「太陽の金」と「夜の青」①

 軍事国家であるメンシスの城は、王族の居城ではなく、駐屯所のような役割をしていた。

 堅牢で飾り気の無い要塞の城。

 有事には、領民が全てが籠城できる避難場所でもあった。


 青龍・翠龍すいりゅう紅龍せきりゅう・白龍の各軍が寝泊まりする宿舎があり、各建物の入り口には軍を象徴するエンブレムが掲げられている。


 サイファは、軍より与えられた居室で出立の準備をしていた。

 真新しい鎧に身を包み、試練の時を待ちわびる。


 生命の樹カウサイ・サチャによる試練は、命を奪うものではない。

 その資質が試されるものだ。

 極限までの恐怖状態で心のすべてが暴かれる。

 その試験によって戦闘不能に追い込まれれば、二度と武具が握れなくなることもあった。戦いのできないものは、最初に振るい落とされるのだ。


 只の兵卒ならそれでもいいだろう。

 世の中は軍隊が全てではない。適した仕事を与えられる。

 だが、サイファは軍神だ。負けるわけにはいかない。


 しかし、サイファはマキシムのように戦術や統率力に長けている訳では無かった。


 自分は軍神の器ではない。

 その考えが頭を占めていた。



 その時、人々の逃げ惑う悲鳴が聞こえた。窓を開けて外を見る。


 そこから見えたのは、大型の白龍が無差別に攻撃を放ち、空を滑空している姿だった。


 サイファは外に飛び出した。

 もうすぐ、試練の時刻だ。アマルが天空の国ハナク・ユスより飛び立ってしまう。白龍は、生命の樹カウサイ・サチャに向かっていた。


 城門を開け、サイファは領民へ声の限り、中へ入るよう叫んだ。


 青龍軍の将を任されているマキシムは、軍を引き連れ天守閣より飛び立つ。


 今朝から西と北の大陸で黒毒竜の被害が拡大し、計ったように他の軍は出動していた。


 門番に誘導を任せ、サイファも天守閣より飛び立つ。


 生命の樹カウサイ・サチャの麓で、青龍軍と白龍が戦闘となっていた。

 白龍が何者かは不明だが、けた外れに戦闘能力が高い。

 獣化した青龍が次々と倒され、人の姿に戻っていく。マキシムさえも膝をついていた。


 サイファは白龍の前に降り立つ。

 子供の龍の有志に奮い立ったマキシムが、声を上げ軍を立て直す。

 動けるものは再び獣化した。


 声を上げ、白龍に攻撃を仕掛ける。

 風の異能を吐く白龍は、水の異能の青龍たちとは相性が悪い。また、単騎である白龍に、広範囲物量攻撃を得意とする水をぶつけても揺るぎもしなかった。


 誰もが想像しなかった、同族同士の戦闘。暗黒竜と戦うすべは叩き込まれていても、神龍と戦うことは想定されていない。


 サイファは神体を解き、人の姿となる。

 サイファの武具なら、神龍の異能に特殊効果を持っていた。

 異能を掻き消せる。



 ◇◇◇



 落下し近づくにつれ、アマルは異変に気が付いた。

 大型の白龍が生命の樹カウサイ・サチャの前で戦いを繰り広げている。

 応戦するのは青龍軍。白龍の異能によって巻き起こる疾風が、辺りの木々をなぎ倒し、青龍たちを吹き飛ばしていた。


「あれは、イグアス。なぜだ?」


 レヴィが空中で体を捻り、頭を落下地点に向け高速で急降下する。すべての兵士がなぎ倒されたかに見えたが、槍を持った少年兵は一人立ち上がった。

 イグアスの前に立ちはだかり、槍を構える。


 頬の大きな傷からは赤い血が流れ、服もボロボロに破け満身創痍の状態だった。

 だが、その青い瞳には、まだ光が残っていた。生来持っている気質のせいか、怯む様子も無い。


 冷たい光を放つ青い刀身に、夜明けの色をした髪。首の後ろで括った髪は、始まりの空のように毛先に行くほど色が薄まる。

 少年兵は前に向かって走り、髪は軌道を描くように後ろに靡いていた。


 続く

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