粛々と
ソレイユから遠く離れた場所で、電流が弾け戦う者たちの声が聞こえる。黒毒竜の数は減ってはいたが、イグアスとの戦いを終えたばかりの、カイとアルベールには負担が大きいだろう。ソレイユは自分が戦いに参加できないことを歯痒く思った。
その時、白魔法師の
杖を持ち水の精霊を従えて歩く姿は、グレースが賢者であることを感じさせる。彼女はこの結界内の戦いを終わらせるために来たのだ。
「ソレイユさん、この子があなたに伝言があるといっています」
水の精霊アクアがソレイユの前にフワリと浮かぶ。
(……占い神のお姉さんにイシュタルから伝言です。「アマルは封印したわ。解くにはアレナの新しい守護神が必要よ。私を探して」……)
イシュタルは、トロム国に起こる事を想定していたのだ。イグアスが黙っているはずが無い。
サイファがアレナを訪れた時、アレナ水殿の像の前でソレイユの元へ導かれた。アマルの消息を完全に立てば、サイファ以外はアマルを探すことができない。だから、イシュタルは、サイファが動き出した時にソレイユまで導けば、イグアスが動き出し、その結果、グレースと巡り合うことが予測できたのだ。
また、イシュタルはグレースにも伝言を託していた。
ソレイユは魔法を封じられている。それは、敵に見つからないようにするためだ。人間界で魔法が使えれば、それだけで国を超えて注目されるほど、目立つ存在になってしまう。
「あなたは魔法を使えないようにされているでしょ? だから、イシュタルはドラコカードを託しました。戦闘中にドラコカードを使う方法を
「戦闘中にこのカードが使えるの?」
「はい、イシュタルはそのカードを使って戦っていました。魔力を込めるとカードがばらばらに浮かび上がります。やってみてください」
ソレイユは半信半疑のまま、カードに魔力を込めるようイメージしてみた。すると、カードがばらばらに目の前に浮かび上がった。
「ソレイユさん、土台を十二枚にして、七十八枚すべてのカードを使用し、『ピラミッド』スプレッドを展開してください。それで、ここに居る全ての人の助けになります。順番は、『創める者(ジョーカー)』を頂点として、大アルカナ、青龍、
グレースは障壁を張った。
グレースの結界内であるトロムで、これより上位の防御は無い。安全は確保された。
「さぁ、ゆっくりでいいので、スプレッドを展開してください」
ソレイユは、『ピラミッド』スプレッドをイメージしてカードを並べる。かなりの集中力が必要だった。実践では難しいだろう。
通常、『ピラミッド』スプレッドは、土台は三枚ではじめる。状況によって段数を増やすことはあるが、すべてのカードで展開することはほどんど無かった。読むのが難しすぎる。
ソレイユは全てのドラコカードをピラミッド型に並べるイメージを終える。時間が掛かってしまった。その間もみんな命をかけて戦っている。戦っている人たちの事を考えると焦りを覚えた。瞳を開ける。ソレイユの思いが形になり、目の前に全カードを使用したピラミッドがそびえ立っていた。
カードは回転し夜空高く舞い上がる。大きなピラミッドからは光が溢れ、カイやアルベール、サイファ、プラムに降り注ぎ、金色の光が各自の体を包み込んだ。
サイファは今まさに闇に呑みこまれそうになっていた。毒は皮膚を焼き、思考は停止する。金色の光によって、自分の体に熱が戻るのを感じた。
アスダルのほうを向き直り、臨戦態勢に戻る。
プラムは満身創痍で魔力も尽き体中が傷だらけだった。空に浮かドラコカードから光が降り注ぎ包み込まれると、癒すような温かさが体中を巡り、傷が消え魔力が蘇るのを感じた。
ドラコカード全てで展開するピラミッドは最上位の回復魔法であった。体力、魔法力、状態を正常に戻す。カイもアルベールも体調が元に戻った。
この魔法を使うと術者の魔法力が0になる。グレースはソレイユに魔法力回復の補助魔法を掛けた。ソレイユが魔法を使用できる状態になる。
「次は『古い剣』のスプレッドを展開してください。組み合わせによって攻撃の属性が変わってくるのですが、今回は、キーカードに『雷の塔』を使ってください。イシュタルはいつもそれでした」
ソレイユは剣の形にカードの並びをイメージする。キーカード以外のカードが変動的なので苦労した。イメージが曖昧だとカードがまったく動かない。
ソレイユは、『雷の塔』のカードに合わせて、大アルカナの強いカードを並べた。
『力』『邪神』『死神』『皇帝』『犠牲者』『青の軍神』『魔術師』『太陽』。
カードを並び終えようとした瞬間、脳と心臓に衝撃が走り、膝から崩れ落ちる。
グレースが慌てて回復魔法を掛けた。水が全身を包みソレイユの体力と魔力が回復する。
「強いカードばかりを使いすぎると魔力が消耗します。特に『世界』のカードは気を付けてください。『従属召喚』ができるため、多用すると命に係わります」
「従属召喚?」
「イシュタルは使いませんでしたが、あなたの何か、例えば瞳とか髪とかで従属契約をすると、霊獣を召喚できるそうです。命に係わるものだと縛りが強固になります。霊獣も今の世には神龍族しかいないので、あまり使い道はないかもしれませんが、危険なカードです」
「わかりました」
ソレイユはもう一度カードを並べる。今度は、小アルカナの小さい数値のカードを使ってみた。キーカードだけ、大アルカナの『雷の塔』を置くようイメージする。すると、剣の形にカードが並び、真ん中に『雷の塔』が収まる。
やはり、回転しながら宙に舞い上がると、剣の先端から電流が走り、光の剣が稲妻のように暗黒竜を襲った。
威力は中級クラスだが、対象範囲内で複数への攻撃魔法は支援魔法としてはかなり優秀である。
「その他に『生命の樹』は、対象は一人ですが体力、魔力共に回復します。後は、ご自身で試してください。わかっていると思いますが、強いカードは技も強いですが、魔法力を消費します。身の丈にあったカードを使わなくてはなりません」
「あたしも戦える。女王さま、ありがとう」
グレースは、静かに首をふる。グレースは、ソレイユの力を借りに来たのだと。
「ソレイユさんが敵の力を削いでくれたので、今なら全部の敵を結界内から追い出せます」
グレースは白魔法師らしく穏やかに微笑んだ。そして、杖を両手で握ると白い光が魔法陣を描き始めた。グレースの杖の前に精霊が集まる。
白魔法師は攻撃魔法が使えない。自分以外、誰も傷付ける事ができないのだ。その代わり、結界内で対象を退ける力は神さえも凌駕する。
六人の精霊が魔法陣の六芒星の頂点に位置した時、黒毒竜がすべて消える。結界の外に弾き飛ばされたのだ。
サイファはその様子を遠くから見つめていた。
白魔法師の力は
その疑問は、サイファの心に深く刻み込まれた。
続く
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