第49話 出口

「行くよ!」


心香と僕は手を繋ぐ。

そして、走り出す。

彼が来れない僕達の世界へ。

目の前には出口がちゃんとある。


ここは美しすぎる。

あまりにも現実からかけ離れてる。


「逃げるなぁ!!」


彼の声が脳に直接語りかけてくる。

それと同時に目の前から花槍かそうが多く飛んでくる。


楽園パラダイスからの脱出。


それは遡行時計の最後の役目だって分かってる。

残りの遡行を一回にすることにより、

好きな場所に一度行くことが出来る。

しかし、それは一度使うことしか出来ない。


心香を取り返す事を目的とした僕の最後の賭け。

それは感覚でわかってる。

確証は無いけど、

今までもそうやって分かっていた。


「心香、翔べ!!」


「うん」


そして2人で花槍を避ける。

花槍は毒効果がある。


だから、さっきの攻撃で、

僕の足には花の虹色の刺青が刻みこまれている。

ほぼ、麻痺。感覚が無さすぎて、視認しないとあるかどうかなんてわからない。


「行かないでくれぇ!!ダメだ!!!」


彼がひたすらに、

心香にまどいを描けようとする。


しかし、それは無駄だと彼はわかっている。

だが、彼は諦めない。


「造作時計【懐紙】」


彼のその叫び声と共に、

時計と秒針が僕たちの周りに現れる。

そして、会ったはずの出口が塞がれ、

花槍が僕達を囲う。


そして、

【封印】をかけた筈の彼の肉体が今僕達の目の前にある。彼は蒼い花の剣を持っていた。


それは

造作時計【懐紙】の縛りにより、命を吸う刀。

自分の肉体を幾らか改造する事ができ、花刀を出現させる。目的を達成できなかった場合は猶予を少しだけ与えられた上で死ぬ。


だが、その代わり目的を一発にする会心効果がある。


「僕の目的は、お前を殺して心香を救うことだけだぁ!」


そんな事はさせない。

あの刀に僕が触れたら、終わりだ。

僕は残りの遡行時計の効果を使う。


「遡行時計【桜花】」


今までも使ってきた。 

使い方は忘れてしまったが、これで終わらせれる。


桜の花びらを模した花刀。

それは、彼を倒すことを目的とした呪いの選択。


降りかかってきた彼の斬撃を僕は自分の刀で振り返す。


「僕はお前を倒して心香と楽園から抜け出す!」


ただ、僕はひたすらに叫んだ。

それに反応して彼は、憎しみの顔を浮かべ、

悪魔のような笑いを浮かべ、淡々と語り出す。


「何故、僕はここの居るのかわかるかぁ?

僕は分かってる。だけど、君は代償を払いすぎた。」


そうだ。確かに僕は自分を代償に遡行している。

その代償は払わなくてもいいものだけど。


「君は分かっていないんだぁ!!

何故、こうなったか、どうしてこうなったかぁ!

僕は、分かってるから辛いんだ。

だから、償いを心香を僕が君から救い、

元の世界は返すんだぁ!」


彼は涙を溢しながら叫び、憎しむ。


「じゃあ、これで終わりにしよう。」


僕はそう言い、刀を彼の頭に向ける。

彼も涙のまま、負ける。


「「一騎打ちだ」」


その言葉と同時に僕らは走り出す。

一発でも当たったら、終わり。

それを胸に記しながら、ひたすらに覚悟を持って、行く。


最初に攻撃をしたのは彼だった。

斜め下からの斬撃、

足を狙うのはいい作戦である。

ただ、擦れば相手は消えるのだから。


僕は花刀でそれを防ぐ。

そして、それに便乗し、横に飛び不意打ちのような攻撃を喰らわせようとする。

しかし、彼はまるで背中に目があるように、刀を後ろに回し、防いだ。


「言っただろう?

君と僕には無いはずの差があるんだ。」


「その通りかもな」


ただ単純な攻防戦。

ほぼ同じ実力での戦い。


「仕方ないなぁ、造作時計【地】」


その言葉と共に、僕の周りには、無いはずの壁が多く現れる。そして、彼はその壁の上を走り出す。


「【霧】」


また、

彼は追い討ちをかけるかのように、技を使い出す。

 

何処から攻撃されてもおかしくない状況。

その絶望的危機が僕の目の前に或る。


「遡行時計【来眼】」


こうなったら、自分の全てを曝け出して勝ってやる。


「後ろ」


視界と感覚で、次どうやって攻撃が来るかが分かる。

しかし、この技を使ってしまうと、1分間で0、1の視力を失う。

だから、一分も立たない内に彼に攻撃を与えないと行けない。


「横」


「斬撃からの横跳びからの下撃ち」


全てを理解できる俺は、その攻撃を全て防げる。

しかし、それが通用しないのが、彼だった。


彼は俺の来眼を読んだ上で攻撃をしてくるので、

ほぼプラマイ0。


「これで終わりだぁ!」


叫び、一瞬の不意打ちを僕は避けられずに喰らってしまう。

右腕に激痛が走る。

このままだと、侵食され心香が奪われる。


だから、僕が出来ること、それは


自分の右腕を切り落とす。


僕は叫ぶが、それ際もどうでもいい。


「遡行時計【突破】」


これは、一度しか使えない一回の奥義。

速さで勝つ、最高の技。


僕は彼の心臓目掛けて刺しにかかる。


彼は避けようとするが、早さに押し負け攻撃をもろに喰らった。


もう彼は、消える。


「はは、こんなのって、、、」


今まで作ってきた彼の技が消え、元の楽園に戻る。


彼はただ、心香を見つめていた。


「心香、僕は君が好きだ。

君がいるから、僕はここまでできたありがとう。

そしてごめん。

君をこの$€$から救うことが出来なかった。だから、最後に僕は終わらせる。造作時計【££$、、」


彼は何かを呟いた後、この世界から姿を消した。

なぜか、心香の眼から涙が溢れていた。

そして、彼が持っていた造作時計も塵と化し、

この世界から消えた。


「行こう。心香」

「うん」


二人で楽園の出口に走り出し、飛び込んだ。


時空の狭間、天気と宇宙の狭間。

言葉で表すことの出来ない世界がただ、

広がっていた。

でも、それはただ、美しかったんだ。






それを眺めているうちに、僕が初めて遡行時計を拾った防波堤の場所に着いた。


「帰ってきたんだ。」


「うん!」


その可愛い声とともに、存在しないはずの彼の花槍が心香を貫いた。


その瞬間、

僕は何かのネジが外れたような感覚に陥った。


心香が倒れる。

その光景はあまりにも悲惨すぎた。



【代償があるから人は幸せを理想とする】

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