小説を書いてもぱっとしないのでこれが潮時とやめて、動画配信に転向しました。

赤城康彦

小説を書いてもぱっとしないのでこれが潮時とやめて、動画配信に転向しました。

 オレはタカ。

 ネットでつらつら小説を書き始めて20年になる中年男だ。

 子供のころから読書が好きで、それが高じて空想で遊ぶようになって、さらにそれが高じて、18歳から小説を書くようになった。

 三国志とかから強い影響を受けたから、そういった類の戦記やファンタジーをメインに書いていた。

 書いていたんだけど……。

 どうにも、ぱっとしなかった。

 出版デビューを目指したこともあったが、課題のテーマがなぜか書けなかった。やっと書けても、落選続き。

 ネット小説を書いてPVを稼いだ上で、というやり方も、ダメだった。

 誰でも書けると言われる、なろうぜ系も、なぜか書けなかった。

 いらん空想はいくらでも出来るのに。肝心の、数字や将来につながりそうなものは、さっぱりだった。

 どうにも脳みその出来具合がダメなように出来てるようだ。

 二十年やってて、ぱっとしなけりゃ、いやでも気付く。

「そろそろ潮時か」

 ノートパソコンとにらめっこしながら、ぽそっと、そんな言葉が突いて出た。

 小説は小説投稿専門のプラットフォーム「小説書きになろうぜ」に投稿している。

 今流行りの異世界転生ものことなろうぜ系はこのプラットフォームから流行り出し、一大ブームになったのだった。

 フォロワーは50ほど。20年の成果が、これだ。いや、これだ、などと言ってはいけないな。こんな自分の小説を読んでくれたんだ。コメントももらった。

 それは励みになって、本当に感謝している。

 作品ごとには、まあそこそこの数字はあったが。出版デビューをするにはまだまだ程遠いし。

 連載を終えてから、PV数はさっぱり。また読みたいと思えるものを書けなかった、ということだ。

「もう、やめるか」

 ノートパソコンのブラウザを閉じ、執筆用のメモ帳も閉じた。

 この二十年、いろいろあったなあ。出会いと別れ。

 もうやめると決めた自分に対し苦笑する気持ちはあるにはあったし、フォロワーさんに対して申し訳ないという気持ちもある。が、もう気持ちをごまかしきれなくなってしまった。

 で、自身の闇落ちもあった……。

 親切な方からの叱責がなければ、戻れないところまで落ちてたかもしれない。これには本当に感謝している。

 まあでも、よく書いてきたし、頑張った。20年。

 ブラウザを再び開き、活動報告掲示板にやめることと、読んでもらった感謝のメッセージをつづって投稿した。 

「これからどっしよかなあ」

 それから椅子の背もたれに腰掛けて、しばし考え。立ち上がって、アパートのベランダに行って、タバコをくゆらせる。

 オレの部屋は四階の中部屋。幸い両側の部屋の人はいい人で、騒音などに悩まされることはなく暮らせている。

 もちろんオレもちゃんとアパート暮らしのルールとマナーを守っている。

 それはさておき。

 いい天気だった。雲は思い思いのかたちで空を泳ぐ。飛行機雲がびよ~んと伸びてゆく。

 それを眺めながらタバコを吸い終わって、水をためた小さなバケツに吸い殻を放り込んで、部屋に戻って。

 コンソールゲーム機器の、GamingXBOX(ゲーミングクロス・ボックス)の電源を入れて。

 好きな格闘ゲーム「Metallic Fist」をプレイした。

 いい年をしてゲームかよと自分でも思うが、小説執筆の次に好きで、やめることなく続けられた。

 ビシ! バシ! と技を決める。

「……」

 プレイ中は無言になる。オレは無言でプレイキャラを操作し、相手に拳や蹴りを見舞った。

 まあイージーモードだけど。

「うおお!」

 という敵キャラの断末魔の叫び。

「You win!」

 オレの勝ちだ!

 まあイージーモードだけど。はは。

「……!」

 閃いた。

「ゲーム配信でもしてみるか」

 オレは通販サイトを開いて、キャプチャーボードとHDMIケーブルを買ってみた。


 あれから1か月。

 オレは動画配信サイトで自身のチャンネルを作った。動画配信でのハンドルネームは、サイバータカだ。

 配信するゲームは「Metallic Fist」に「Rocket Kick Car」に「Mortal Battle」などなど……。

 特に力を入れたのが、60秒までのショート動画での小ネタだ。

 初めてのショート動画は「Motal Battle」で、自分なりに連続コンボ攻撃が上手くいったものだ。

 PVが8000行って、腰を抜かした。

 Likeもそれなりについた。分母があるのでDislikeもまあついた。コメントもそれなりについた。

 1回の投稿でこんな数字を出したのは、これが初めてだった。

「はあ、すげえなあ……」

 動画配信サイトのスタジオで詳細をながめて、オレは思わずぽそっとつぶやいた。

 ショートでない普通のプレイ動画は、3分から5分までを目安に投稿している。

 ノートパソコンに編集ソフトがあって、それを使い、コンピレーション動画を創ったりもした。

 フォロワーも徐々に増えて行って、50に達した。動画配信としては少ない方だけれど、小説執筆が20年で50であったことを考えると。考えると。

 はは。

 まあ、まあ。

「人様の創った素材を使わせてもらうのって、すげい効果」

 オレの動画配信はゲーム配信なので、2次創作にあたるのかな。1から創るのではないが。

「これはオレの実力じゃない。素材のおかげだ。それを忘れるなよ」

 と自分に言い聞かせて自戒する。

 小説を書いてた時は、数字に振り回されてしまった。そのために闇落ちをしてしまった。

 その苦い経験が、ここで生きた。


 それから3年経った。

 フォロワーは350を超えた。

 エンジョイ・マイペース個人勢の投稿なので、インフルエンサーのような爆発的な数字はないが。

 オレにとっては、大きな数字だ。そもそも、観る者の度肝を抜くようなスーパープレイが出来るわけでもないしね。それを思えば、この数字でも御の字だ。

 LikeやDislikeに、コメントも安定的にもらえるようになった。

 もちろん、これまで一進一退。フォロワーがまとめて減ることもあった。それでも、ゲームのプレイ、そして配信は楽しくて。続けられた。

 なにより、ゲームの世界の広さには新鮮な驚きがあった。外国の人もオレの動画を観てくれて、英語のコメントももらうことがよくあった。翻訳サイトを使いながらお礼のコメントを書いたりするのも、楽しかった。

 小説投稿プラットフォームの「小説書きになろうぜ」でもゲーム配信チャンネルのことは書いたので、そこから来て動画を観て、コメントをくれるフォロワーさんもいた。

 もうオレは泣いた、よくぞこんなオレをと。本当にありがたかった。

 小説を書いた20年は無駄じゃなかった。

 動画配信での収益化の条件はとても厳しいけど、それは意識の外に置いて。

 オレはフォロワーさんたちとともにゲームの楽しさを分かち合っていた。


「よし!」

 ゲーム「Rocket Kick Car」という、車でサッカーをするゲームで、上手くシュートが決まった。

 もちろんこれを録画し、動画配信サイトに投稿する。

 今まで撮りためた動画を編集し、コンピレーション動画も創り。その中で面白そうな部分を切り抜きし、ショート動画として投稿する。

 得意なゲームもある一方で、苦手なゲームもあったりする。

 FPSの「Over Watcher Shooting」というゲームは、チュートリアルで挫折した……。

「だめだあ~」

 オレはコントローラーを放り投げて。目を×(バツ)にして、床に倒れ込んだ。

 ゲームをプレイする前は動画コンテンツとして楽しんでいて。オフィシャルチャンネルに投稿されたドラマを観るのも好きだった。その中で「メカの女神」というコリアンガールキャラクターがオレの推しで、それでプレイしたかったが。

 ダメだった……。FPSは向いてないようで、何度チュートリアルで試しても上手く動けなかった。撃てなかった。当てられなかった。そのため、プレイは諦めて、それまで通りコンテンツとして楽しむことにした。

「ああ、基本プレイ無料でよかった」

 せこいと思いつつ、せこい安堵感にやや救われた。

 小説執筆に挫折をしたが。同じように、ゲームでもものによっては挫折を余儀なくされた。

 しかしオレは腐らなかった。そんなみっともない真似はするなと、自分に言い聞かせた。

 悔しがるのはいいけど、腐るのは、絶対ダメだ。

 これも小説を執筆してた経験を生かしたことだった。

 まあでも本当に。上手い人リスペクトだよ、本当に。eSportsの試合の配信を観るたびに、

「すげえなあ」

 と、思わず唸らされるもんだった。

 ……と、気が付けば、オレはもうすっかりゲームの人になっていた。

 小説への未練は、きれいさっぱりなかった。

 そんな自分に苦笑を禁じ得ないが。

 我ながら思った以上にゲームにはまってしまったものだった。

 で、オレはこれからも、ゲームをプレイし、その動画を配信してゆくのだろう。


この話 終わり

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