第14話 散華
その噂はグレストーンの街中にすぐに広まった。
『代官が軍を引き連れてくる』
皆がその噂を信じた。やりかねないと誰もが思った。偵察に行った者たちが、揃ってその兆候とも言えるものを見て帰ってきた。街に住む民はすぐさま荷物をまとめて逃げ出した。残った兵も同じように逃げ出し、この街に残ったのは変わり者の兵と民だけだった。
「残ったやつらの数はどれくらいだ?」
ウォルターは聞いた。今では彼がリーダーだ。残った兵は彼に従った。皆似たような者で、既に顔馴染みばかりだった。おかげで指揮系統を構築する手間はほとんどいらなかった。
「三百そこらかと」
「……多いと見るべきか少ないと見るべきか」
「多いと思いますが」
確かにその通りだと思ったウォルターだったが、
(足りないな)
どれだけ少なくとも千は来る想定だ。それ対し三百ではあまりにも心もとない。城壁のおかげで街の防御力は高いが、建物だけで乗り切れるとは思わない。
(やはり将を討つしかない)
まともにやっても勝ちが目ない。発想を逆転させるほどのアイデアが必要だ。ウォルターは頭を悩ませた。
「そういやあいつは?」
「誰のことでしょう?」
「ピンク髪の目立つ容姿のやつだ」
「ああ。その者でしたら――」
兵が指した先には、「カロリーカロリー」などと言ってお菓子を頬張っているアリアの姿があった。
「あいつ……」
貴重な兵糧である。ゲンコツでもくれてやろうかと思ったが、ふと気づいた。
(いや、俺が間違っている)
この戦いにおいて、後のことなど考える必要がどこにあるだろうか。耐えてどうなる。これは防衛戦ではない。ウォルターはその結論に至った。
「――ここにいる皆、他のやつらにも伝えてほしいことがある!」
注目が集まったことを確認し、続ける。
「今から好きなものを好きなだけ食え! だが酒はほどほどにしとけよ!」
驚きの声が上がる。
ウォルターは笑って見せた。
「最期の食事となるやもしれん。どうせなら最高の働きをしようじゃないか」
威勢の良い返事が上がった。勢いは街中に伝搬した。
各々好きなものを口に詰めていく。
ウォルター自身も肉にかぶりついた。皆それぞれが久しぶりに美味い飯を食ったと満足そうだった。
(思うに、俺は決断するのが遅かっただけだったな……。亡き我が主よ、命令に背くことをお許しください。俺は騎士の心を失うことを恐れすぎてしまっていたのです)
心が定まると、笑みが湧いてでた。獰猛な笑みである。どうせなら代官の首でも狙ってやろうか。ウォルターがそう考えた時に、先ほど欲した逆転の発想が現れた。
(そもそも守る必要がない、とうことは)
どうせ守り切ることも出来ないのに、時間だけ伸ばすことに何の意味があるだろうか。
「なぁ、途中でわざと門の一部を開けるというのはどうだ?」
「……え?」
「おびき寄せた後に、囲って叩いてしまおう。雑兵だけ入ってくるってことはない。そして将の代わりはそうはいないはずだ。上手く行けば混乱させれる。その後は突っ込んで死ぬだけだ」
兵は困惑した。一度門を開けてしまえば、次に閉めるのは恐らく自分たちじゃなくなるとの予測がある。
「……豪胆というべきでしょうか」
「開き直りだろうな」
死に方を考えている。どう死ねば己が納得するか。どうせならカッコいい方がいい。
反対の意見はついに出なかった。
しかし、不運というべきか、彼らは領都の情報を知らない。王子が来ていることなど考えもしない。長引かせればそれだけでも勝機が出ることを。
いずれグレイストーンから逃げ出した兵や民から、領都に様子が伝わるだろう。だが、情報統制は必ず行われる。となれば、逃げ出した民の命運は怪しくなる。
それを知らずに戦えるウォルターたちは幸運というべきだろう。
◇◆◇
夕暮れ時、領都からグレイストーンへ向かう街道。
馬上の男は不満を押し堪えていた。
金色の髪が、オレンジ色の光に当てられ発光する。頬にも当たるわずかな熱すら鬱陶しく感じていた。
「っち……」
腕が良い剣士だからといって、将としても能力が高いというわけではない。
軍を任されたエドガーはとにかく気に食わなかった。
エドガーは自分のことを剣士としてしか認識していない。どこ行って誰を斬るか。それが受け取る命令のはずだった。
しかし、今エドガーは一千の兵を率いている。横には弟子のベイン。後方には代官のローワンもいる。攻めと守りを一千でこなさなければいけない。酷い話である。敵の数も予想出来ない。どれだけ多くてもこちらを半数を超えることはないとのことだが、正直なところ手がまったく足りない。
この地に来て、まださほど経っていないエドガーにとっては、この領に指揮官級の人間が少ないためお前がやれという辞令は驚きそのものだった。
――どうしてこのような……。
これを貧乏くじと言わずになんと言おうか。極めつけは、己の役目だけ伝えられたが、その意図は告げられなかった。政治的要因が濃く出てるのに、詳細は知らされない。
――まるで道具だな。
自嘲しながら進んでいくと、やがてグレイストーンの壁が見えてきた。
「どうなされますか?」
指示を出さないエドガーに近くの兵が聞いてきた。『知ったことか』と言いたいところをぐっと我慢して、
「二つに分ける」
と、事前に言われている作戦を伝えた。杜撰な作戦だった。
グレイストーンには門が二つしかない。そのどちらかの門から伸びる大きな道が、街の中心を通ってもう片方の門と繋がっているため、街を二分するようにな形となっている。
というようなわけで、前と後ろの門を封鎖して攻め落とせ。これが伝えられた作戦未満の作戦だった。後は工夫しろということだったが、この数でどうやれというのだろうか。剣士として生きてきたエドガーにとっては無理難題に等しかった。
「どちらかの門を落とせれば、そのまま侵入。残りは封鎖だ」
事前に伝えられた通りに、言った。
展開後、銅鑼の音が鳴る。
鬨の声。兵たちが号令に従い、街の中を震わせんがごとく声を上げる。
攻城戦が始まった。
「こうして見ると、やけに高い壁だな」
見上げる程に高かった。
はしごはとても届きそうになかった。城門を外から打ち破るしかない。
しかし、城壁の上から浴びせられる矢や石、城門は鉄扉で恐ろしく固い。鐘を鳴らすように木の杭を打ち付けるが、轟音を立てる以上の効果はなかった。
後方で待機していたローワンがエドガーの元にやってきた。
「何をしている!? このままでは日が暮れるじゃないか!」
エドガーはムッとした。そもそも部下ですらない。
「見ての通りですよ。どうにかしようにも物資も兵も足りない。何か手があるなら聞きたいくらいですが」
ローワンは言葉に困った。
「……これは早急に終わらせなければならないのだ」
「理由等は一切聞かされていないので、私から何とも言えませんな。とはいっても、このまま囲っているだけで勝てると思いますがね」
「だから、それではマズいのだ。何としてでも早く落とさなければならない」
「しかし、どうしろと?」
「預かった兵の返還に関しては特に言及されていない。全て擦り潰れていいから何とかしろ」
「命令に従わなければいけない立場は辛いですな」
エドガーは兵を見渡した。
ローワンもこれが簡単だとは到底思っていない。しかし、与えられたものでやらなければならない。敵の数の少なさを頼んでの攻城戦など、悪夢に違いないが、それでもやらなければならない。
「馬鹿者、そんなの私であっても同じだ。私も命が懸かっている。夜通しでも何でも攻撃させるのだ。どうせ向こうの兵数は百もいればいいところだ」
「……そう言われるのであれば、そうしましょう。――貴方の命令としてね」
エドガーの最後の言葉。ローワンは察知した。こいつは失敗した時の言い訳にこれを使うつもりだと。
「――いや結構だ。反対側の門には私が直々に伝えに行く」
この時二人は、互いに、政敵に近い関係になったことを理解した。
ローワンは馬車を走らせた。やらなければいけないから、やる。それだけだった。自分の功績を確保するために、自分自身も動く必要があった。泥水なら散々すすったし、すすらせてもきた。こういう時に必要とするものは、聞こえの言い訳でも戦果でもない。報告相手に、こいつを優遇すれば今後とも得し続けるだろうと思わせることだ。
ローワンの乗る馬車が、反対側の裏門まで移動していく。肥満体型もあり、彼は馬には乗れない。
裏門では、ベインが指揮している兵たちが、同じ様に鉄扉に苦戦していた。
ベインは表門にいたはずのローワンの姿を見て、驚いた。
「――どうされたのですか?」
「詳細は後だ。とにかく、ここから攻め入ることになった。そういうことだからどうにかするんだ」
「どうにかと言われてもですねえ」
門に視線をやるが、未だに破れる気配はない。人的損耗は軽微だが、疲労は見える。そろそろ休ませないといけない。しかし、
「……え? 夜通しですか?」
「そうだ。相手も疲れるだろう。そこを突くんだ」
たしかに夜であれば視界が悪くなるために、損耗は防げる。だが、それを今ここで行う意味がベインには分からない。数日かければ落ちるものだというのに。
「これは命令だ。いいな?」
「……了解です」
状況が好転しないまま、夜の帳が降りた。
城壁の上の松明がやけに目立つ。
「……本当にやるんですよね?」
ベインは念を押した。
「当たり前だ。可能であれば今日中に終わらせたい」
エドガーは天を仰ぎ、目を閉じた。思うことを出さないために視界を閉じたのだ。
(この戦いを主導している者は、よほど戦いというものを知らないらしい)
そう思わざるを得なかった。実際には軍人上がりの領主だったのだが、政治的要因で無茶を要求している。その無茶をさせられる方はたまったものではない。
(俺達には責任はない。それならいっそ失敗しちまった方がいい)
退却するのが自分たちにとっての最大の利益である。ベインは負け方を考え始めた。
だがその時、異変が起きた。
兵の叫ぶような報告。
「――門がっ、門が開きました!!」
目を凝らすと、確かに門に腕一本分くらいの隙間が出来ていた。
鐘のように打ち鳴らされる門が鈍い音を立て続け、ついに人が通れるだけの空間が出来た。
「嘘だろっ」
驚くベインだったが、ローワンは激していた。
「何をしている! 早く突っ込むぞ!」
ベインはすぐに伝令を出した。
「表門に伝えろ。裏が抜けた。これより突入する。よって、封鎖を頼む」
「はっ!」
伝令の兵は馬で駆けていった。
(しかし、これはどうなんだ?)
戦場で疑念は死に繋がるが、勘が鈍くても生き残れない。
(だが罠にしては大胆過ぎる)
幸運だろうが罠だろうが、どちらにしても夜の市街戦になる。簡単な戦いは有り得ない。もし相手方が夜になるまで意図的に待っていたとすれば、――そう考えているベインの視界に、白く派手な馬車が前に進んでいくのが見えた。
ベインに選択肢はなかった。ここで行かなければ、勝ち負け関係なく死罪だ。
「――行くぞ!!」
ベインと隷下五百の兵は門に目がけて突っ込んだ。
抵抗もなく、そのまま街の中央の大通りを兵が駆けていく。
が、
「敵がいない……?」
その不審さに軍が止まった。目標は敵の軍を倒すことにある。しかしその敵がいない。街に入れば勝利だとするのは間違っていた。
――罠だ。
これは夜陰にまぎれて攻撃されることをさとった。
ベインは外の兵にも入ってきてもらうかどうか迷った。だが、絶対的な厳命として、ただの一人も逃がすなと命令されている。
(やるしかない)
考えてみれば、率いている兵は精鋭だ。そして恐らく数も勝っている。
「固まって動け! 同士討ちにだけ気をつけて、味方以外は全て斬り伏せろ!」
兵たちは複数の小隊を組み、街中の路地に入っていった。
それを、闇に潜み待ち構えていたウォルターたちは、
――本番だ。
と、心を奮い立たせた。
闇夜の白兵戦。剣戟の音が鳴った。
続いて、叫び声、雑踏。鎧の音。
各地で湧き起こっていく。
「っく、こいつら、かなり――」
「くそ、精鋭部隊を持ってきやがったか」
戦況はウォルターたちに大いに不利だった。
闇の中、自身も戦っているウォルターは、作戦の失敗を覚悟した。
「う、ウォルターさん、後ろっ!」
振り向くが、もう避けられない。迫り来る剣は、致死の剣と化していた。
――だったら道連れにしてやる。
覚悟を決めた時、己に斬り掛かっていた兵が崩れた。
「なっ」
本来不釣り合いなはずの、血に濡れたその様は、今まで一番しっくりとする姿だった。
「大丈夫?」
慣れた手つきで、頬に付いた血を拭う少女は、まさしく特異というべき存在だった。
その特異が闇の中、跋扈した。
血桜が一方的に舞い、屈強な兵たちが倒れていく。
「気の毒だと思わないわけでもない。けれど、これは恐らくお互い様なんだろうね」
石畳の地面に赤い染料を散らしていく、一人の少女。
その染料は、まるで空から降り注いだがごとく、各所を染め上げていく。
「ま、お互い様といっても私は除くのだけど」
この戦闘の中で、待っていることしか出来ない者たちがいた。
ローワンたちである。五百の兵のうち、三百が攻めに行き、二百はローワンの護衛としてベインと共に残っている。
兵士たちは、各地から上がり続ける断末魔に対し、味方のものではないことを祈ることしか出来ない。
ローワンは馬車から出ると、しきりに兵に状況を聞いた。戦況が分からず、優勢だとは思ってはいつつも不安で堪らない。
「その代官様っ、矢など飛んでくる可能性があるので」
「分かっておる! その危険の上でこうして聞いておるのだ!」
「し、しかし……」
付き合わされる兵らは不運としか言えなかったが、まさか攻めに行った兵たちの方が不運だとは思いもしなかっただろう。
少しすると、静かになった。
やがて人影の集団が見えてきた。
その集団は、一人の男を先頭にぞろぞろと、ローワンのいる中央に現れた。
先頭を行くウォルターは、見当ての人間を見つけた。
「――いい顔が見えた。豚のような顔だと思っていたが、今日はゴブリンくらいには良く見える」
中央で待機していた兵の誰もが、状況の不利をさとった。味方が負けたのだと。
「お、お前たち! ――そいつを」
ローワンは言い切る前に、馬車に引っ込んだ。命の危険は充分に理解していた。理解していたはずだった。だが今は、恐怖に身が震えた。どうしてこなったのか分からなかった。ただ突き動かされるように動いただけだ。
――逃げるべきだ。
街の外にはまだ味方の兵がいる。逃げ切れるはずだ。そう思った。だが、
「あの馬車だ! 後はどうでもいい!」
「おう!」
死の宣告が聞こえてきた。
戦闘が始まる。
ローワンを守る兵士たちは動揺していた。先行した味方が負けたことの衝撃と、その理由が分からないことに。
兵を率いるベインは判断を下さなければならなかった。人数の有利は分からなくなり、士気も危うい。
――だが、俺がいる。
ベインは馬車周りに兵を固めさせ、自分一人だけ前に出た。
「来るならかかってこい! だが、誰一人とも寄ることすら出来ないと思え!」
味方の士気を煽るように、檄を飛ばす。
ベインの出した結論は簡単だった。
――俺が斬ればいい。
ベインは構えた。
一騎討ちを誘った。
敵味方問わず、勝敗を揺らす天秤がどこにあるか、分かった。
応じるようにウォルターが前に出た。
大剣を掲げると、踏み込んだ。
「うぉぉぉ!」
元は領主を直に守る護衛兵である。その動きは一級品だった。力強い踏み込み、身体の姿勢、バランス、体幹。お手本のような体捌きだった。
だがウォルターの剣が届く前に、ベインの斬撃が腹部をエグった。ウォルターは奥歯を噛み締めた。
「こんなものっ」
と、気合いで一歩踏み出すも、傷が深く、心に身体がついていかずに崩れ落ちた。
ベインは見届けると、周りを見回した。
「……他にはいるか? いくらでも付き合ってやるよ」
周りの味方が怖気づいたのを、ウォルターは地に伏しながら感じ取った。
――踏ん張りどころだ。
血がにじみ出る程に剣の柄を握りしめ、地面を押すようにして上体を起こす。
「おいおい無理はしない方がいいぜ。あんたの傷は浅くねえはずだ。動けば死ぬぜ」
「……死よりも優先することがある。俺がここで立ち上がらないということは、許されない」
膝を起こし、地面に剣を挿し、杖代わりにする。
立ち上がった。
「なるほど、加減は無礼ってことか。礼儀としてトドメを刺そう」
「そういうことだ、剣士よ」
ウォルターにとってこれはただの一騎討ちではない。自分が負ければ士気は下がり、味方全体が敗北する結果を呼び込むことになるだろう。
そう思いながらも、もう自分が勝てないことをさとっている。
――それでも。
やらなければならない。見ている仲間にこの生き様を見せつける必要がある。この先を少しだけでもマシにするために――。
そんな神聖とも呼べる一騎討ち、その中に乱入する者がいた。
ウォルターは肩を優しく叩かれた。
「力を振り絞るのはちょっとだけ後の方が良くない?」
そう言い、ウォルターの前に立った濃い桃色髪の少女。その身体は、おびただしい程の返り血に濡れている。
「……お前」
「もっと斬りたいやつがいるんじゃない?」
アリアは馬車をみやる。ウォルターは否定出来なかった。
諒解を得たと受け取ったアリアは、ベインに剣を突きつけた。
「ってことで、やろうか」
「ああ、俺はいいぜ。存分に楽しもうや」
「――悪いけど、すぐに終わる。太刀筋も一度見てるし」
前進するアリア。阻むようなベインの斬撃。
アリアは前進を止めないまま、弾いた。
再度、ベインのエグるような斬撃。
――芸がない。
今度は弾かずに、剣を添え、身体ごと前に流した。
「なっ――」
至近距離。
アリアは、ベインの腹部を押し飛ばすように蹴った。
「がっ」
蹴飛ばされ、仰向けに地面に倒されるベイン。
地面に当たった衝撃で身体が浮く。その浮いた身体、その肩口に、剣が杭打つようにして入ってきた。そのまま、みぞおち辺りを踏みつけられ、地面に押さえつけられる。
負ける時、死ぬ時は一瞬だ。
ベインはアリアを見上げた。月の下で花咲く木を見ているような気がした。墓標としては悪くない。
「……終わりか」
「そうだね」
「最期に一ついいか?」
「うん」
「惚れたぜ」
「いや、雑魚はちょっと……」
嫌そうな顔をされてベインは悲しくなった。
だがアリアの知ったことではない。
「で、聞きたいことがあるんだけど」
「何でも聞けよ。言うかは知らねえけど」
「会いたいやつがいるんだよね」
「へぇ?」
一騎討ちは終わった。
勝敗もついた。それはつまり、
「代官を置いて消えろ! そうすれば俺達は追わない!」
兵たちはローワンを置いて逃げ出した。
残された馬車。中にはローワン。
ローワンは引きずりだされた。
「ま、待て! 殺すな! 交渉しようじゃないか! 利用価値はある!!」
代表として、ウォルターがローワンの前に立った。
「……たとえお前が善人であっても、実は仕方ない事情があったとしても関係はない。お前の首が、先に逝ったやつらの土産になる。お前が死ぬ理由はそれで充分だ」
交渉はない。死だけを望まれた。ローワンは狼狽えることしか出来なかった。
ウォルターが剣を振り上げる。
「あいつらによろしくな」
剣が振り下ろされると、血飛沫が上がった。
大きな断末魔だった。
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