動物園にいたのは?
崇期
>>>
ごく久しぶりに動物園に行きました。家族で。
小さな町の小さな動物園はあっけなく観終わるもので、親としては入場料と動物の種類との釣り合わなさに若干の苦々しさを感じたものの、それでも二人の娘──ミユウもレラも上機嫌だったので、まあ、いいか、と胸をなでおろし、駐車場へと引き返します。歩きながら、興奮さめやらぬ、という感じに、ミユウが言いました。
「ねぇ、今から山手線ゲームやろーよー」
「えー、またぁ?」レラは姉で、もう小学六年生なので、妹発案の遊びに付き合うのをちょいちょい嫌がります。
「いーじゃん。さっきポッポラ園で観た動物の名前を順番に言っていこ。はい、ママから」
「じゃあ、豚」妻がいつもの調子でやる気なさげなトーンにて参加します。
「もぉー、ママ! 言うときはパンパンって手を叩いてから言うの」
「わかった。(パンパン)豚」
「(パンパン)たぬき」とレラ。
「えーっと、おれの番。(パンパン)……」
「パパは一番最後!」
「えっ?」
「わたしの番よ。(パンパン)ヤギ」とミユウ。
「あー、(パンパン)カピバラ」とわたし。
「(パンパン)パプアヒクイドリ」とモカ。
「は? なにそれ。そんな鳥いなかった!」
「ヒクイドリなんて、どこにいたんだ?」とわたしが確認します。
「アカショウビンの隣に」とうつむき加減のまま答えるモカ。
「アカショウビン! もぉー、わたしの知らない動物ばっか言わないでよ。そんなんいなかったって。観てないもん」怒りだすミユウ。
「ほらほら、大きな声出さない」妻が注意します。「続きやろ。(パンパン)フラミンゴ」
「(パンパン)リクガメ」
「(パンパン)……うー、馬……あっ、ポニー!」
「おいおい、どっちなんだよ。どっちもいたぞ? (パンパン)イグアナ」
「(パンパン)コガシラネズミイルカ……」
「ちょ、ちょっと待て」
わたしは長い前髪で両目が隠れた陰気な少年を見つめました。「君……モカ君って言ったっけ?」
「はい」
「君……誰なの? うちの子どもは娘二人だけなんだが」
「はい」
「いや、その……いつから一緒にいたっけ?」
「……でも、信じてください」少年は前髪越しにわたしを見上げました。「動物は、ぼく、ほんとに観たんです」
「いないって!」ミユウが声を荒げます。「君が言った動物、ぜーんぶ、いなかったからっ」
「いたよ」
「どこによ!」
「ぼくの目には視えたんだよ」
「はい、続き。(パンパン)スピックスコノハズク」
「ママ! わたしの知らない動物言わないでって言ったでしょ!」泣きそうになるミユウ。
「ハハはハ……」
「(パンパン)アカキノボリカンガルー」
「お姉ちゃんもやめてー!」
「(パンパン)ゴールデンライオンタマリン」
「視えたんだ、全部いたんだ……」
「ギャァァァぁああぁぁー!」
帰り道、愛車・ウェイクのハンドルを握りながら確認しましたが、車内にいたのはもちろん私たち四人だけです。あれから山手線ゲームは一度もしていません。
動物園にいたのは? 崇期 @suuki-shu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます