「太陽の金」と「夜の青」②
少年の鋭い斬撃は、イグアスの放った異能をその刃で切り刻んだ。
異能では捌ききれないと悟り、イグアスは神獣化を解き人の姿になる。
砂漠の砂のように真っ白な髪を高い位置で結び、オアシスの水のように澄んだアクアブルーの瞳をした騎士が地面に降り立った。
風のように薄い刃をした諸刃の剣を少年兵に向ける。
「それが
言い終わるや否、イグアスは少年に斬りかかる。少年の持つ短槍は、一瞬のうちに弓なりに
だが、大人と子供。力比べになると少年のほうは分が悪い。
「サイファ! 大丈夫か?」
レヴィは、巨大な諸刃の剣、ツヴァイヘンダーを抜きイグアスの剣を振り払う。イグアスは後ろ足で地面を踏み、風の魔法を唱え防御の壁で衝撃を相殺した。
「イグアス。何をしている。神龍族を裏切るのか!」
「先に裏切ったのは
イグアスは邪悪な微笑みを浮かべ、残酷な決断をしたようだった。
イグアスは構え、レビィを睨む。その決心はもう変えることはできない、後戻りのできないものだった。
彼は、姉を大切に守ってきた。
そのすべてが無駄になり、
姉の居ない世界で、オアシスの騎士として国を守る事なんてイグアスにはできなかった。
「イグアス。一時の感情でこんなことはしてはいけない。命があるのなら二人で私のもとに来るのだ」
「そもそも人間は守るべきものなのでしょうか? 姉の誠意を裏切り利用した、あのような汚い生き物は他には例を見ない。善意は利用しつくし、強い者には媚を売り、弱い者は踏みにじる。その上、善良なふりをする。神龍の加護など受ける資格はない」
イグアスはレヴィに向かってオアシスの剣を振りかぶる。
同時に風の魔法を左手に込めた。
白銀に光る魔法陣が手の甲に浮き上がり大地を照らす。
イグアスは魔法を悟らせないようにわざと大きく剣を振り下ろす。
レヴィはイグアスの切っ先をツヴァイヘンダーで薙ぎ払った。
その瞬間、左手の魔法陣から風の刃が縦横無尽に走りレヴィを切り裂く。腕や足から血飛沫が上がり赤黒く鎧を染めた。
「レヴィ様、その
イグアスはとどめを刺そうと両手で握ったオアシスの剣をレビィの肩めがけて振り下ろす。その瞬間、黄金色と青の残像が二人の間に割って入った。
イグアスの剣をアマルとサイファが同時に受け止めていた。
大人の力は子供が受けるには大きすぎるが、二人でなら受け止めきれる。
すかさずサイファは左の拳に魔法を込める。青く光る魔法陣が手の甲に浮かび上がり、水の塊がイグアスを襲った。
戦いなれたイグアスも負けてはいない。後ろに大きく跳躍し、攻撃は地面に逸れる。同じ師匠を持つ二人は、初めての共闘にかかわらず、息を合わせて動くことができた。
アマルは傷らだけのサイファに回復魔法を使い、二人はイグアスと距離をおき、剣を構える。
「僕はアマル。君がサイファ? 逢えるのを楽しみにしていた」
「俺も。せめて試練の後だったら良かったのに。水の魔法だけしかまだ使えないから」
本当なら二人は合流して一緒に
歴史的に見ても昼の太陽神と夜の軍神が一緒に生まれ出ることは初めての事だ。その事実を鑑みて、レヴィが指示したことだった。
「そこをどきなさい」
イグアスが二人に向かって距離を詰めてくる。その姿は聖なる輝きを無くし、邪神のように禍々しい気配を放っていた。子供たちを薙ぎ倒し、殺しても目的を達成するつもりだった。
サイファが一歩前に出ながらアマルに囁く。回復魔法ができるのならレヴィの怪我を治療してほしいと。
サイファは剣を握り直し、左回転をさせ、上向きに構える。
氷月夜刀槍を構成している物質は、瞬時に姿を変え、三日月の刃を持つ長柄槍になる。
体勢を低く保ちイグアスの足元に向かって払うように横から切り込んだ。
サイファの狙い通りにイグアスは後ろに飛び退く。
サイファは前進しながらイグアスに向かって連続で切り込んだ。
その隙にアマルはレヴィに向かって走り、レヴィの傷口に手を当てる。
清らかな水が全身を包むと大きな傷が止血された。
完全に治すことはできない、今のアマルにはそれが精一杯だった。
サイファの猛攻に一瞬押され気味だったイグアスだが、すぐに態勢を立て直し、槍の穂を避けサイファの懐に入る。近距離は長槍には不利だ。
サイファは武具の形を変化させようとするが間に合わない。
イグアスがサイファの頸をめがけて剣を振り上げた。
続く
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