不揃いのきゅうり
ふゆ
不揃いのきゅうり
昔々、とある王国に、野菜を育てて暮らしている、双子の兄弟がおりました。
ある夏の昼下がり、その兄弟の弟が畑仕事を終えて、近くの川で身体の汚れを洗い流しながら、曲がって売り物にならないきゅうりを、籠の中からつかみ取ると、川の水でバシャバシャと洗い、ガブリとかじりました。
「うまいなぁ。俺達の育てた野菜は最高だ! この野菜を(うまい、うまい)と言って、食べてくれる嫁がいてくれたら、幸せなんだがなぁ……そんな女に出会えないものかなぁ。」
男は、心の底から、そう願っておりました。
『ガガガガガーーー!』
突然、空気をつんざいて、激しい音が、辺りに鳴り響きました。
男が、音のする方向に目を向けると、石橋の上で豪華に装飾された馬車が、黒づくめの盗賊に、襲われておりました。
男は、とっさに拳大の石を両手に拾うと、河原から橋の上に駆け上がり、馬車に群がっている輩に投げつけました。
すると、馬車の扉を壊して、中に入ろうとしていた一人の脇腹に当たり、「ギャッ!」と悲鳴を上げ、馬車から転げ落ちました。
その声に驚き、振り向いた男の顔面に、二発目がまともに当たると、血を吹き出しながら、仰向けに倒れました。
不意を突かれた残りの盗賊達は、その様子に動揺したのか、苦悶する二人を馬に乗せると、一目散に逃げていきました。
男は、馬車に駆け寄り、扉を開けると、着飾った若い女性と召し使いの女が、抱き合って震えていました。
「大丈夫か? 怪我はないか? 」と、男が話し掛けると、その姿を見た若い女性は、ガタガタと震えながら「大丈夫です……。」と、絞り出すように答えた後、顔を赤らめ、うつ向いてしまいました。
男は、その時、自分が裸であることに、気が付きました。
「おっと、これは失礼。」
「無礼者、さがれ!」と、馬車から振り落とされていた、ぎょ者が間に割って入り、男を突き放すと、馬車を立て直し、走り去りました。
「何だい、礼の一言もなしか。これだから、金持ちは、嫌いなんだよ。」
男は、不満げに川に戻ると、身なりを整え、帰って行きました。
暫くすると、村の大通りに、おふれが掲げられました。
『王女様が、盗賊に襲われた時に、助けてくれた男を探している。○月○日、王女様が村の広場で会われるので、名乗り出よ。褒美をとらせ、王女様の婿にむかえる』
「なんだ、今日じゃないか……。」
仕事を終え、家に帰る途中だった男は、王女様を一目見てみようと、広場に行ってみることにしました。
広場には、既に沢山の男達が集まっており、数名ずつ一組になって、王女様と対面していました。
しかし、王女様の表情は、さえません。探している人物が、なかなか見つからなかったのです。
諦めかけていた王女様が、ふと視線をそらした先に、目立って体格のいい男を見付けました。
「あの方だわ! あの方を呼んでください!」と、王女様は叫びました。
男は、王女様の前に案内されました。
「ああ、やっと会えましたね……あの時、助けていただいた、お礼が言いたかったのです。ありがとう。貴方は、命の恩人です。できれば、婿になっていただけませんか?」
「王女様、私には身に覚えがありません。人違いではないでしょうか?」
「いいえ、私は、貴方の姿をはっきりと覚えています。間違いありません!」
男は、ハッと気が付きました。
「王女様、その男は、私の弟かも知れません。私には、瓜二つの双子の兄弟がいるんです。」
「何ですって? 双子の兄弟?」
王女様は、混乱しましたが、落ちつきを取り戻すと、改めて兄弟で城に上がるように、男に言い渡しました。
兄が家に戻り、事情を話しますと、弟は、覚えておりました。
「ああ、あの時の女は、女王様だったのか……。どうりで、派手な格好をしていた筈だ。でもな、礼だけならともかく、婿入りするなんて、俺には無理だ。貴族の贅沢な暮らしなんて、性に合う訳がない。」
弟は、乗り気になれませんでした。
「そうだ。兄さんが、俺の代わりに結婚すればいい。兄さんは、いい奴だ、きっと幸せに暮らせるだろうよ。」
「馬鹿を言うな。俺だって同じだ。今の暮らしに、満足してるんだ。それに、瓜二つの俺達から、一人を選ぶなんて、できる訳がないし、どちらかを選んだとしても、一生疑ったまま暮らすことになるだろうよ。それは、不幸じゃないか。」
そして、決められた日に、兄弟は、揃って登城しました。
二人は、王女様を説得して、諦めて貰おうと、心に決めていました。
しかし、王女様には、策があったのです。
兄弟の話を一通り聞いた後、こう言いました。
「一人づつ、お城に泊まってください。じっくりと、お話がしたいのです。」
兄弟は、逆らえませんでした。
その日は、兄が城に残りました。
豪華な料理とワインでもてなされ、仕事である野菜作りの話をすると、王女様は、興味深く聞き入りました。
兄は、すっかりリラックスして、勧められるまま、城の大きな風呂に入って床につき、次の日、家に戻りました。
弟もまた、同じように、王女様と食事をしながら楽しい時間を過ごし、風呂に入って、一晩泊まると、次の日戻ってきました。
「兄さん! 俺は、王女様と結婚するよ!」
弟は、いきなり兄に話しました。
「どうしたんだ? 脅されたのか?」
「いや、そうじゃない! 俺は、心から王女様が気に入ったんだ。昨日、風呂から出ると、王女様がやって来て、言ってくれたんだ。(貴方の曲がったきゅうりを覚えています。早く結婚して食べてみたいの。きっと、美味しいわ! )」
王女様は、見事に弟を選び出したのです。
そして、王女様のはからいで、兄も農業大臣に任命され、兄弟は、これまで通り、野菜作りを続けながら、幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
(了)
不揃いのきゅうり ふゆ @fuyuhara
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