インティ・ゴールド(太陽の黄龍)①
『儀式の日』は、晴れた青空が眩しい日だった。
雄大な山より大きい
その白壁を
太陽神アマルは戦いの装束で回廊を歩く。翻るマントを追うように側近が後を追ってくる。
王宮で働くのは神龍族の大多数を占める
「アマル様の金色の
「ええ、本当に。大気からも守護の光が消えてしまって。恐ろしい事でした。 女神様の病状に治療師も手の施しようが無く、最期の時を迎えられるなんて、誰も予想できないことでしたね。 最期の力を振り絞って、逆鱗より赤子を生み出され消えてしまわれた。 とても悲しい出来事でした」
この世界では、神と呼ばれる特別な龍は、
しかし、アマルの場合は例外で、先代の女神ルフレが瀕死の状態になった三日後に、最期の力で生み出された奇蹟の子だった。
アマルが生まれると同時に、聖なる光は大気中に復活したが、その時には、多くの邪悪な暗黒竜が、北大陸にある『ドス・オホスの穴』より這い出していた。
五千年も昔に封じた暗黒竜の復活だった。
回廊を抜けると、
その透けるような髪に、太陽神の証ともいえるインティ・オパールの
この宝石は、主に合わせてその姿を変える。時には髪飾りとなり、礼装の時などは胸飾になった。まるで意思を持っているかのように形を変え、選ばれた者だけが手にすることができる至宝。
この宝玉が
しかし、アマルはまだ、その能力を発現できないでいた。
軍神である青龍レヴィは回廊の出口で跪きアマルを待つ。
老いて白く霞む青い瞳には、まるで光そのものが近づいて来るように見えた。
アマルが生まれたと同時に、対となる次期の軍神も
恐らく、この二人を育てるのが自分に残された最後の使命であろう。レヴィは右腕を胸の前で曲げ、左腕を後ろに回し頭を下げる。
「龍王軍元帥レヴィ。自ら出向いてくださったのか? 感謝する」
「龍王様におかれましては、ますますご健勝のことと存じます。我が領地にお越しくださるとのこと。歓迎いたします」
アマルはレヴィに右手を差し出した。剣の師匠でもあるレヴィは面を上げ微笑み、その手に恭しく唇を当てる。左手には、防御武具である銀色の手甲がはめられ、夜の神の証であるノックス・オパールが光を吸い込むような紺碧色をしていた。
この二つの宝石は対になっていて、近くに在ると共に共鳴し合う。
その繋がりはアマルに安心感を与えた。
時に厳しく、けれど大海原のように優しい。父のように慕う師匠であった。
戦闘訓練の最終の地でもある、
前太陽神の女神ルフレの時代は、光の守護が大陸の隅々まで行き渡り、世界は平和で安定していた。
しかし、暗黒竜が暗躍する今の世代は、男神の武力による統治が求められていた。
太陽神でさえも、安定した力を手に入れるには、
アマルはその試練に立ち向かい、新たな力を手に入れようとしているのだった。
後ろに控えていた翠龍のフィオナが一歩前に出て、不届き者を見つめるような冷たい眼差しを向けた。
「軍神よ。アマル様は次の皆既日食で完全体と成る。 まだ、時は満ちていない。今回は次期の軍神も一緒だと仰るが、御身に何かありましたら、貴方の責任ですよ」
フィオナはアマルを母のように慈しみ育てた神官で、その生涯を信仰と武芸に捧げていた。
「巫女様。皆既日食は四百八十年に一度。次の日食までに後八年もあります。それまで何もされないのは、龍王様も望まれておりません。龍王様には類まれな剣の素養があります。今のままでも剣技を花開かせることは十分可能でございましょう」
太陽神は皆既日食のたびに、その神体は新たな段階へ進化する。
その時、副産物として『
『
「フィオナ。これは僕が望んだことだ」
続く
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