第11話
朝日に照らされシンパは目を覚ました。
外、周りを見渡して状況を確認する。
体を動かそうとして膝の上に重みを感じた。
目線を向けるとアルシェがいた。
うつ伏せで眠っているようだ。
そっと、起こさないように抱きかかえる。
腕に痛みが走った。
傷口が乾いた血で固まっている。
それを見た瞬間、昨日の光景が雪崩のように頭の中に流れ込んでくる。
汗が吹き出し、心臓の鼓動が早くなる。
「目が覚めましたか?」
見計らったように村長メルクが声をかけてきた。
「と、盗賊は!どうなった!」
「何とかなりましたよ。おかげさまで」
メルクはいつもの笑顔を浮かべていた。
「申し訳ありませんでした。家まで運ぼうと思ったのですが貴方の身体は大きくて」
そんなことは、と言おうとしたが言葉に詰まった。
「すみません。恐怖で身体が竦んでしまって、あまり役に立たなかったかもしれません」
すると村長は顔を顰めた。
「何も覚えていないのですか?」
「盗賊達が目の前までやってきて、それから襲いかかってきて。それから…」
真っ赤な飛沫が頭に浮かんだ。
メルクはゆっくりとシンパに近づき隣に座った。
「盗賊のほとんどは倒せたようです。何人かは捕まえました。今、倅が街に彼らを連れて行ってもらえるよう人を呼んでもらっています」
メルクは村の中心の方を眺める。
「皆で被害状況を確認しています。やはり無傷というわけにはいきませんでした」
そう…ですか、とシンパは呟いた。
「シンパさん実は…」
メルクは言いかけて言葉を止める。
「今日はアルシェちゃんの側に居てあげてください。とても大人しくしてくれていましたがきっと不安だったはずです」
シンパはアルシェの頭を優しく撫でた。
「シンパさん。今回は本当にありがとうございました。盗賊に勝利できたのは貴方のおかげだと皆が言っていました」
そう言ったメルクはどこか寂しそうだった。
「しばらくはゆっくりと休んで下さい。村の皆もしばらくは家族で過ごすと言っていました」
メルクはゆっくりと立ち上がった。
「立てますか?アルシェちゃんは私が運びましょう」
シンパはその時違和感を覚えていた。
半ば強引に話を打ち切ろうとしているようだった。
シンパは何も聞かなかった。
何よりも膝の上で眠っていた少女の事が気になっていたからだ。
ゆっくり立ち上がる。
身体が痛む。
それでもアルシェを自分で抱えて帰ったのは何かの抵抗のようなものだったのかもしれない。
灰かぶりの一匹狼 @e7764
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。灰かぶりの一匹狼の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます