霊感がある娘と筆耕士の母の会話

三角ケイ

第1話

「私、お化けに憑かれたみたい」


 娘からの仰天発言。


「どうしてそう思うの?」

「肩が重くて怠くて痛いから」

「肩こりね」

「違うわ。私には霊感があるからわかるの」


 あら。それなら。


「お母さんに任せなさい。筆耕の仕事で妖魔退散の御札も請負ってるの」

「なにそれっ!有り難みゼロカロリーだわ」

「いいから後ろを向いて。痛いの飛んでけー」


 娘の肩に湿布を貼り、お呪いを唱える。


「中学生でお呪いは恥ずか死ねる。ん?ポカポカして軽くなってきた」

「効いて良かった。でもね、それは一時しのぎ。原因を解消しなきゃ」

「それってお祓い行くとか?困ったな、忙しいのに」


 娘は恋に部活に勉強と大忙しだ。


「長時間同じ姿勢でスマホは疲れるわ。適度に体を動かさなきゃ」

「同じ姿勢でいると憑かれるものなの?」

「お風呂をシャワーだけで済ませるのも止めなさいね」

「お清めも頭から水をかけているんだから一緒じゃん」


 あなたがシャワーで出しているのはお湯でしょ。


「ちゃんとお湯に浸からなきゃ疲れは取れないのよ」

「面倒くさい」

「面倒がらないの!後、お臍を出す服もよくないわ」

「お化けにお臍を取られちゃうから?」


 いつの時代も冷えは女の大敵よ。


「ビタミンCがいいとテレビで言ってたわ。ミカン食べなさい」


 娘が引き出しを開ける。


「変だと思った。湿布じゃん」


 娘が部屋を出て、一人残った所で突如、お呪いで祓った妖が襲ってくる。


〈ヨクモ祓ッテクレタナ〉


 引き出しから湿布を掴み、振り向きざま唱える。


「封」


 妖がボンッと音を立て消え、掴んだ湿布に妖の姿が封の文字と共に浮かび上がる。


「凄い音したけど何?」


 ミカンを手にした娘が来て、湿布を見る。


「湿布に鬼や字を書いても御札には見えないよ」

「私は退魔師もしているから何でも御札に出来るのよ」

「お母さんは筆耕士でしょ。娘が中学生だからって中二病なボケを言うの止めて。前に私のお父さんは魔王だと言ってたボケといい、ボケに無理があり過ぎ」

「本当よ。聖なる霊力を持つあなたを夫が殺そうとしたから退魔師に寝返ったの」


 娘は溜息をつき、肩を竦める。


「最初にボケた私が悪かったわ。どうせ私は霊感がない肩こり娘ですよ〜だ」

「あら?ちゃんと霊力はあるわよ」

「はいはい。ね、ミカンの他には何がいいの?」

「ビタミンBもいいみたい。今夜は鰻にしましょ」

「やったー!鰻」


 母はバンザイして喜ぶ娘を微笑ましく見ながら、夫の手先の妖を封じ込めた湿布をグニュと丸め潰した。

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霊感がある娘と筆耕士の母の会話 三角ケイ @sannkakukei

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