第7話 最強対最凶

次の日もアイギスによるエリシアへの責めは行われた。

エリシアとして振る舞っているアイギスの記憶を見せられ、淫具で何度も絶頂される。

体中が体液でベトベトで、暑くて、臭くて、淫具でずっと刺激される。

心をズタズタにされ、心を淫らにされる。

こんなことが一生続くなど考えられない、考えたくも無かった。

いっそこのまま消滅してしまいたいと願っても全身を覆う革の拘束衣が、女神像がそれを許さない。

死ぬことさえ許されないのだ。



そしてエリシアは何もできず、とうとう運命の日が来てしまった。

リヒター達が帰ってくる日になってしまったのだ。


(はぁ…はぁ…リヒター…帰ってきちゃダメ!殺されちゃう!逃げて…わたし貴方まで失ったら…もう…)


エリシアにはもう両親も、血の繋がった家族もいない。

だが生まれたときから教育係としてそばにいてくれたリヒターはもう一人の親のような存在。

いつも口うるさくて厳しいが、それは愛情によるものだとエリシアにはわかっている。

そんな彼まで失ったらもうエリシアには心のよりどころがないのだ。


(はぁ…はぁ…あぐっ!…リヒターならアイツに勝てる?いや、勝てないわ…あんな未知の魔法を使う化け物。わたしも全く歯が立たなかった…)


リヒターは確かに腕は立ち、かつては国王軍最強の剣士として君臨していた。

しかしそれはエリシアが生まれるずっと前の話。

それに彼との稽古のときにその片鱗は見たことがない。

年齢もとうに60を越えてしまっている。

とてもアイギスには勝てると思えなかった。


(お母様…お父様…彼を守ってあげてください!一生のお願いです…どうか…)


エリシアは女神像の中で祈ることしかできなかった。


今日は土砂降りの雨だ。

日の光が一切入ってこない。

まるでエリシアの心を映しているようだった。



一方そのころ。

土砂降りの中、一台の馬車が王宮へと向かっていた。

その中にはあのリヒターと数人の従者が乗っている。


リヒターはその手に何かを持っていた。

それは翡翠の髪飾り。

出向いた隣国で買ってきた工芸品だ。


(実にいいものだ。エリシア様の瞳と同じ透き通るような翡翠。形見の翡翠のバングルとも合うはずだ。喜んでもらえるだろうか…)


実は来月のエリシアの誕生日に合わせて前々から特注で作らせていたのだ。

それを普段はしないような優しい目で眺めていた。


(それにこの前は少し言い過ぎてしまったからな。私の悪い癖だ。しかし…)


少し緩んでいた顔がまたいつものような眼光の鋭いものに変わる。


(エリシア様もエリシア様だ!なぜあんなにも外に出たがる!口酸っぱく言い聞かせているのに!女王様…アイリーン様もよく私を困らせていたな。やはり血は争えんか)


心の中でも小言の多いリヒターである。

これも愛情によるものなのが厄介だ。

そして大きくため息をついた後、また顔が穏やかになった。


(アイリーン様…エリシア様は貴女に似て分け隔てなく誰にでも優しく、健やかに育っていますよ。まぁ貴女のお幼いころのように少々お転婆ですがね)


そんなことをしみじみ思い、リヒターは翡翠の髪飾りをマジックポーチにしまうのだった。


リヒター一行を乗せた馬車は無事王宮に到着し、入り口で執事長のルドルフが出迎えた。

リヒターは雨に濡れた服を手で払いながらルドルフに話しかける。


「すまない、予定よりも遅くなった。ところでエリシア様はどうしている?姿が見えないが…」


いつもならば出向したリヒターを門で待っていることが多いエリシアなのだが、今日はいないと不思議に思っていた。

本来ならば王女がそのような行動には出ないのだが…


「はい、謁見の間でお持ちになっております」

「謁見の間で?ただの出向だぞ」

「はい、リヒター様や従者を労いたいとのお申し出で…」


リヒターは少し眉間にしわを寄せて考えた後、濡れたコートをルドルフに手渡した。


「すまないがこれを頼む。ではすぐに行く」

「はい」


その後リヒターと従者は偽りのエリシア(アイギス)と本物のエリシア(女神像)のいる謁見の間へと通された。

リヒターが来てしまったことに女神像の中のエリシアは心臓が破裂しそうなほど動揺していた。


(リヒター来てはダメ!逃げて!そいつは化け物なの!お願い…正体に気づかないで…)


そんなエリシアの心の声を聞いたアイギスは大きな声で彼らに労いの声をかける。


「リヒター、ケイト、レオルド、ルメール、今回はご苦労様でした。こんな雨の中よくご無事で…」


ワザとらしく従者一人一人の名前を呼んでいる。

名前を呼ばれて嬉しがる従者の中で一人だけ険しい顔をしていたものがいた。

あのリヒターだ。


(なんだこの違和感は?なにかが引っ掛かる…目の前にいるのは紛れもなくエリシア様だ。しかし…)


リヒターはエリシアとして振る舞うアイギスの右の手首を見る。

いつも肌身離さず付けているはずの母の形見のバングルを付けていない。


(エリシア様がアレを付け忘れることなどあり得るだろうか?あんなに大切に扱っている物を…)


リヒターはずっと難しい顔をしたまま時は過ぎ、アイギスの話は終わった。

他の従者たちがそれぞれの持ち場に戻る中、リヒターはツカツカとアイギスの前に歩み寄る。

アイギスは可愛らしく首を傾げ、キョトンとした顔をする。


「どうしたのですかリヒター?私たちも執務室に行きましょうか」

「はい…そうですね、エリシア様」


アイギスは王座から立ち上がり、自分からリヒターに近づいていく。

女神像に囚われているエリシアは気が気ではないかった。


(何をやってるのリヒター!だめ!逃げなさい!ダメだってば!)


それとは対照的にアイギスは顔には出さないが心の中で勝利を確信する。

そしてエリシアにわざと聞こえるように脳内に声を届ける。


『はっ!やはりただのジジイね。歳のわりに屈強だけど、おそるるに足らないわ!もう誰もいないし…消してしまおうかしらね?その方が都合がいいわ!』


(やめて!殺さないで!だめ!)


アイギスが右手をスッと動かそうとしたとき、リヒターが口を開いた。


「それにしても今日はいい天気ですね。お出かけなさらないのですか?」

「はっ?」


突然の謎の問いかけに上げかけた手をピタッと止めるアイギス。


(何言ってるのこのジジイは?こんな土砂降りじゃない)


アイギスは可愛らしくクスクスと笑い始めた。


「ふふふ♪何を言っているのですかリヒター?すごい雨ですよ?」

「そうでしたね…ところでエリシア様、失礼ですが右腕を見せていただけますか?」

「なんですかいきなり?まぁいいですけど」


リヒターがアイギスの右腕の袖をまくった。

リヒターの右の眉がピクっ!っと不自然に上がり、持っていた袖を離す。


「今日はバングルは付けていらっしゃらないのですね」

「え!?えぇ…部屋に忘れてしまって…ちょっと…ね?」


もうあのバングルはアイギス自身が破壊してしまった。

動揺で慌てるアイギス。

一方リヒターの顔は少しづつ険しくなっていく。


「そうですか。ところで…」

「はい?」

「貴様何者だ?エリシア様を…どこへやったぁ!!」


リヒターがアイギスを鬼の形相で睨みつけ大声で叫んだ。

殺気を感じたアイギスは大きくリヒターと距離をとる。


(なにいまの殺気………なっ!!!)


アイギスは驚愕し、その目を大きく見開いた。

なんとアイギスの後ろにあった王座が横に真っ二つに斬られているのだ。

斬られた王座はガタン!と大きな音を立てて床に落ちる。


アイギスは我に返り、リヒターに目を移す。

リヒターはすでに腰に下げていた剣を抜刀していた。


(斬ったの!?あの一瞬で?)


アイギスは動揺を隠すためにわざと大きな声を上げる。


「いきなり何をするのですか!」

「殺すつもりでやったからな…それにこの程度の斬撃、エリシア様なら避けられる」

「だから何を言っているのです!私がその…」


アイギスの言葉を無視し、リヒターは一気に距離を詰める。

反射的にアイギスは横に飛んだが右腕に違和感を感じ、目をやる。

なんと肘から先に纏っていたはずのゴム肌が綺麗に斬られ、無くなっているのだ。


(まずい!)


アイギスは咄嗟に自分の肌が見えた右腕を背中に隠した。


「無礼ですよリヒター!えっ!?」


アイギスはまた目を丸くする。

リヒターの左手にはアイギスの右手のゴム肌が握られていたのだ。

リヒターはそれを床に勢いよく投げ捨て、アイギスをその鋭い眼で睨みつける。


「口を慎めよ?エリシア様の名を語る俗物がぁ!!」

「くっ…なぜバレたの!」


アイギスは魔法陣を展開し、纏っているエリシアを模したゴム肌を解除した。

アイギスの体から足元にドロっとそれが溶け落ちる。


リヒターはまた一瞬で距離を詰め、目に見えないほど速度の斬撃を繰り出す。

アイギスはそれを紙一重のところで躱し、腕から黒い邪悪なオーラを放って反撃する。

しかしそれはリヒターの斬撃でいとも簡単にかき消されてしまう。


(くそ!変装は完璧だったはずなのに…なぜバレたの!?バングルか?わからない!)


アイギスは見落としていた。

実はエリシアは魔法を覚えたての時に炎魔法で遊び、誤って右腕を火傷している。

雨の日になるとその古傷が赤く浮き出るのだが、そこまでゴムの肌を再現できていなかった。

エリシアに成り代わったアイギスに違和感を感じていたリヒターはその火傷痕がないことに確証を得て、アイギスに斬りかかった。


(はぁ…はぁ…このジジイ!速すぎるわ!私の闇魔法も消されるし!どうなってるのよ!)


アイギスは防戦一方になっていた。。

対してリヒターは60を超えているとは考えられない異常な速度で攻撃を繰り出し、息一つ切らしていない。


一方エリシアも女神像の中で閉じられない口をさらに開けてその尋常ではない斬撃を見ていた。


(えっ!えぇ!?リヒター!?すごい!強い!カッコいい!)


言葉にならなかった。

普段稽古を付けてくれる時とはまるで別人の剣士がそこにいる。

その凛々しく気高い姿に見とれてしまい、何故か涙が溢れていた。


一方アイギスはかなり焦っていた。

まさかただの老人だと思っていたリヒターがここまでできると考慮していなかったからだ。


(こいつに近距離戦は無理だわ!足止めが必要ね…!)


アイギスはリヒターの斬撃を宙返りしながら躱し、床にバン!と右手を着く。

その瞬間に床いっぱいに魔法陣が展開される。

これはエリシアの体を止めたあの拘束魔法だ。


(どうする!この老いぼれが!)


アイギスは勝ちを確信しニヤリと笑う。

しかし


キィィィン…


なにか甲高い金属音が響いた。

アイギスはなにか違和感を感じ床を見る。

自分が展開したはずの魔法陣が消し去られている。


(!?確かに発動したはず…!!!)


アイギスは殺気を感じ反射的に真横に飛んだ。


「うがぁぁぁぁあ!!!」


その瞬間に左腕に激痛が走った。

アイギスの左肩から先が斬られていた。

斬られた腕は床に落ち、砂のようになって消えていく。

顔を上げるとリヒターが首をコキコキ鳴らしながらゆっくりと歩み寄ってきていた。

いつの間にかリヒターの剣には青い炎が宿っている。


「体が鈍っているな…」

「っ!くそ!!」


拘束魔法が効かないと悟り、アイギスは右手を前にバッ!っと伸ばす。

するとアイギスの背後に大きな無数の蛇のようなオーラが出現し、リヒターに向かって飛んでいく。


(これならどうかしら!避けられるなら避けて見なさいよ!)


アイギスはこの禁術でかつての国民、アイギスを討とうとした名だたる武人達から何百と命を奪い、吸収していった。

その邪悪な大蛇たちがリヒターに四方八方から飛び掛かる。


ゴォォ!!


一瞬の出来事であった。

リヒターが目に見えない速度で剣を横一線に薙ぐ。

無数の漆黒の蛇が蒼い炎に焼かれ、砂のようになって消えていく。

自慢の禁術を防がれ愕然としているアイギスに向かってリヒターはまた鋭い眼光で睨みつける。


「エリシア様はどこだ!」

「エリシア…くっくっくっ…エリシアね!その手があったわ!」


アイギスは女神像の方を向き、邪悪なその目を真っ赤に染めた。

そして女神像の中のエリシアとアイギスの目が合ってしまう。


(んぁっ!?あぁぁぁぁぁぁん!!)


その瞬間に忘れていたあの恥辱がエリシアを襲う。

乳首を執拗に揉まれ、肛門を弄られ、膣をかき回される。

しかも今までの刺激よりも強烈な責め。


エリシアはそれに耐えきれず、一瞬にして絶頂させられてしまった。

しかし絶頂しても責めは終わらない。

短時間で何回も何回もイかされ続ける。


(はぁ!はぁ!あがっ!ぐぅぅ!うぅぅぅん!!)


呼吸ができないほどの責め、脳がショートしそうなほどの快楽に呑まれてしまっている。

その狂うようにイき続けるエリシアを見てアイギスはまた目を赤黒く染め上げ、リヒターに言い放つ。


「あなたの大切なお姫様ね…このままじゃ死ぬわよ!きゃはははは!」

「なに…!?」


リヒターはアイギスの視線を読み取り、女神像の方に目を向ける。

そして幻術を見破る蒼い炎をその目に宿す。


(女神像…奴と女神像が黒い鎖のオーラで結ばれている?なぜだ……‥なっ!!!)


リヒターの目に見えてしまった。

自分がもっとも守るべき存在の変わり果てた姿が。

あの最愛のエリシアが窮屈な女神像の中に押し込められ、口や胸、恥部や肛門にまで邪悪な淫具が取り付けられ、今もそれに責め立てられている姿が。

怒りで肩を震わせ拳をグッっと握りしめる。

白い手袋がリヒターの血で真っ赤に染まっていく。


「貴様ぁ…よくも…よくもエリシア様を!!!」

「おっと!動かないでね!姫がどうなっても…」


アイギスが何か言い終わる前にリヒターの蒼い炎を纏った斬撃が空を、いや空間ごとぶった斬った。

するとアイギスとエリシアを繋いでいた邪悪なオーラの鎖が切れ、女神像に縦に亀裂が入る。

そして


パカっ…ゴトン!


「むぐぅぅぅ!!!」


女神像に入れられていた黒い革の塊、エリシアが床に音を立てて転がった。


「なんで?呪術が解除された!?くそ!もう一度…」


何が起きているかわからないアイギスは残っている右手を床に転がっているエリシアに向けようとした。

その瞬間


ザシュ!!


「え…」


何かを斬った様な音がアイギスの耳に聞こえた。

そして右目と左目の視界がなぜか合わず、ズレていってしまう。


リヒターが下段から振り上げた剣がアイギスの体を縦に真っ二つにしていた。

唖然とした表情のままアイギスの体が黒い砂のようになって消えていく。

国を乗っ取ろうとした悪魔のような醜い女の最後はあっけないものだった。


リヒターはそんなアイギスには目もくれず、剣を床に投げ捨てエリシアの元に駆け寄っていく。

そして床に膝をつき、真っ黒な革の拘束衣に包まれたエリシアを優しく抱きかかえる。


「エリシア様!エリシア様!大丈夫ですか!今脱がしてさしあげますね!」

「ふぅ…ふぅ…むぐぅ…」


エリシアは力なく頷く。

リヒターはエリシアの体をギチギチに縛り上げているベルトを取っ払い、拘束衣の背中のチャックを開けた。

革に蒸され、体液まみれになったエリシアの白い肌を露出する。

リヒターはその目から涙を流しながら革の中からエリシアを引き抜いた。


じゅる!


「がはぁ!げほっ!がはっ!うぅ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」


禍々しい淫具が床に音を立てて落ちる。

床にエリシアの数日分の体液がべっちょりと広がり、蒸せるような強烈な匂いが蒸気のように立ち昇る。

それがここ数日エリシアが受けてきた拷問の過酷さを物語っていた。


「あぁ…エ…エリシア様…このような…くぅぅ…」


リヒターは自分が守るべき、最愛の孫娘のような主の姿を直視することができず、右手で目を覆って泣いている。

先ほどまで鬼人のように剣を振るっていた人物とは思えない。


「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…んぁ…」


エリシアは先ほどまで絶頂させられていたこともあり、いまの状況が掴めていないようだ。

だがだんだんぼやけていた頭がはっきりしてくる。

エリシアの目からも大粒の涙が溢れてきた。


「はぁ…はぁ…リヒター…ぐすっ…リヒタァァア!!」


エリシアは自分がべちょべちょで全裸なことも忘れ、泣いているリヒターの胸に抱き着いた。

そして大声を上げて泣き始めてしまう。

40も年が離れた裸の女の子に急に抱き着かれてしまい、リヒターは顔を覆っていた右手を離し、目を丸くする。


「エリシア様!?」

「こわかった!こわかった!貴方が…やられちゃうんじゃないかって!うぅ…うぅぅぅ!」

「………はっ!」


リヒターは我に返ったようにマジックポーチから大きな毛布を取り出し、体液まみれのエリシアの体を包んだ。

そしてその場にガバッ!っと勢いよく立ち上がり、エリシアをお姫様抱っこした。

急に抱きかかえられてしまったエリシアは涙がピタッ!っと止まってしまい、リヒターの顔を見る。

いつもの目つきが鋭い仏頂面に戻っていた。


「リヒター!?ま、まってください!下ろしてください!」

「いけません!いつまでもこのような恰好で…すぐに浴場まで向かいましょう」

「まって!まだ話が!」

「話は後です!」

「はい…」


そしていつものどちらが主人なのかわからない関係に戻っていた。

リヒターはエリシアを抱えながら浴場まで走っていく。

器用にエリシアに回復魔法をかけながら。


「どこか痛むところはありますか?」

「いえ、おかげさまで…でも恥ずかしいです!やっぱり下ろしてください!ね?」

「いけません!」

「うぅぅ…」


王宮内の色んな人にこの姿を見られてしまい、エリシアは包まれた毛布の中で顔を真っ赤にする。

しかし恥ずかしがりながらリヒターの顔を見て優しく微笑むのだった。


その後、浴場にまで一緒に入ろうとしたリヒターは侍女たちに全力で止められた。



そして次の日。

エリシアとリヒターは執務室で昨日のことについて話していた。


「なにか女王様や国王様から聞いていましたか?奴のことやバングルのことについて」

「いえ、そう言った話は何も」

「うぅむ…女王様はなぜこのことを黙っていたのか」


リヒターは頭を抱えてしまう。

まさか王宮内にあんな邪悪な存在が封印されていたとは思ってもみなかったからだ。

難しい顔をしているリヒターを見てエリシアはハッ!っと何かを思い出したかのように口を開く。


「アイギスから聞いたのですが、お母様は時を戻す魔法?を使ってアイギスを封印したそうですよ?本当かどうかわかりませんが」

「時を戻す魔法?次元空間魔法ですか!?」

「ジゲンクウカン魔法?というのですか?」


リヒターは眉間に深いしわを寄せ、黙り込んでしまう。


(アイリーン様は次元空間魔法まで使えたのか、気づかなんだ…ということはアイギスとやらの封印を解く前まで時間を戻したのか?それならばアイリーン様がアイギスやバングルのことを知らないことにも合点がいく。しかしアイギスには時間を戻されたという記憶はある…わからん!専門外だ!あとで知り合いの魔女にでも話を聞くか…)


いつまでも唸っているリヒターの服の袖をエリシアは可愛らしくちょんちょんと引っ張る。

それに気づいたリヒターはエリシアに顔を向ける。

なにやら目をキラキラと輝かせている。


「昨日の戦闘!リヒターはあんなにもお強いのですね!私の稽古では手を抜いていたんですか?」

「そんなことは…ございま…」


エリシアの真っ直ぐな瞳に嘘をつけず、リヒターは観念したかのように本音を口にした。


「いえ、申し訳ございません。かなり手加減をしておりました」

「どの程度ですか?正直に言ってくださいね?」

「………全力の5%も出していません」

「そんなにですか!?」


エリシアは怒るどころかますます目を輝かせてしまう。

この目をしたときのエリシアにリヒターはろくな思い出がない。

サッとエリシアから目を背ける。


(まずい…属性魔法を覚え始めたときもこの顔をしていたな。となると…)


「それになんですか?あのカッコいい剣の色を変える魔法は!魔法さえ斬っていましたよ?それにすごい切れ味でした!まだ教えてくれていませんよね?教えてください!」


リヒターの悪い予感は的中してしまった。

エリシアは興奮して鼻息を荒くしている。

本来学ぶべき政治などよりも、昔から武術や魔法に対してはかなり貪欲なのだ。

リヒターは大きなため息をつく。


「エリシア様があれを覚えてはますますお転婆に…」

「教えてくださいリヒター!今日にでも!今すぐお庭にいきまよう!ね?」

「ははは…まだ公務が残っていますね。それを終わらせたらということで」

「はい!ふふふ♪楽しみです♪」


こうなったエリシアは何を言っても聞かない。

それを知っているリヒターは乾いた笑いをしながらエリシアに公務をするように促す。

エリシアは普段イヤイヤながらこなす業務をニコニコしながら片付けていくのであった。



後日、継承の儀は無事に終わり、エリシアは正式に女王になった。


女王となった今でもエリシアのお忍び癖は結局直らなかったらしい。

しかし、国民との距離がとても近く、優しく、腕の立つ女王として国を繁栄させていった。

美しい髪には翡翠の髪飾りが光り、その横には常に難しい顔をした宰相が付き添っていたそうだ…


〈完〉

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石像に封印された姫君 世界一小さい牢獄での絶頂イキ地獄 MenRyanpeta @MenRyanpeta

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