燈火の聖女②
プラムのイヤーカフは、右が赤い鱗で左が黒い鱗だった。
紅龍と暗黒竜の鱗で間違いはなかった。
暗黒竜と神龍族の混血が存在する事は、今まで誰も知らなかった。
但し、暗黒竜が普段は人型で暮らしているなら、不可能な事では無い。
神龍族は、
しかも、神龍と人間が共存する国では、神龍と人間の混血は当たり前のように存在する。
また、黒秘竜の村では純血な竜は現在では殆どいないという。
竜と人との混血は、人間の子供と大差は無かった。
ソレイユのドラコカード占いには太陽神の絶対的な力が働いている。
それは、サイファが肌で感じて確信を持っていた。
また、インティ・オパールは、アマルの額を飾る事によって、世界を見通す力が発現する。それと同じような効果がソレイユの占いに出ているようだった。
それならば、ソレイユがプラムの事を占うのが、封印を解く一番の近道だった。
「ここがそーちゃんの占い部屋ですか!! 素敵ぃぃ」
「素敵って、ただのテントでしょうが。ほんと、少し感覚ずれているよね。この眼鏡っ娘は」
「そーちゃん、いけずぅ。ま、そんなところが、そーちゃんの魅力ですね」
まったく、とソレイユは腰に手を当てる。
プラムとソレイユが合わさると、女子トークに花が咲いてしまって、真面目な話ができない。
本人が望んでいないなら、封印は解かなくてもいいのではないか? とソレイユもサイファも思い始めていた。
サイファの目的の為に、嫌なことを無理にさせるのは気が引ける。
「プラムちゃんは、両親の事知りたくないの?」
プラムの顔が少し曇る。
プラムには神龍が親なんて信じられないし、片親が狂暴な暗黒竜だとしたら、どうしたらいいのだろうと考えてしまう。
育ての親は、プラムが人間との混血ではないだろうとは薄々感じていた。
「なぁ、プラム。その赤い鱗は紅龍のものだ。紅龍族は総じて非常に暖かく優しい性格をしている。それに
プラムは遠くを見つめるような眼差しをした。
例を見ない子供と言われたって、本人が悪いわけではない。
親は選べないのだ。
それに、プラムは黒秘竜の村ではずっと異質な存在だった。
一人だけ小人族と程遠い姿をしていたし、背も高かった。
プラムの育ての親は、長老から選ばれて養子縁組をしたと聞いている。
二人ともとても良くしてくれた。本当の娘以上に。
だから、プラムが不幸になるのは産みの親だって望んでいないはずだ。
「そっか、そうですよね。封印を外したって、黒毒竜みたいになってしまう訳でもなさそうだし、魔法も使えたほうが便利そうだし。本当はね。自分が自分で無くなってしまうのが、ちょっと怖かった。うん、血の繋がった親と自分を信じてみます」
「そう、なら、そこに腰かけて」と発すると、ソレイユの纏う空気が変化する。
有無を言わせないような神聖な雰囲気は、このテントを別世界にした。
プラムの瞳が自然と閉じる。
内面の世界が広がり、プラムは暗い星空に弾き出されたような気がした。
「プラムちゃん、あたしと一緒に左手でカードをシャッフルして。円を描くようにね」
プラムは瞼の裏に、赤く輝く星を感じ、その星を左手で追った。
星の尾が綺麗で、暖かくて、懐かしくて、この星に出会えただけでもう十分だと感じた。
プラムの瞳から一筋の涙が流れる。
カードは交差する。過去と未来を。
奏でるようにビロードの上を舞う。
そして、万里を見渡し、事象を捕らえた。
シャッフルの終わりは自然にわかる、澄んだ光を感じるから。
二人は同時にカードから手を離した。
ソレイユはカードを真ん中に集め、横向きに揃える。
「プラムちゃん、目を開けて。そして心の赴く方向に動かして、カードの上下を決めてね」
プラムは右回転でカードを縦にした。
ソレイユは爪弾くようにカードを左手の山から右手に移す。一枚、また、一枚と。
事象の片鱗を選んでテーブルに伏せた。
ソレイユはカードで『六芒星』を創る。
最初の正三角形は、赤いイヤーカフスの封印を解く鍵を。
逆三角形は、黒いイヤーカフスの封印を解く鍵を。
選ばれた六枚のカードはスプレッドの定位置に収まる。
すると、ソレイユはプラムの前に、残ったカードの山をアコーディオンのように広げた。
「キーカードを選んで、プラムちゃん」
赤い星がプラムの脳裏に煌めき導く。ふと、カードを選んだ。ソレイユは受け取り、六芒星の中心に置く。
三角の頂点、『現状』の位置には『翠龍の5の正位置』。
底辺の西、『潜在意識』は『
底辺の東、『未来』は『
逆三角形の下の頂点の『現状』には『皇帝』のリバース。
上の辺の西、『潜在意識』は『紅龍のペイジ』の正位置。
上の辺の東、『未来』は、『創める者』の正位置。
最後のキーカードは『力』の正位置。
ソレイユは瞳を閉じ、インスピレーションを待つ。
伝わるのは親たちの愛情と支配者独特の自己愛。
どちらにしても秘められたものは強い。
「プラムちゃんは、冒険の挑戦者よ。黒のイヤーカフの封印を解くことは必要。そこから全てが始まる。進む先に何が待とうと、その一歩は必要なこと。紅、つまり炎の力。皇帝の裏、つまり闇の力。そして必要なものはキーカードの大アルカナの『力』、とても強力な物理的な『力』が必要。」
ソレイユは、全てのカードを集めシャッフルする。テーブルの上に散らばるカード。それを指さし告げる。
「ワンオラクルカードを選びなさい」
プラムは指が震えた。このカードは味方になる。そう直感した。自分には選べるのか? 多分、あの人。
ここだと、確信のある一枚のカードを選んだ。
表に返したカードは、『青い軍神』、青龍のカードだった。
続く
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