第7話 魔法使いの弟子と方針
「やぁやぁ淳太くん、どうやら君も進学の危機のようだね」
職員室を出た途端、淳太にそんな言葉が投げかけられた。
発言主は、言うまでもなく素子。
淳太より幾分先んじて退室していたはずだが、どうやら廊下で待っていたらしい。
「人のこと言えた義理かよ……」
「はっはっはっ、然りだね」
やはり素子も同じ話題で呼び出されていたらしいが、なぜか朗らかな笑みである。
「では淳太くん、私の家に向かおうか」
「はぁ? 何言ってんだ?」
終わったらそうしようだとか、そんな約束など一切していない。
淳太は盛大に眉間に皺を寄せた。
「ふふふ……何言ってんだ? とでも言いたげな顔だね」
「言いたげっつーか、言ったよハッキリと。耳どうなってんだよ」
「見るかい?」
と、素子が髪をかき上げて露出した耳を見せてくる。
「そんな物理的な話はしてねぇ」
普段隠れているものが見えたというだけで妙に乱れた鼓動を悟られないよう、淳太はぶっきらぼうに切り捨てた。
「そうかい。では話を戻して、勉強会についてなのだがね」
「待て待て待て待て」
髪を戻し、素知らぬ顔で話を続けようとする素子を遮る。
「それどこに戻ったんだよ。会話が迷子かよ」
「相変わらず君は細かいことを気にするね」
「今のが細かったら、世の中に荒いことなんざほとんどなくなるわ」
「つまるところ、私の家で勉強会をしようというお話さ」
「それはなんとなく察したが、なんで既に開催が決定してる感じになってんだ」
「女の子の部屋で勉強会……ふふ、なんだかイケナイことが起こりそうな響きだろう?」
「論点まで行方不明か」
そんなやり取りを交わした後、素子が目をパチクリと瞬かせた。
「まさか淳太くん、ウチに来ないというのかい?」
「逆に、行くと思ってた理由を教えてくれ」
「だって君、私の部屋に興味津々だろう?」
「何を以てそう判断したんだよ」
とはいえ、全く興味がないと言えば嘘になるが。
やはり魔術関連のオカルトグッズに溢れた薄暗い部屋なのか、はたまた普通に女の子らしい部屋だったりするのか。
淳太がそんなことを考えていると、素子が笑みをニンマリとしたものに変化させた。
「ほら、やっぱり興味あるって顔じゃないか」
図星を突かれ、淳太は思わず手で口元を覆う。
それこそが肯定を示す証左となってしまったことに気付いたが、時既に遅し。
「いいじゃないか淳太くん、どうせこの後の予定もなければ勉強するつもりもないのだろう?」
「毎度の事ながら、勝手に決めつけんなよ」
相変わらず、事実ではあるが。
「ねぇ頼むよ淳太くん、一人で勉強するのは寂しいじゃないか」
クイクイと袖を引き、素子は上目遣いで淳太を見上げた。
「結局それが理由かよ……」
淳太は嘆息する。
とはいえ、ストレートにそう言ってくれた方がまだ気が乗るのも事実である。
「まぁ、いいけどよ……」
「ありがとう、淳太くん!」
ギュッ、と素子が淳太の腕を掻き抱いた。
特段、柔らかい感触などは伝わってこなかった。
「にしても君、やはり美人の頼みに対して猛烈に弱いね。美人局には気をつけ給えよ?」
「だから頼みを聞いてやってんのに、なんだその言い草は……」
いつかも交わした類のやり取り。
自ら美人と称するな、とは言わなかった。
実際問題、自分で言える程度に素子が美人であることは淳太も認めている。
淳太が頼みを聞く理由は、断じてそれとは関係ないが。
「つーか俺は、美人に弱いわけじゃなくてセンパイに弱いだけだ……」
何とは無しにそう呟くと、素子はまた目をパチクリ。
「は、はは……そんなに私は君のストライクゾーンど真ん中か。改めて正面から言われると、少々照れるね」
次いで、赤くなった顔を軽く逸らす。
初めて見せた素子のそんな顔に、淳太はしてやったりと笑い飛ばし……たりは、しなかった。
「そんなことは言ってねぇよ……」
思ってもみなかった反応に、自身も赤くなってしまった顔を逸らす必要があったためである。
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