「太陽の金」と「夜の青」③

 すんでのとろころで、アマルはサイファの体を庇い間に割って入った。


 渾身の力でイグアスの剣を受け止める。

 小さな二人の体はその衝撃に弾き飛ばされ、生命の樹カウサイ・サチャの幹にドシンと音を立てて激突した。


 岩のように固いはずの幹は、衝撃を吸収し二人は痛みを感じることは無かった。

 それどころか暖かい光が二人を包む。

 言葉ではない意志のようなものが二人の脳裏に駆け巡った。


 そして、二人は一瞬で理解する。この戦いが裏の世界ウク・プチャウで与えられるはずの試練の代替えになったと。


 新たな力が宿り、きりりと尖った緊張が体を走り抜け、サイファの左の手の甲に深藍色ふかあいいろの魔法陣が浮かび上がった。


 力を込めて握ると水が氷になる時のような、澄んだ音色が頭の中に響く。


 ここだというタイミングが確信に変わった。


 魔法陣から鋭い氷の刃が空気中に形作り、イグアスに狙いを定め矢のように飛ぶ。


 サイファに開花した能力は氷の魔法だった。これには、イグアスも避け切れず急所の目や喉を守るのがやっとであった。



 アマルの手の甲には、金色の魔法陣が浮かび上がっている。全身が熱を帯び、光が踊るように体を包むのを感じた。拳を握り振りかざすと光の矢がイグアスに向かって飛ぶ。


 イグアスは大きく後退した。


 サイファを失いたくないというアマルの祈りは形になり、左の拳を開くと金色の丸い発光体がてのひらに乗っていた。


 その手でサイファの槍に触れると、光が穂の先端から柄を通り抜け、石突きまで吸い込まれるように移動した。


 それは、アマルの光の加護だった。加護を受けた武具の持ち主は、永続的に身体能力が向上し、体力や呪い、毒を回復する。


 力を得た二人は、舞うように力強く反撃の刃を振るう。一振りするたびに深藍と金色の軌道に氷と光が煌めく。


生命の樹カウサイ・サチャは何が何でも、わたしを蔑ろにしたいのか」


 イグアスは悔しそうにアマルとサイファを睨みつけると、大地を蹴って飛び、アマルに剣を振り下ろした。サイファは咄嗟にイグアスの間合いに入り剣を防ごうとする。


 その刹那、イグアスが自分の懐から何かを取り出しサイファに向かって投げた。


 それは、異臭のする黒い液体だった。

 液体はサイファの顔や頸に掛かり、ジュっと皮膚を焼きその刺激が走る。みるみる変色し皮膚が黒く染まった。あまりの痛みと苦しみにサイファは地面に膝をつく。

 その黒いシミは芽吹くように鱗模様の痣となり全身に広がった。粗方の皮膚が黒いうろこ状になると、今度はサイファの青い髪を侵食する。毛先まで焼け焦げたような黒に染まった。


「サイファ!」


 アマルは叫びサイファに駆け寄る。


 両手を広げ大きな魔法陣を展開すると光による浄化を施した。


 イグアスの風の刃が二人に向く。頬を鋭い風が切り裂いてもアマルは呪いを浄化し続ける。


 その時、目を覚まし覚醒したレヴィに悪夢のような光景が飛び込んできた。


 オアシスの騎士イグアスが、邪悪な微笑みを向けて、抵抗ができない子供たちを攻撃している。そのさまは、神龍とは程遠い悪の化身。

 そして、毒に侵された次期軍神サイファ。


 続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る