黒は白に戻れない

羽入 満月

黒は白に戻れない

 高校に入学してはや二ヶ月。

 俺には気になる女子がいた。


 彼女は、大人しい子でだからといって根暗とかではなかった。

 話しかけられれば答えるし、楽しそうに笑ったりもする。


 ただ、反応が薄いのだ。


 初めは反応が薄いのは、話しかけられたくないとか、嫌いなのかとか思ったが、よくみていると基本無表情のように見えて、表情はよく変わることに気づいた。


 笑っているときに大口を開けて笑うのではなく、微笑なのだ。

 怒っているときは、早足で歩くなどパターンが解れば、なんとも分かりやすいこだった。


 ある日の放課後、偶々帰り道が一緒になった。


 しかし、これまでの会話の回数が少なすぎてなんと声をかけるべきか。

 そんなことを思っているとふと前を歩く彼女が振り返り、目があった。


 とりあえず、声をかけよう。


「なんだ。奏多さんもこっちだったんだ」

「…原田くん、だったよね」

「あぁ、覚えててくれたんだ」


 そんなことを言いながら横に並ぶ。


「奏多さんはさ、何て言うか、こう、物静かな感じだね」


 出てきた言葉は、他になかったのかと思うほど薄っぺらかった。


「よく言われるね。そういう原田くんは、元気だね」

「ああ、それだけが取り柄みたいなものだからね」


 話ながら、ただ歩く。

 部活は?数学苦手。私は歴史。


 そんなことを話ながら歩いていると、分かれ道まできた。

 そこで、じゃあ分かれるかと言うときに、俺は今まで気になっていたことを聞いてみた。


「あのさ、奏多さんって人付き合い苦手?」


 その質問に今までコロコロ変わっていた (付き合いのない人には、そうは思わないだろうが) 彼女の顔がたまに見せる本当の無表情になった。


 目から光がなくなった。


「面白くもないはなし、聞く?」


 そういって語りだした話は、まるでドラマに出てくるかのようないじめの話だった。

 それをただ、淡々と、まるで他人事のように話した。


「それは…辛かったね。」


 月並みの言葉を投げ掛けると彼女は、薄く嗤った。


「辛かったねぇ。ふふ、最近さ、ニュースで『いじめを苦に自殺した』って騒がれるようになったでしょ。だからさ、私も死ねば良かったなって思うの。死んで騒がれた方のが、楽なような気がするよ?」


 首をかしげるしぐさはかわいらしいけど、言った内容は、可愛らしくもない話だった。



 中学生がこの世界から、逃げ出す一つの方法を取ったとして、残った人達の責任の押し付け合いをして、ただ人間の醜さが露見する世界となるだけだ。


 耳触りの良いことをいくら言ったところで、一度黒になったものは、どれだけ白を足したって、二度と白には戻れないのだから。


「そんなことを言わないでよ。もし、そうなったらこうして同じクラスになって出会えなかったかもしれないだろ」


 困った顔で答えれば、


「そうだね」


 そう、彼女は笑った。

 それからは、いつもの彼女で、別れの挨拶をして分かれる。


「「さようなら」」



 このあと、二度と会えなくなるかとも思ったが、そんなことはなく、何時もの日常がただただ続くだけだった。


 死ねば良かったと思う同級生の闇がなくなることがないにしても、この世界も捨てたものじゃないと思えるように、ただ、明るく元気に振る舞おう。



 それだけが取り柄だから。

 俺に出来ることは、これくらいしかないのだから。

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