沸騰する祭×去らない熱

長月瓦礫

沸騰する祭×去らない熱

打ち上げられた花火の残骸は夜空を白く染め上げた。

川周辺は人でごった返し、出店はいそいそと片づけを始める。

たった今、夏祭りが終わったところだ。


明日からまた、人々は日常生活に戻る。

花火で盛大に締めくくり、人々は家路につく。


靄のような何かがうごめいている。

祭りに残った熱が残っている。


熱を消すように、大粒の雨が降り出した。

人々はあっという間に走り出し、道路は水浸しになる。


雨が降ると人は来なくなる。

祭りも同じだ。片付けもささっと終わらせ、誰もが家に帰った。


ゆらゆらと長い髪を揺らし、雨の中、歩いていた。

夏祭りを探しているのか、ずっと歩いている。


店の片づけを終えた青年が目に入った。

目の前まで近づいて、黒く染まった目で見る。


「私、雨の日が嫌いなの。

濡れるし冷たいし痛いし濡れるしさ。いいことないでしょ?」


彼女は続ける。


「だからね、一度くらいはこんな雨が降ってもいいんじゃないかなって思ってたんだ」


鈍色の綺麗な雨が降り注ぐ。

さんさんと流れ星みたいに落ちては消える。

人の命を消すための流れ星が降り注ぐ。


青年は店の荷物を盾にして雨をしのいだ。

地獄のような雨、大きな音を立てて、体に強く打ち付ける。

数十分もすれば雨はあがった。


青年は自分の仕事に集中している。彼女のことが目に入らないらしい。

常に何かに追われているらしく、余裕がなさそうだ。


よく見ると、店員の胸あたりにひびが入っている。

仕事に耐えられなくなって、いつか壊れる時が来るのだろうか。


「壊れたら迎えに行くからね~」


雨で煙は洗い流され、綺麗な夜空が広がっている。


次の日から日常が始まる。

彼女のことを置いてけぼりにして、すべてが元に戻る。


彼女は後ろを振り向いた。眼は黒々とした闇に覆われ、渦巻いていた。

からっぽの笑顔を浮かべていた。





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沸騰する祭×去らない熱 長月瓦礫 @debrisbottle00

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