第10話 中身

 ――あっけないものだった。

 テレビでしか見たことのないような豪邸の巨大な部屋で、主人は佑には価値の分からない高級な椅子に座っていたが、佑を見て一度頷き、伊吹の形をしたロボットに世話を頼むと言っただけで、ロボットと佑を帰した。

「普通だったでしょう」

 白い廊下に戻ると、ロボットが『夜毎よごとのランプ』の顔で微笑む。

 佑は頷くほかなかった。主人の態度は、ロボットに対する対応としては普通だった。

 しかし、一つ気になった点もある。

「……お前、主人の前でもずっとその喋り方なのか」

 伊吹は一度も、こんな使用人のような喋り方をしたことがない。主人はここまでリアルな伊吹型のロボットを作ろうとしておいて、なぜ口調を似せなかったのだろうか。

「ええ、そうです。ご主人様は私たちを、はっきりと自分の所有物にしておかれたいのです。私は、少し前までは相楽伊吹さんと似た話し方をするようにと言われてそうしていましたが、ご主人様はこの頃、支配欲が強まっているようです」

「ふうん……」

 ぱっと見は普通でも、アーティストやアーティストを愛する人々に不利益をもたらす詐欺行為をしているのだ。そのような面があってもおかしくはない。

「私たちは今でももちろん、ご主人様が見ていない所ではモデルになった方の口調に似せて話すことができます。ですがそうすると、佑さんはつらいのではないでしょうか」

 ロボットは無表情で、佑を見る。

 ロボットが、死んだ伊吹にもっと似る――。佑の感情が、ロボットが伊吹ではないという判断するまでに、更に時間がかかるだろう。アーティストの形だけでなく中身もコピーするという行為に対する嫌悪感も、より強くなるに違いない。

「ここにいるロボットは皆さん、佑さんの境遇について知っています。そして、ロボットとしての原則を守り、人間である佑さんを助けます。安心して話してください」

 再び微笑んだロボットが、○印の付いた扉に手を翳す。

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僕はAIが嫌いだった 柿月籠野(カキヅキコモノ) @komo_yukihara

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