婚約破棄された公爵令嬢は湯けむりに微笑む

三角ケイ

第1話 婚約破棄された公爵令嬢は湯けむりに微笑む

 「ガサガサ肌に目の下の隈が酷い女なんて僕に相応しくない!婚約破棄だ!」


 王子に婚約破棄された公爵令嬢は顔も見たくないと雪山の麓にある村の教会に追放された。


「まぁ!温泉があるのね!素敵!」


 婚約者だった頃、王子の代わりに毎日公務を押し付けられ慢性疲労に悩まされていた公爵令嬢は湯けむりの立つ泉を見つけ歓喜した。


「オンセン?何ですか、それ。いいですか、お嬢様。この村は貧しく寄付も皆無なので、ひもじさに慣れてくださいね」

「あら?それは大変。私にお任せあれ」


 貧乏で泣かせてやれと王子に命令されているだろう牧師に公爵令嬢は扇越しに微笑む。


 元々、王からの命令だったから仕方なく婚約しただけ。公務を怠り女遊びに耽る王子なんて愛してもない。破棄されれば、こちらのもの。王子の代わりに公務をしていたのだ。経営再生なんてお手の物。


 公爵令嬢が手腕を振るった結果、雪山の麓にある村は大きな温泉街へと生まれ変わった。


 温泉を利用しに来る客のための湯治場や宿が立ち並び、湯気が立つ温泉まんじゅうや温泉卵に客達が舌鼓を打つ。


 飲用可能な温泉は美肌効果も高く、それを元に作られた化粧水を国内外の女性達は奪い合うように買い求めた。


 5年後。


「お妃様。お妃様の婚約者だと名乗る薄汚い身なりの男が謁見を望んでおります」

「前のことは謝るから僕を助け……貴女は誰ですか?なんて美しい……」


 ボロを纏った王子は大国の王妃となっていた公爵令嬢に助けを求めようとして玉座に現れた美しい女性に見惚れた。


「助け?足置きよ、説明を」


 公爵令嬢に屈服し、自ら足置き椅子となった牧師によると、王子は遊び相手の内の一人を妃に迎え、王になったが妻に金を持ち逃げされ、国が傾き、民の怒りを買って玉座から引きずり降ろされたので、大国の王妃となった元婚約者とよりを戻しに来たらしい。


「私がいるのだから他所の男に目を向けないでおくれ、愛しい妃よ」

「勿論よ。私が愛しているのは後にも先にも貴方だけ。足置きよ、あれを捨ててきて」


 疲れることがなくなった公爵令嬢は肌艶が良くなり、温泉効果で更に美しくなっていた。


 貧しい村を瞬く間に豊かな街に変えた手腕に興味を持った大国の王は聡明で美しい彼女に一目惚れし、結婚後も熱心に愛を囁く。


 玉座で彼女を膝に抱え、甘える夫に口づけを落とす公爵令嬢の妖艶さに誰もが喉を鳴らす。


「こいつの代わりに僕を足置きにしてくれ!」


 王子は怒り狂う牧師に速攻で捨てられた。

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