イン ファクトH

八戸三春

DCSサーバー

テレビ番組、BAGの放送中、記者からCSR長官ミル・グリップの生活と将来を質問した。


隣に座る席に司会者と本人の姿が他愛もない話をしていた。


本人は昔の若造時代は細マッチョで整った髭と男らしさのセットが、彼の理想としたイケメンだった。今は54歳で、オールバックな髪型だけど、お腹が目立つように見え、眼鏡を掛けていて少し男らしさとは程遠くなった。


そんな記者から笑顔で彼の質問をしていく。


『現役時代はどんなことをしてきたんですか?』と聞くと、 彼は答えた。「若い頃から仕事に励んできた。私の夢は人類を進化させる為に働いていた。私はある科学者の助手になりたかったのだが、私にはまだ技術が無かった。その為、CSRの調査員として仕事をすることになった。今の仕事は、人工知能開発だ。人間と変わらぬような人格を持つことが出来るAIを創造することが目標だ。私が思うにAIに自我が生まれるには、人間の数億倍のデータが必要だ。それを達成するまで私は死ぬつもりはない」記者が『その夢が叶うことを祈っております』と言ってインタビューを終えると、「任せてください」と微笑みながら握手ヲシダ後言った。


視聴率15.1を叩き出したこの番組は後にCSRの巨大さを世間に知らしめることに繋げるのであった。


CSRA CONNECTED INTERNET PROJECT(CSR サイバーネットプロジェクト)は世界中のCSR傘下の組織と、CSRが管理運営するネットワークを連結させた、超高度情報化社会を実現することを目的とした組織である。CSRAは世界のインターネット通信網を統轄し、サイバーテロから守るための国際機関だ。しかし、サイバーテロは年々増加しており、サイバー犯罪の取り締まりは警察だけでは対処出来ない状況となっていた。そこで、CSRAでは、サイバー犯罪専門の特殊部隊を設立し、世界各国の捜査機関と連携して犯罪者を逮捕することを目指している。また、サイバー攻撃に対する防御策の強化にも力を入れており、各国のセキュリティーホールを突くハッカー達に対抗する為、新たな防衛システムの開発にも取り組んでいる。


私達が普段何気なく使用してる家庭用パソコンだが、OSというプログラムによって動いている。これは言わば機械の心臓部分だ。このプログラムを作るのはプログラマーと呼ばれる人達である。しかし、コンピューターの世界は日々進歩している。新しい機能が追加されると、プログラムの修正が必要になる。例えば、マウスを動かすプログラムがあるとする。これを作る場合、ただプログラムを書き換えれば良いのではなく、各ボタンの位置を入れ替えたり、クリックする強さを変更したりする必要がある。このように、プログラムを変更する際は、一度全てを消去して作り直す必要があるのだ。そして、新しく出来たソフトウェアは、元となったプログラムと全く同じ働きをするとは限らない。バグと呼ばれるものが発生することがある。つまり、ウイルスに感染してしまう恐れがあるのだ。ウイルスは感染すると厄介なことになる。ファイルを破壊したり、個人情報を抜き取ったりする。最悪の場合は命を落とす危険性もある。


ミル・グリップは、それを対策し、次元サーバーセキュリティという通称【DCS】を開発した。


皆が、知らないでOSを触ってるのは実は別サーバーでウイルスを監査してるからだ。名前の後ろに国名が付いてたら、それは貴方が今住んでる国のこと。この仕組みのおかげで、安全で安心な生活を送ることが出来るようになった。


では、もし違うサーバーが攻撃されたらどうなるのだろうか? その答えが今回の物語だ。


整った白い壁一面のオフィスは、心地よい場所の中、中田大樹はいつものことながらSEでのんびりと作業をしてた。


今日、ハンナは休みでいないので一人で黙々と作業していた。


『中田さん。また今回のセキュリティの件から依頼が来てますよ』


「分かりました」


今回の依頼はプログラム設計の見直しだった。


これが中々大変で、エラーとバクも理解不能なプログラム言語のせいで発生してしまった。


そのせいで、仕事量が増えてしまった。


今回はこの辺にして、明日から作業をするため、定時で帰ることにした。夕方の5時なのにまだ明るい外を見て、俺は呟いた。「疲れた」


帰り道の途中、コンビニで飲み物を買って帰ることにした。


「ありがとうございました」


レジ袋を持って店を出ると、缶コーヒーを見て思い出した。あの後ハンナの家でゲームをして飯を食ってたな。飯は青魚類の缶詰とパンだけだったけど、美味しかったな。「あいつ大丈夫か?」そう思いながら歩いてると、いつの間にか家に着いた。鍵を差し込んでドアを開けると、そこには見慣れない靴があった。


誰かいるのかと思いながらリビングに入ると、仮面を被る赤い髪の女性が、床にぶっ倒れていた。「おい! しっかりしろ!」「うっ……


ここは……」仮面の女性は起き上がった。よく見ると、女性には首輪のようなものが付けられている。俺に気づいた女性は驚き、宙返りして2階の窓から逃げて行った。「何なんだ? 泥棒か? いや、でも荒らされた痕跡ないし、それにあの人どっかで見たような気がするんだよな」俺は少し考えたが、気にしないことにした。「まぁいいか」


翌日、朝早くに目が覚めた。「ふわ~」欠伸をしながら体を起こし、ベッドから出てカーテンを開けた。「眩しい」太陽の光が部屋に入ってくる。「今日もいい天気だ」窓の外を見ると、近所の人がジョギングをしていた。「おはようございます」挨拶をすると、向こうも笑顔で返してくれた。「さて行くかな」服を着替えた後、顔を洗い歯を磨いて、朝食を食べずに家を出た。会社に行く途中、公園の横を通ると、ベンチに座ってる人がいた。昨日の仮面を被った人と同じ髪型と服装をしている。「あっ」やっぱりどこかで見た顔だと、近づいて声をかけた。「ちょっとすいません」仮面の人は振り向くと、逃げて行こうとした。「また逃げた……待ってくれ」追いかけようとするが、足が速く、すぐ逃げられてしまった。


何で顔を見て逃げたのか理解ができなく、少し悲しくなった。


「何か悪いことでもしちゃったのかな」


会社に着くと、自分の席に座り、パソコンを開いた。


30分を過ぎ、時計を確認する瞬間、ハイヒールを急いで鳴らす人物は、「遅参いたしました!!ご容赦くださいませ!!」


と走って来て、大声で謝りながら深く礼をする姿はハンナ


だった。『お、おう……次は気を付けてね』と、上司は返事をした。「はい、次からは遅刻しないようにしますので、これからもよろしくお願いいたします」と、頭を下げて、自分の席に戻った。その時のハンナの顔は、いつもの凛々しい表情ではなく、少し眠たそうな目だった。そんな顔に少し違和感を感じながらも、俺は作業を始めた。


「よし、これで終わりっと」作業が一段落したので、背伸びをしようとした。


「んーっ、全く分からないよ」


隣からハンナの声が聞こえたので、横を振り向いた。「どうしたの?」「あ、大樹さん。実はここのプログラムが分からなくて」「どれ見せて」と、ハンナのパソコン画面を見た。「これ研修でやったよ?」と、指を指して教えた。「え、そうなんですか?」


「そうだよ? ちゃんと覚えよう?」


と、優しく注意する。「はい……頑張ります……」と、眠たそうに答えてくれた。


ハンナの行動に違和感を感じ、心配する。


「大丈夫?体調とか悪かったら無理せず休むんだよ?」「は、はいっ」と、笑顔で答えるが、まだ様子がおかしかった。それから1時間後、昼休憩になったのでハンナを連れて近くの定食屋に入った。注文を済ませた後、俺は質問してみた。「どうしたの? 元気無いけど?」「いえ、特に問題はないです」「本当? なら良いんだけど」その後会話は無く、お互い頼んだメニューが運ばれてきた。ハンナは鯖味噌定食を頼み、俺は親子丼を頼んでいた。一口食べてハンナの方を見ると、ご飯をじっと見つめていた。「どうしたの? 美味しくなかった?」「美味しいですよ?」


ハンナの発言が何か誤摩化してるような感じがした。


俺は少し考えるが、気にせずに食べることにした。昼食を終え、会計をして外に出ると、空を見上げると雨雲が浮かんで、小雨が降っていた。「雨だ」と、傘を出そうとする時、女性の悲鳴が聞こえた。俺はすぐに走り出し、その先に向かう。するとそこには、巨大な蜘蛛が暴れており、人々は逃げる。それを見届けてから女性を探すと、ビルの陰に震えている姿を見つけた。俺も急いでそこに向かった。そして後ろを向き、「危ない!」と叫んだ。女性は恐怖に駆られて腰を抜かし、動けないでいたのだ。それを見て巨大蜘蛛は大きな脚で、彼女を潰そうとした。間髪を入れず「させるか」と、前に出て、女性の身体を持ち上げ、間一髪避けることができた。そのまま地面に下すと、怯えながら抱きついて来た。「ありがとうございます!助けてくれて」「無事で良かったです。危ないので早く逃げてください」


と、伝えると、泣きながら礼を言いながら走って行った。


目の前の蜘蛛を見上げるが、武器もないし勝てるわけもない、逃げようと思った瞬間、発砲音と共に、大きな蜘蛛は、頭から煙を出しながら倒れた。「大樹さん、お怪我はありませんか……?」と、ピストルを持ったハンナが、心配そうな顔で近寄ってきた。彼女の顔は赤くなり、フラフラしながら倒れそうになった。「おいハンナ!?」慌てて駆け寄り、肩を支えた。


「大丈夫かいハンナ」「大樹……さん……すいません……」と、弱々しく言う。ハンナをおんぶして、安全な場所に連れて行き寝かせた。その間蜘蛛が追いかけて来てはハンナの銃で何発も撃つと弾切れになり、足を挫いて転び、蜘蛛は目の前に止まって、食べようとしてた。ハンナは足を動かせず、諦めかけた時に、俺が飛び出し、盾になる為、腕で受け止めた。しかしあまりの威力に吹き飛ばされ、壁に激突する。意識が薄れていく中、ハンナは必死に手を伸ばす。


「駄目……死んじゃ嫌だよ……。起きてください、お願いだから……!」涙を浮かべながら必死に叫ぶ声が聞こえると、雨を弾く音がし、飛び上がる姿を捉えると蜘蛛の頭上に槍を刺し、「貫け」と言うと、一瞬で頭を真っ二つにした。近付き、仮面を外すとハマーナスの顔が現れる。


「助かりました……ハマーさん」「気をつけてね」と、笑顔で言う。


「それにしても、ハンナは強いのに何でこんな目に合うの?」と聞くと、少し暗い表情で答えてくれた「私、昔からよく体調が悪くなって倒れることがあるんです……医者にも原因は不明と言われていて……でも今回は今まで以上に悪くて」


ハンナが話すとハマーナスが説明する。


「何処からかのウイルスが体内に入ってしまったかもしれないね。恐らく、イリアスかも」との事だった。


「イリアス? 何故人間にも感染するんだ?そもそもイリアスは人間のデータはないはずなのに、どうして分かるのか」と質問をすると、少し間を空け「イリアスは、制御装置に侵入して感染する。だから、人間にも同じ制御装置、いわゆる神経細胞がある。そこからウイルスが侵入したと考えられるんだ」と説明した。


「成る程……」俺は理解したが、まだ納得は出来なかった。それから少しの間沈黙が続いた。雨は強くなり、雷の音までしてきた。ハンナが立ち上がろうとすると痛みが走ったらしく「痛っ」と声を上げる。するとハマーナスが支えて歩き出した。「とりあえず移動しよう。雨で身体が濡れたら大変だ」俺とハマーナスは一緒に歩いた。「そういえば、何で俺の顔を見て逃げたの?何かあったの?俺が怖いとか」するとハマーナスは顔を赤らめて答える。「いえ……私あまり人と話しかけられるのに慣れていないので、その、恥ずかしくて」俺はそれを聞いて笑みがこぼれた。「ふーん、可愛いね」と言うと更にハマーナスは顔が赤くなった。


しばらく歩くとハマーナス専用段ボールハウスがあり、そこでハンナを、寝かせた。


ハマーナスはウイルスを消滅するため、一本の太いコードとその先端の細い針を首に注射した。ハマーナスが、ノートpcを開き操作をしていると、ハンナは苦しそうにしている。「大樹さん……助けて……」とハンナは言ったが、俺にはどうすることも出来ずただ見ている事しかできなかった。しばらくして「終わったよ」とハマーナスが言うと、安心しきったのか眠ってしまった。ハマーナスはハンナの手を握っている。


「凄いな、どうやって直したの?」と聞くと、


「コード内に電磁波とコマンド用自動装置に人間の神経細胞を送って、ウイルスだけを消去した」と丁寧に説明してくれた。「そんな技術があったなんて」「私も失敗したら治らなかったけど、自動コマンドが上手く作動してくれて良かった。これでもう大丈夫だと思う」と言うと「ありがとう、感謝してる」と笑顔でお礼を言う。「いいえ、当然のことだよ」と言いながら照れくさそうな様子を見せる。


その時「うぅ」と、ハンナは目を覚ました。


目が覚めたことに気付くとハマーナスはハンナに質問する。


「何時からウイルスに感染した?どこで感染したかわかる?」すると、申し訳なさそうに答え始めた。「あの、いつから感染していたの分からないんです。気づいた時には既に遅くて、私、昔から病気になりやすいので多分そのせいかなと」


ハンナは弱々しく言うと、ハマーナスは注意をした。


「少し遅かったら神経が麻痺する可能性が合って危険な状態だった。異変に気付いたら直ぐに知らせるように。分かった?」と聞くと「分かりました。ごめんなさい」と返事をする。すると突然「あっ!」


ハマーナスは大きな声を出すと、慌てて槍を布で巻いて出かける授業を始めた。俺は不思議に思い、話しかけようとする。


「何故そんなに慌ててんだ?」


「レヴィナだよ! 何かレヴィナ特有の気配がするんだ」


慌てながら話す。


「レヴィナ特有の気配?どういうこと? レヴィナは死んだんじゃなかったの? それとも生きてるのか?」


俺は困惑しながら質問する。


「いや、レヴィナが死んだのは間違いないはずだ。でもこの世界にまだ生きているような感覚なんだ。しかも近くに感じるんだよ」ハマーナスは必死で訴える。「おいおい、本当か!? 嘘じゃないよな!?」俺は驚いていたが、少し嬉しかった。「あぁ、だから急いでるんだ。もしレヴィナだとしたらまたウイルスの被害が広がる前に始末したいから」と言って走る速度を上げた。「ち、ちょ! 待ってくれ! 速いって!」


俺も付いて行こうとするが中々足が動かない。ようやく着いたと思ったら、地下駐車場だけだった。


ハマーナスが周りを見渡す。「あれ? 確かに居る筈なんだけど……」


隈なく探して言っていた。


俺は疲れていたのか座り込む。「くそぉ〜何だったんだよ一体……」


ハマーナスの方を見ると慌ててる様子だった。


「レヴィナ……」


悲しげな声を漏らす。「まさか……死んでたのか……」


俺はそう思うと涙が零れそうだった。


すると、ガラクタの音がアスファルトに当たる音がし、振り向くと壁際にレヴィナが床で倒れ込んでいた。


その姿は見るも残酷で腕と足が、コードがむき出しながら今にももげそうな状態で転がっている。


よく見ると、コードの一本の部分が千切れているのが見える。その部分だけが他のコードよりも長く伸びている。まるで、レヴィナが生きているかのように……。「レ、ヴィーナ?」俺は恐る恐る声を掛けると、砂嵐とピーっというアラートが鳴った後に、聞き慣れた声に聞こえる。「だぃ……き……く……」「え、なんて言ったの? 全然聞こえない」


何か言ってたが、ノイズとザーっと鳴る音のせいで聞こえなかった。ハマーナスはレヴィナの手を見ると星型の装置を持ってあった。


「空間転送装置を使ったのか……」そう言いながら近づき、首筋を見るとコードと部品が焼け爛れて痛々しい姿になっていた。「酷い火傷だ、よく耐えてられたね」ハマーナスは驚きながら聞くとレヴィナを抱きかかえて移動する。「ここらへんにAI研究施設があるはず」「そこを辿れば着くんだな?」俺は真剣な眼差しで言う。「多分」そう話している間にレヴィナは苦しそうにしているのに気付く「おい、どうした?大丈夫か?」俺は焦りながら声をかける。「早く回収して施設に行くよ!急ごう!」ハマーナスはそう言うと走って行く。その後を追いかけながら「お、おう!」と答えて付いていく。




そして研究所に着き、白衣を羽織る男性は最初、混乱してたがすぐ案内され、着いたら3人の職員にレヴィナを預け、待機するよう言われた。




長い心配と共に言われたのが、まだ研究段階のプログラムである事。


それがAIに与える負荷の大きさについて。


最悪、命の危険を伴う。と言うものだった。


「少し大人数で大掛かりな手術を行えば治せるかもしれないです」と研究者の一人は言う。


俺は不安になりながらも、任せることにした。


ハマーナスを頼みます。と一言伝え、部屋を出る。

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