった。それは、この蜘蛛は、他の蜘蛛とは少し違い、倒す度に増殖し、大きくなっているということに。レヴィナは、ハマーナスに危険を伝えると、彼女もそれに気付いたのか、攻撃を一旦止めて、後退し始めた。すると、レヴィナは、何かに気づいたのか、大輝に指示を出す。「大樹! 今すぐここから離れて!」レヴィナが急に離れるように言った理由が分からなかったが、大輝は、言われた通りに離れた。そして、レヴィナは銃と剣を取り出し、勢いよく飛び出した。レヴィナが飛び込むと同時に、大輝達が立っていた地面が割れて、大きな穴が空いた。
ハマーナスは蜘蛛を倒すと、どんどん増えていく。
「倒しても無駄! 本体を潰さないとダメなのよ!」
レヴィナが叫ぶと、ハマーナスは攻撃を止め、急いで後退した。
「大輝、早く逃げるわよ」
レヴィナは、大輝を抱えながら、全力で走った。
後ろを見ると、巨大な蜘蛛が追いかけてきていた。
大輝は、振り返ると、そこには、巨大な蜘蛛がいた。
さっき見たより、何倍も大きくなっており、このままでは追いつかれるのは時間の問題だった。レヴィナが、大輝に話しかけようとした時、彼女は、突然止まった。「どうしたの? 止まると危ないよ」大輝は、止まっている彼女に呼びかけるが、反応がなかった。彼女が見つめている方向を大輝は見ても、何も見えなかった。大輝は、もう一度レヴィナに声をかけたが、それでも反応がない。大輝は、彼女を揺すってみようとすると、レヴィナがようやく我に戻った。「えっ? あっ、ごめんなさい」レヴィナが謝ってきたが、一体何を見ていたのかが気になった。「レヴィナ、あの蜘蛛は何者なの?」「イリアス自己再生型ウイルス。あれは、私達じゃ勝てない」イリアスは、蜘蛛がウイルスだという事を教えてくれた。でも、ウィルスは電脳世界しか存在しないのに、どうしてこんな場所にいるのだろうか。そんな事を考えていると、ハマーナスが路地裏に入り込み、身を隠した。外には蜘蛛の糸が大量に張り巡らされており、外に出る事が出来なかった。そのため、この場から離れる事が出来ないでいた。
大輝は、辺りを見渡すと、ハマーナスはPCを開き、何かを調べ始めた。「ねぇ、ハマーナスさん、この状況どうにかならないの?」「ちょっと待ってくれ」ハマーナスは、キーボードを打ち、調べていたが、途中で指が止まり、険しい表情をしていた。「これは、かなりまずいかもしれない」
「私の予想が正しければ、ここに居る全員が、死ぬ事になると思う」ハマーナスがそう言うと、レヴィナは、すぐに質問をした。「どういうことなの!?」レヴィナの問いに、ハマーナスは答えようとしなかった。だが、レヴィナは、彼女の腕を掴み、話を聞くまで放そうとしない様子だった。すると、レヴィナが掴んでいた手が離れ、ゆっくりと手を下ろした。「分かったわ。話すから」レヴィナは、納得してくれたのか、ハマーナスの口から真相が語られる。「このウイルスはあのジャハトより脅威になるウイルスなの」その言葉を聞いた瞬間、大輝達は驚き、そして、恐怖を感じた。今まで戦っていたウイルスが、ジャハトよりも強いという事に。ジャハトは、ウイルスの中では一番悪名高く、凶悪なウイルスだと言われているが、そのジャハトを超えるウイルスが存在するなんて。「ジャハトは、ウイルスの集合体で、ウイルスの核であるコアが存在し、それを破壊する事で、ウイルスを消す事が出来るのだけど、このウイルスは、ウイルスの集合体ではなく、ウイルスを合成して作り出すの」レヴィナの話を聞いていて、大輝は疑問に思った。「ウイルスを合成するには、ウイルスのデータが必要じゃないの?」「ウイルスのデータは存在するけど、ウイルスはデータがあっても、それを自分で作る事は不可能なの」つまり、ウイルスはデータを誰かから貰わない限り、ウイルスを作ることが出来ないらしい。
では、誰から貰ったのか。
「ジャハトが脅威的になる前、もう一人脅威的なウイルスが存在したの」ハマーナスは、一呼吸置き、話を続けた。
「それは、あの一言が最強のウィルスとなった。【ベストフレンド】」その名前を聞き、レヴィナは、頭を傾けた。「聞いた事があるような気がするんだけど、思い出せない」
「でしょうね。だって最初のウィルスだから。【ベストフレンド】は、ウイルスの中でもトップクラスの能力を持っている。それに、ウイルスには、それぞれランクがあり、下から順に【ノーロック】、【フェイク】、【ノートラエイエティ】と上がっていく。その中で、【アタッカー】は、最高ランクで、最も危険視されているの」
SSRランクのウイルスとは、かなり危険な存在だと分かると、大輝は、唾を飲み込んだ。「それで、そのウイルスが、どうしたの?」レヴィナが聞くと、ハマーナスは、説明を始めた。「もしかしたらそのウイルス、まだ生きてる可能性がある。進化し続けて」大輝達は、絶句してしまった。まさか、ウイルスが生きているとは思ってもなかったからだ。「ウイルスが生きていたら、どうなるの?」レヴィナが、恐る恐る質問した。「ウイルスは、人間を取り込み、更に強力になり、電脳世界を崩壊させる」ハマーナスの話を聞いたレヴィナと大輝は、青ざめた。
「覚えてないけど、あの時の光景は地獄絵図だった。道路や店は火の海になって、ビルやマンションは倒壊していた。死者の数は100万を超えた。ウイルスの名は、【ベストフレンド】」
「ウイルスは、今もなお、進化し続けてる」
大輝達は言葉が出なかった。そんな恐ろしいウイルスが存在していた事にも驚いたが、それ以上に、自分達がそのウイルスと戦う事になるなんて、思いもしなかったのだ。
「もし、この世界にウイルスが現れた場合、こちらのサーバーでしか協力出来ない。外部からこのサーバーでアクセスしようとすると不正アクセスに当たって、サーバーを遮断されたら、こっちはお手上げ状態です」
「じゃあ、どうすればいいの?」大輝の問いに、ハマーナスは答えられなかった。「私達が出来ることは、ウイルスを消すことしかない。その為に、外部とこのサーバーでアクセスするには自分専用のサーバーとIDとパスワードが必要になる」
ハマーナスは説明を終えるとレヴィナに褒められた。
「凄い詳しいですね。勉強しましたか? でも、どうしてウイルスの事を知ってたんですか?」ハマーナスは、苦笑いしながら答えた。「昔からの伝統は知恵と力で戦うのが得意なんです。ウイルスや動物などを倒すために、ずっと研究してました。その為に、何度かあえて感染して実験してたりしてました」ハマーナスの意外な一面を見たレヴィナは、驚き、そして、尊敬の眼差しを向けた。「ウイルスが居る場所って分かりますか?」レヴィナの質問に、ハマーナスは、真剣な表情で答えた。「ウイルスは、必ずある場所に潜伏する習性がある。電波が繋がる場所で、かつ人があまり居ない所。それがウイルスにとっては一番都合が良いからね」大輝達は、納得した。確かに、ウイルスは、人間が沢山いる所ではあまり行動しない。特に都会のような人が多い場所は、ウイルスにとって最悪だ。人の波に飲まれたら、逃げ場がない。それに比べ、田舎や過疎地では、人が少なく、ウイルスにとっても過ごしやすい環境だ。ウイルスが潜伏するのは当然だ。「特に喫茶店とか、ネットカフェなどは、よくウイルスが潜んでいる」
「じゃあ、今から行くのはそこかな?」レヴィナの予想に、ハマーナスは、首を横に振った。「外の世界だと特定したので、ウイルスの居場所を突き止めるのは容易だけど、先程も言いましたように残念ながらこのサーバーは遮断されてるので、侵入は不可能です」大輝は、落胆した。だが、まだ諦めていなかった。「分かった。作ればいいんだな」大輝の言葉を聞いた二人は、驚いた。
「無理ですよ。サーバーを作るには、それなりの設備が必要で、それを揃えるにはお金もかかります。しかも、作るには時間が掛かります」ハマーナスの言う通り、サーバーを作りたいと言って簡単に作れるものではない。「じゃあ、どうすれば良いの?」大輝の疑問に、ハマーナスは答える「もう一つだけ方法があります。自分でスパイウイルスを作成して、そこから外のサーバーに侵入してウイルスを探す方法なら可能かもしれません。しかし、これは、非常に危険で、バレたら、即刻逮捕されてしまいます。そうなると、もう打つ手がありません」ハマーナスの話を聞いて、大輝は考え込んだ。だが、すぐに決断をした。「俺は、やるよ。ウイルスを作ってみる」大輝は、自分の決意を口に出した。その言葉を聞き、レヴィナとハマーナスは、驚いた。「大輝君。本当にやるの?」「うん。俺が決めたことだ」大輝は、二人にそう言った。すると、レヴィナは、ため息をついた。「仕方ないわね。私も付き合う。一人で行かせるわけにもいかないし」大輝は、嬉しかった。だが、同時に心配でもあった。「ありがとう。でも、大丈夫なのか? レヴィナさんだって、ウイルスが怖くないのか?」レヴィナには、ウイルスがどんなものか知っているはずだ。それでも付いてきてくれるなんて、正直信じられなかった。「私は、貴方を信じてる。それに、私がここに来れたのは、きっと意味があると思うの」大輝は、少し考えてみた。確かに、レヴィナがここに来た意味は、あるかもしれない。「わかった。でも、気をつけてくれ」「えぇ」そして、大輝は、決心を固めた。「よし、やってみるか!」こうして、新たな戦いが始まった。大輝の勇気に感激したいが、
「すいませんが、私が使ってるPCでは、ウイルスの作成は出来ません。なので、例の場所に行けば出来ると思います」ハマーナスの案内で、三人はその場所へと向かった。蜘蛛から逃げる中、ハマーナスはハンナをおんぶして軽々スキップしながら走った。
「いや、速すぎるって……」
「仕方ないよ、身体能力が高過ぎるんだから……それより、早く追い付こう」
「あぁ」
三十分後
「着きました。ここです」
着いたのは、廃墟だった。
大輝達は、警戒をしながら建物に入った。「気味悪いな」大輝は、辺りを見渡した。壁には血の跡があり、床や天井は穴だらけで、とても人が住めるような場所ではなかった。「あ、ありました。ここの地下にあります」ハマーナスは、床蓋を開け、階段を見つけると地下へと降りていった。
「こんなところにPCがあるのか?」大輝は、不安になりながら、階段を降りた。
「あれです」
そう言いながらボロボロの木のドアを開けると、そこには、巨大な機械があった。「これがコンピューターか?」「はい。この中には、ウイルスが入っています」
「凄い。こんな物を隠してたなんて」レヴィナは、興味津々で見ていた。大輝は、少し疑問に思った。「何でこのボロい廃墟に隠してあったんだ?」「ここは、昔は研究所でした。しかし、管理者が亡くなってからこの施設は放置されました。人に見つからず、サーバーを設置するのに丁度良かったのです」大輝は、納得してうなずいた。そして、ハマーナスは、早速ウイルス作成に取り掛かった。「まずは、ウイルスの名前を決めないとな」レヴィナは、名前を考え始めた。「そうだな……。じゃあ、【カメレオン】でどうだ? 迷彩で透明になるウイルスだから」ハマーナスは、少し考えた。「ネーミングセンスがちょっと微妙ですね。まぁ、良いでしょう。それでは、ウイルスを作成します」そう言うと、ハマーナスは、キーボードを叩き始めた。しばらくすると、画面には謎の文字コードが見切れるほど大量に表示された。「凄い。全然読めない」大輝がそう言った瞬間、画面の文字が消えていき、最終的には何も映らなくなった。「これで完成しました」ハマーナスは、そう言った。「本当に出来たのか?」大輝は、半信半疑で聞いた。「はい。何とか感染せずに保存しました。あとはこのサーバーで、スパイウイルスと転送装置を圧縮して外のサーバーで展開すれば完了です」ハマーナスは、パソコンをいじり、起動させた。すると、画面には見たことのないマークが現れた。「ウイルスを外に出します」
そう言うと、画面のマークがエラー画面になった。「このマークは何なんだ?」大輝は、気になって質問をした。「あーあ、ホワイトハッカーが来ちゃった」
「えっ!?」大輝は、驚いた。「なるほど……私がハッカー目線になると絶望感を感じるな」ハマーナスが顔を手を当てるとレヴィナも焦っていた。
「ど、どうしよう。まさか、バレるとは……」「いや、大丈夫です。バレてません」
「そ、そうなの?」「はい。万が一に、向こうのおとりサーバーをハッキングしてブロックされても本体のウイルスを、外のサーバーに侵入さえすれば、こちらの勝ちです」ハマーナスは、冷静に説明した。「お、おう……」レヴィナと大輝は、少し安心した。「さてそれでは、『いってきます』っと」ハマーナスは、指で画面に触れたらロード画面になり、数秒後にウイルスが外へ侵入した通知が来た。
その瞬間、大輝は驚きの声を上げた。「うおぉお! SFの世界に来たみたいだ!」外を見ると、景色は真っ暗だった。しかし、遠くの方で光が見えていた。まるで、夜空に輝く星のように綺麗な光が。「すげぇ……これが電脳世界の光景か」ハマーナスが後ろを向き、急に歩き始めた。「どこ行くんだ?」大輝が聞くと、ハマーナスは振り向かず答えた。「ウイルスの潜伏先へ行ってきます。多分、ウイルスは私達を待ってるはずです」大輝は、心配そうにハマーナスを見た。「だ、大丈夫なのか?」「はい。それに、ウイルスを倒せば、私の任務は終わりなので」そう言うと、ハマーナスは走り出した。
「あぁ、また走ってる……速すぎだろ」大輝とレヴィナは、急いでハマーナスを追いかけた。
今日の仕事、只走るだけ。電脳世界 ウイルスの潜伏地 ハマーナスは、目的地に着くまでずっと走っていた。「速いな。追いつけないぞ」大輝は、息を切らせながら、必死について行った。「あ、見えました。あそこです」ハマーナスが、指を差すと病院の建物だった。背中の槍を抜いてそのまま突撃した。「おい、待ってくれよ」大輝は、慌てて追いかけたが、間に合わなかった。
病院の硝子を突き破り、中に入ると大量の蜘蛛の巣。槍を振り回し、構えると蜘蛛は飛び上がってきた。「はっ!!」ハマーナスは、素早く動き、蜘蛛を次々と斬り殺した。そして、階段を駆け上がり屋上に出た。そこには、巨大なウイルスが居た。「お待たせしました。ウイルスさん」ウイルスは、不気味な笑い声を出した。見た目は、蜘蛛のような姿だが、手足は6本あり、顔は骸骨で、口からは牙が生えていて、尻尾には鋭い針が付いていた。「やっと来たか。待ちくたびれたぜ」ウイルスは喋った。「貴方が蜘蛛のボスですね」「ああそうだ。俺の名はアルファ。蜘蛛の王だ」すると、背後から、無数の蜘蛛が出てきた。「部下を沢山連れて来なくても良いんですか? 私一人でも余裕ですよ?」「舐めるな人間。貴様如きに負けるほど俺は弱くはない」ウイルスは、両手を広げ、手を合わせると大きな爪が現れた。「この武器は、我が一族に伝わる最強の兵器。お前の身体を引き裂いてやる」ハマーナスは、槍を構え、攻撃に備えた。「さぁ、始めましょう」
戦闘開始!! アルファの攻撃を、素早い身のこなしで回避した。「危ない」
続いて、横回転しながらジャンプして、顔面を攻撃した。しかし、硬い皮膚のせいかダメージは無かった。「ふん。効かないな」アルファは、ニヤリとした。「まだまだ行きます」ハマーナスは、空中で一回転すると、足の裏に小さな光の粒子が集まっていた。「これは、光魔法。眩しい閃光」その瞬間、強烈な光を放ち、辺り一面を明るく照らすほどの輝きを放った。
ハマーナスは窓に飛び込むと、アルファは病院の壁ごと突き破り、外に出てしまった。「はははは! 目くらましとは考えたが、無駄だったようだな!」「いいえ。私の狙い通りです」
アルファは、ハマーナスの罠にはまっていたのだ。
「はぁ? 何も起こらねぇぞ! ふざけた真似を」足を踏むその瞬間、カチッと言う音が鳴り、爆発音が響いた。「ぐわぁあ!?」ハマーナスの作戦は成功した。爆弾を仕掛け、踏むと同時に爆破させた。ハマーナスは、既に伏せてたので、爆発の被害に巻き込まれなかった。「よし。成功だ」一方、アルファは、爆発により足が破壊され、バランスを崩す。「畜生……やってくれるじゃねえか……」「これで終わりです」ハマーナスは、強く足を踏むと、もう一本の槍を飛ばして掴む。そして、大きく振りかぶると、思いっきり投げ飛ばした。槍は、真っ直ぐと飛んでいき、アルファの腹部を貫く。「グハァア!!」アルファは、悲鳴を上げると、その場に倒れた。「うっ……。まだだ。こんなところで死んでたまるか」そう言うと、立ち上がろうとした。その時、アルファの目の前に、ハマーナスが立っていた。「残念でしたね。貴方に勝ち目はありません」ハマーナスは、ゆっくりと槍を抜くと、頭に突き刺す。「さようなら」そして、槍を蹴り下げるとアルファの身体を真っ二つにした。「ぐぅうううううう!!!!」アルファは、断末魔を上げながら、消滅した。ハマーナスは、槍を地面に埋め込んだ。
呆気ない試合によりレヴィナは、唖然としていた。「これが、中央安全処理機関の実力か。私も頑張らないとな」レヴィナが決意を固めていると、大輝はハマーナスに近付き、話しかけてきた。「お疲れ様です」大輝は、笑顔で挨拶をした。「ああ。ありがとう。君が居なければ人々は死んでいただろう」大輝は、首を横に振ると、こう言った。「いえ。貴方が勝てたのは、あのウイルスに勝ったからですよ。それに、ウイルスに勝つには、まずウイルスについて知ることが大事だと、私は思っています」大輝は、空を見て、ある事を考えていた。「ウイルスは、何故生まれたのか」大輝は、疑問に思っていた。ウイルスは、一体何処から来たのだろうか。大輝は、考え事をしていると、ハマーナスは、大輝に質問をしてきた。「君は、ウイルスについてどう思う?」大輝は、少し考えてから答えを出した。「ウイルスは、誰かに作られたのではと思ってます」大輝は、真剣な表情で話した。「やはり、同じ意見か」ハマーナスは、納得した様子で、言葉を続けた。「世界最初にウイルスの被害を受けたのは、ある科学者だった。彼は、学会でウイルスを作成するのに十分なプログラムツールを発表。しかし、発表後すぐにウイルスに感染し、行方不明になり、ウイルスが作られた。その後、ウイルスが世界中に広がり、ウイルスが作り出したウイルスが増殖して、今の状態になった」ハマーナスは、続けて話す。「だが、ウイルスを作った奴が居るなら、そいつが黒幕だ。我々は、そいつを見つけ出す為に戦っている」ハマーナスの言葉を聞き、大輝は、少し驚いた。「ウイルスの製作者を探し出して、ウイルスを止めるのが目的なんですね」大輝は、少し間を空けてから口を開いた。「俺は、この世界を守る為に来たんです。だから、俺もこの世界の真実を知りたい。教えてくれませんか? この世界がどうして作られたのかを」「いいけど、この情報は少なくて、間違った情報を話してしまう。それでも良いかい? 」ハマーナスは、覚悟があるかどうかを確かめるために、確認を取った。「はい。大丈夫です」大輝は、力強く返事をする。それを聞いたハマーナスは、語り始めた。
「今から約50年前はウイルスがなくて平和で幸せで楽しかった。40年続いたこの世界は主に軍事産業が盛んで、ウイルスが蔓延するまでは、兵器や武器などを作っていた。その5年後にある人物が多次元サーバーという物を作り、そこから外からのサーバーを受信することが出来た」大輝は、黙って聞いていた。「でも、このサーバーには欠点があった」それは何なのかと聞くと、「このサーバーは、外の世界にアクセス出来る。つまり、外の世界でウイルスを作れば、こちらの世界で受信して、感染する事が出来る」大輝は、理解すると、驚きの声を上げた。「そんな事が!? じゃあ、外の世界にはウイルスが沢山いるんじゃ」ハマーナスは、静かに首を縦に振った。「そうだ。だから、我々がウイルスを退治しなければならない。それが、我々の使命だ」ハマーナスは、説明を終えると、今度は、レヴィナが、話し始めた。「そういえば、最近、ウイルスが活発に動き始めている。恐らく、何か関係が有るかもしれない」レヴィナは、そう言うと、ハマーナスは、思い出したかのように喋り出した。「ああ。確か、ここ1ヶ月程で、急激に増えているな。何か原因が有るとしか思えない」大輝は、少し考えていた。「まさか、あの人が……
」大輝は、ある人物を思い出していた。大輝は、考えた。もし、ウイルスが活発になったのが、ウイルスを作った犯人が……その時、足音が聞こえ、振り向くとアルとジャハトが居た。「おやおや? CSPAの人達じゃないか。こんな所で何をしているのかな?」アルは、ニヤリと笑いながら、二人に向かって言った。「貴方がウイルスなのにアルと一緒に居るのですか? 」レヴィナが質問をした。「まあまあ。落ち着いて下さいよ。レヴィナ。確かにジャハト財団として、ウイルスの私とアルが一緒に居るのは、変かもしれませんね」ジャハトは、両手を広げ、まるで何もしていないような素ぶりを見せた。「しかし、ウイルスは、ウイルスを殺す事が出来ますから、別におかしくはないでしょう」ジャハトは、平然と答えた。皆が思ってる予想とは違った答えだった為、少し戸惑っていた。ジャハトが指揮してウイルスを操ってると思っていたからだ。「じ、じゃあ、何故、サーバー管理者のアルが、ウイルスのジャハトと共に居るのでしょうか」レヴィナは、少し間を開けてから、こう言い放った。「私は、謎のウイルスを倒すためにジャハトにお願いされて、ここに来ました」大輝は、驚いていた。「えっ? 」大輝は、声を上げてしまった。
謎が深まるばかりであった。
大輝は、少し考え込んでいた。「どういうことなんだろう?」大輝は、疑問に思っていた。ジャハトが、ウイルスなのに何故ウイルスを退治するのか、大輝が考えてる時ハマーナスは、口を開いた。「アル。お前は何故ウイルスと仲間になった?」アルは、少し間を空けて、ゆっくりと語り始めた。「私はウイルスを倒すために作られた組織ですよ」アルは、少し笑みを浮かべると、ハマーナスは腕を組んで納得していた。「なるほどな。そういうことだったか」アルは、続けて喋りだした。「私も最初ジャハトさんが本部に来て驚きました。サーバーを乗っ取るつもりかと思いきや、ウイルス退治の依頼でした。最初は、断ろうと思っていましたが、説明が嘘じゃなくてソアラさんも一緒だったのもあって引き受ける事にしました」「でも、どうしてウイルスのジャハトさんが、一緒にいるのでしょうか」レヴィナが、不思議そうな顔をして聞くと、ジャハトは呆れて、少し怒り気味に喋りだした。「そんなに疑うなら捜査記録に全部乗ってあるよ? 資料320ページまであるけど読むか?」ジャハトは、そう言うと、レヴィナは、慌てて謝った「す、すみませんでした」大輝は、その言葉を聞いて、少し驚いた表情をしていた。「でも、ウイルスを退治するなんて、凄いですね」レヴィナが褒めるようにアルをほめると、少し照れ臭かった。「ありがとうございます。でも、殆どウイルスを退治したのはジャハトさんですから、ジャハトさんの方がもっとすごいと思います。それに、私はさんには、いつも助けられてばかりで……」アルは、謙遜するように手を横に振っているが、どこか嬉しさが溢れていた。「元CRSの俺がここで何をやってるかと言うと、ウイルス退治をしている」ジャハトは、自慢げに話し始めた。「そうだったのか……なんか疑ってごめんなさい」大輝は、申し訳なさそうに頭を下げた。すると、アルは笑顔で気にしないでと言った。「大丈夫ですよ。それより、皆さんに報告したい事があります」アルは、真剣な眼差しで大輝達を見つめながら言った。大輝達は、アルの言葉を聞き逃さないように耳を傾けた。
「実は、最近、ウイルスの潜伏と感染が当時と比べて格段にレベルが上がっています。今までは、ウイルスを作成して人間に投与したり、データやプログラムを壊したり
でしたが、最近では、ウイルスを合成、強化、自動化、侵食などが出来るようになってます」大輝は、それを聞くと、少し焦っていた。「え!? ウイルスの感染力が上がっているということですか?」アルは、大輝の質問に答えるように、首を縦に振り、肯定をした。「はい……申し訳ございません……」「あいつが使用したとされる制御装着を解読したらCSPA全てのコードをメモ帳に書いてあった」ジャハトは、少し笑いながら言った。「何者なんだ?」大輝は、少し考えていた。そして、少し不安が込み上げてきた。「もしかしたら、本気でこの世界を支配しようと考えているのかもしれないかもな」ジャハトは、少し不敵な笑みを浮かべながら答えた。「でも、どうやって?」レヴィナは、ジャハトに聞いた。「それは分からないが、もし奴が本気だとすれば、恐らくこの世界だけではなく、全サーバーにも手を出すと思う」ジャハトは、真剣な顔で考え込むと、レヴィナは、それを聞いて、少し怖くなった。「そ、そんな事されたら……」「全サーバーが停止して本格的にウイルスによる支配が始まるだろう」レヴィナは、それを聞いた瞬間、少しゾッとした。
大輝はそれを聞いて何かを思い出した。あの時、玄関を開けたらあの面接の人が包丁を持って立っていた。その時の恐怖が蘇ってきた。あれがハッカーなのか? 大輝は、あの女について写真を取り出し、質問してみた。
「なぁ皆――この女知ってる?」大輝は、写真で、例の女の写真を表示した。
「誰ですか?」アルは、不思議そうな顔をしていた。
「あぁ、そいつは確か馬鹿男の部下だ。名前は知らんが、見たことはあるぞ」ハマーナスは、思い出したかのように話した。「私も一度お会いしました。ウイルスを支配するもう一人の支配者です」レヴィナは、少し緊張しながら喋った。「え? じゃああの時いたのはこいつか!? でもなんでこいつがここにいるんだよ!」大輝は、その事実を知って驚きを隠せなかったが、少し疑問に思っていた。ハマーナスはその女について説明を始めた。「そいつは確か、FJの研究員で、主にプログラムを作成する仕事をしてたはずだ。でもある日、急に姿を消したらしい」大輝は、少し考えた。「なるほどね。だから、東京に潜んでいたのか」大輝は、納得がいったような表情でうなずいていた。「東京にいた理由はよく分からんけどな」「そうか」大輝は、写真をポケットに戻した。「とにかく、この女はハッカー集団の一人というわけだ。だからまだ研究員の可能性もある」ジャハトは、冷静に分析をしていた。「そうですね。その可能性は十分にあると思います」アルは、ジャハトの意見に同意するように、うなずくと、ジャハトは、ニヤリと笑って言った。「よし、なら俺に任せてくれ。俺が今から潜入捜査してくる」ジャハトは、自信満々に言い放った。大輝は、それを聞くと、ジャハトを止めようとした。「ちょっ! 危険すぎますよ!」ジャハトは、大輝の話を無視して続けた。「大丈夫だって。俺は元CSPで、ウイルス退治の専門家なんだよ?」ジャハトは、自慢げに胸を張って言った。大輝は、ジャハトを止めるのを諦めた。「分かりました。お願いします」ジャハトは、ニッコリと笑みを浮かべると、すぐに真剣な顔に戻った。隣で手を挙げる姿を大輝は向くとレヴィナが真剣な眼差しを向けていた。「私が行きましょう」レヴィナは、立候補すると、他の人達は
反対した。しかし、レヴィナは、「これは私の任務です。それに、戦闘任務での単独行動は、命のリスクが伴いますのでチームでの任務をすべきですよ」と説得をした。「分かった。では、レヴィナ、お前に任務を任せる」ジャハトは、渋々と了解をした。「ありがとうございます」レヴィナは、礼を言うと、早速準備に取り掛かった。「レヴィナさん、くれぐれも気をつけて下さい」レヴィナは、心配する大輝に笑顔を向けた。「はい、行ってきます」
レヴィナは、駐車場の地下に駆け走りジャハトも後をついてくように走っていった。大輝は、その様子を黙って見つめていた。そして、不安そうな表情で呟いた。「頼むぞ、レヴィナさん」
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