第三章  燈火の聖女②

プラムのイヤーカフは、右が赤い鱗で左が黒い鱗だった。暗黒竜と紅龍の鱗で間違いはなかった。

暗黒竜と神龍族の混血が存在する事は、サイファも今回初めて知った。

但し、暗黒竜が普段は人型で暮らしているなら、不可能な事では無いのだ。

神龍族は、生命の樹カウサイ・サチャの果実が結実して生を受けた存在でも、他の神龍と同じに生殖機能は正常だった。

しかも、神龍と人間が共存する国では、神龍と人間の混血は当たり前に存在する。また、黒秘竜の村では純血な竜は現在では殆どいないという。

竜との混血児は暗黒竜の性質が色濃く出るため、人の世界では飛び抜けた存在となってしまう。なので、暗黒竜の親と暮らすほうが圧倒的に多かった。

但し、暗黒竜と神龍は通常は相容れない存在のため、混血児が存在することは誰も知らない。


ソレイユのドラコカード占いには太陽神の絶対的な力が働いている。

それは、サイファが肌で感じて確信を持っていた。

また、インティ・オパールは、アマルの額を飾る事によって、世界を見通す力が発現する。それと同じような効果がソレイユの占いに出ているようだった。


それならば、ソレイユがプラムの事を占うのが、封印を解く一番の近道だった。


「ここがそーちゃんの占い部屋ですか!! 素敵ぃぃ」

「素敵って、ただのテントでしょうが。ほんと、少し感覚ずれているよね。この眼鏡っ娘は」

「そーちゃん、いけずぅ。ま、そんなところが、そーちゃんの魅力ですね」

まったく、とソレイユは腰に手を当てる。

プラムとソレイユが合わさると、女子トークに花が咲いてしまって、真面目な話ができない。

本人が望んでいないなら、封印は解かなくてもいいのではないか? とソレイユもサイファも思い始めていた。

サイファの目的の為に、嫌なことを無理にさせるのは気が引ける。



「プラムちゃんは、両親の事知りたくないの?」

プラムの顔が少し曇る。

プラムには神龍が親なんて信じられないし、片親が狂暴な暗黒竜だとしたら、どうしたらいいのだろうと考えてしまう。

育ての親は、プラムが人間との混血ではないだろうとは薄々感じていた。


「なぁ、プラム。その赤い鱗は紅龍のものだ。紅龍族は総じて非常に暖かく優しい性格をしている。それに薬泉やくせんが湧き出る場所に住んでいるから、薬師が多い。プラムは紅龍に性質が良く似ている。

それにな、紅龍はとても強い。怒らせると恐ろしい。プラムが暗黒竜との混血だとしたら、両親から望まれて生まれたのだと思う。母親が紅龍だとしても、手籠めにするなんて、どだい無理だしな。

理由があって、離れて暮らさなくてはならないとしても、好き合って生まれた子だと思う」


プラムは遠くを見つめるような眼差しをした。

例を見ない子供と言われたって、本人が悪いわけではない。親は選べないのだ。

それに、プラムは黒秘竜の村ではずっと異質な存在だった。一人だけ小人族と程遠い姿をしていたし、背も高かった。

プラムの育ての親は、長老から選ばれて養子縁組をしたと聞いている。

二人ともとても良くしてくれた。本当の娘以上に。

だから、プラムが不幸になるのは産みの親だって望んでいないはずだ。


「そっか、そうですよね。封印を外したって、黒毒竜みたいになってしまう訳でもなさそうだし、魔法も使えたほうが便利そうだし。本当はね。自分が自分で無くなってしまうのが、ちょっと怖かった。うん、血の繋がった親と自分を信じてみます」


「そう、なら、そこに腰かけて」と発すると、ソレイユの纏う空気が変化する。有無を言わせないような神聖な雰囲気は、このテントを別世界にした。

プラムの瞳が自然と閉じる。内面の世界が広がり、プラムは暗い星空に弾き出されたような気がした。

「プラムちゃん、あたしと一緒に左手でカードをシャッフルして。円を描くようにね」

プラムは瞼の裏に、赤く輝く星を感じ、その星を左手で追った。星の尾が綺麗で、暖かくて、懐かしくて、この星に出会えただけでもう十分だと感じた。プラムの瞳から一筋の涙が流れる。


カードは交差する。過去と未来を。

奏でるようにビロードの上を舞う。

そして、万里を見渡し、事象を捕らえた。

シャッフルの終わりは自然に解かる、澄んだ光を感じるから。


二人は同時にカードから手を離した。

ソレイユはカードを真ん中に集め、横向きに揃える。


「プラムちゃん、目を開けて。そして心の赴く方向に動かして、カードの上下を決めてね」

プラムは右回転でカードを縦にした。


ソレイユは爪弾くようにカードを左手の山から右手に移す。一枚、また、一枚と。

事象の片鱗を選んでテーブルに伏せた。

ソレイユはカードで六芒星を創る。最初の正三角形は、赤いイヤーカフスを解く鍵を。逆三角形は、黒いイヤーカフスの封印を解く鍵を。

選ばれた六枚のカードはスプレッドの定位置に収まる。

すると、ソレイユはプラムの前に残ったカードの山をアコーディオンのように広げた。

「キーカードを選んで、プラムちゃん」

赤い星がプラムの脳裏に煌めき導く。ふと、カードを選んだ。ソレイユは受け取り、六芒星の中心に置く。


三角の頂点、『現状』の位置には『翠龍の5の正位置』。

底辺の西、『潜在意識』は『いかづちの塔』の正位置

底辺の東、『未来』は『くれないの聖女』の正位置。


逆三角形の下の頂点の『現状』には『皇帝』の逆位置。

上の辺の西、『潜在意識』は『紅龍のペイジ』の正位置。

上の辺の東、『未来』は、『創める者』の正位置。


最後のキーカードは『力』の正位置。


ソレイユは瞳を閉じ、インスピレーションを待つ。伝わるのは親たちの愛情と支配者独特の自己愛。どちらにしても秘められたものは強い。

「プラムちゃんは、冒険の挑戦者よ。黒のイヤーカフの封印を解くことは必要。そこから全てが始まる。進む先に何が待とうと、その一歩は必要なこと。紅、つまり炎の力。皇帝の裏、つまり闇の力。そして必要なものはキーカードの大アルカナの『力』、とても強力な物理的な『力』が必要。」


ソレイユは、全てのカードを集めシャッフルする。テーブルの上に散らばるカード。それを指さし告げる。

「ワンオラクルカードを選びなさい」

プラムは指が震えた。このカードは味方になる。そう直感した。自分には選べるのか? 多分、あの人。

ここだと、確信のある一枚のカードを選んだ。

表に返したカードは、『青い軍神』、青龍のカードだった。



続く

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