最終話:エピローグ的なもの
「いやぁ……壮観だなぁ……」
俺は崩れゆく魔王城を見ながらそんなこと思う。え?なんで魔王城が倒壊してるのかって?それは遡ること数分前のこと━━━
いやぁ……疲れたねぇ。魔王を倒すのにあんなに無茶する羽目になるとは、最初は想像もしてなかったぜ。
「お前ら大丈夫かー?」
安否確認で声をかけるが、皆疲れているからか、声は出さずに腕を動かしたりして返事をする。大丈夫そうではないが、生きてるのが確認できただけ良し!
「にしても……俺たち、魔王を倒したのかぁ……すげぇなぁ。」
結構感動するわ。RPGの主人公たちもこんな気持ちになったのかね。……なんとも良い気分だねぇ。
そうして優越感に浸りながら、体力を回復するために休憩して、少し経った時のことだった。
「よし、十分休憩したし。そろそろ帰ろ……ぅ……ん?」
何か音がしたような気がする。周囲を見渡し、耳を澄ませてみると窓ガラスがカタカタと音を出しているのが分かった。
……揺れてね?
勘違いかと思ったが、揺れは次第に大きくなっていき、床が軋み始める。大地震でも起きたのかと思っているとアレンが声を上げる。
「ヒビキ殿……大変であるっ」
「どうしたぁ!」
「この城はどうやら魔王の魔力によって維持されていたようなのだ……つまり魔王が死に絶えた今、この城は直ぐさま崩れ去ることであろう。」
うっそぉん。マジかぁっ……クッ!……確かに組織の親玉が死んだら本拠地ごと自爆したりするのはあるあるだけどさぁ……!
「お前ら!悠長に入口に戻ってる暇はねぇ!じゃあどうするか!ユーリくん!答えなさい!」
「ぇぁっ、えっ!?窓から飛び降りる……とか?」
「正解!よーし!お前ら!最後の力振り絞って外に飛び出せェ!!」
倒れてるヤツらの手を引っ張って全力で窓へと向かって走る。そのまま窓にぶつかって突き破る。それについてくる形でユーリたちが窓の外に飛び出す。
もちろん、翼があるフィレス以外は空を飛べるわけないので、そのまま自由落下を始める。
「「「ぁあああああああッ!!」」」
「ぬわぁぁあ!!アレン頼んだァァ!!」
「了解ッ!【
……っぶねぇ!!地面に落ちるスレスレのところでアレンの魔法がかかり、体が宙に浮き始める。
「……ふぅ……セーフ。これで一安心だな。」
「……ねぇ、ご主人様。このままだと城の倒壊に巻き込まれそうだけどホントに安心なの?」
「あっ………………お前ら!全力逃げろぉお!!」
━━━そうして死ぬ気で逃げた結果、今に至るという訳だ。魔王城から少し離れた丘から魔王城倒壊の様子を視聴している。
全てが崩れ去り、瓦礫の山が築かれる。そんな光景を見た後、俺は絞り出すように声を出す。
「よし、帰って寝ようぜ。」
「「「「賛成!」」」」
そうして俺たちはここから一番近い街であるアルカナに帰還し、宿屋で爆睡した。どうやらほぼ丸1日寝ていたようだ。
そこから色んなことがあった。まず、寝起きで宿屋から出ると街の人達に出待ちされており、盛大に祝われた。
情報の伝達早いなと素直に感心した。そして三日三晩に渡る宴が行われ、街は大いに賑わった。
その数日後のこと。魔王が倒されたという情報は王都に伝わり、俺たちの元へ使者が遣われ、王と謁見することになった。
まぁ、王と謁見する時、1人は悪魔の生まれ変わり、1人は王族からの追放者、1人は魔物というよく考えなくてもヤバい組み合わせだったから半分がフード被って顔を隠すという珍事が起きたけどな!
そして報酬として大量の金貨が俺たちの目の前へと運ばれてきた。山積みになった金貨に目を輝かせていると、王から「私直属の騎士にならないか?」というスカウトが来た。
ただ王の騎士なんてめっちゃめんどくさそうなので、金だけ貰って速やかに城から逃げた。多少追いかけられたが、こちとら魔王を倒した最強のパーティー!追いつける訳もなく、そのまま全力で逃げていると、とある田舎の村までやってきた。
ここなら俺たちのことを知ってる奴が居ないし、ゆっくりとスローライフを送るのに良いだろうと考えた。そして王から貰った金で家を建てて仲間と一緒に農業などをしながら毎日を過ごした。
これは【魔王を倒した勇者、田舎の村でスローライフ】っていう物語が始まったな間違いない。
アレンはアルバーナに研究室を建てるという目的があったので、ここで別れることになった。まぁ、会おうと思えばいつだって会える。
さて、あとはゆっくりとほのぼの生活しますかね━━━
━━そしてスローライフを始めて、何十年も経った日のこと。俺は仲間に囲まれ、ベッドの上で寿命を迎えようとしていた。
「……はぁ……そろそろかぁ……」
声もしわがれて、筋肉も衰え、肌もしわくちゃになった。日に日に老いを実感してきたが、それも今日で最後か。
目を動かして周りを見渡すと、今にも泣きそうなヤツが何人か、黙りながらも悲しみを抱えているヤツもいるな。
皆しわくちゃの老人になって、見る影もない。昔の美形集団の面影はあまりないな。
「……皆衰えたけど、フィレスはあんまし変わってねぇな。出会った頃より、多少成長したくらいか。」
「竜ですから!」
「そうか……元気だな……ハッハッハッ……」
「………………」
これで最後だと皆がわかっている。だからこそ、何を話せばいいのか分からずに沈黙が流れる。その空間に我慢できなくなったのか、ユーリくんが声を上げる。
「あのッ!」
「ストップ!お別れの言葉は言うなよ。」
「えっ……?」
「俺たちはきっとまた会える。それが何時になるかは分からないけどな。それに最後に聞く言葉はたわいもない言葉の方が良い。」
無責任な考えだが、それが一番良いと俺は思った。別れなんて悲しいことよりも、いつも通りの会話をしたいと望む。
「じゃあ、ヒビキさん……初めて会った時、私の事どう思ってました?」
「……フィレスのことは、竜で女の子とか可愛くて強くて最強じゃんと思ってた。だから仲間にしたくなったんだ。」
理由は不純だけど、あの時フィレスを仲間にしようと思った判断は間違いじゃなかったと胸を張って言える。そのくらいフィレスは活躍してくれた。
「ヒビキ殿、魔法の研究は今も順調に進んでいるぞ。それに助手も雇ったのだ。これでもっと魔法を追求できるようになった。」
「そりゃすげぇな……俺も魔法使いたかったな。まぁ、仮に使えてもアレンの魔法には、絶対敵わなかっただろうけど。」
アレンが魔法に魅せられたように、俺もアレンの力に魅せられた。今思い返すと、仲間の中でトップクラスにチートだったよなぁ。
「……ご主人様、頭撫でてほしい。」
「はいはい。いつまで経っても甘えん坊だなぁ。」
ミナの白くなった髪をゆっくりと撫でる。ミナの目からはポロポロと涙がこぼれ落ち、床を濡らす。
「……ヒビキさん……僕たちとの旅は……楽しかったですかっ?」
涙を堪えながらユーリくんが俺にそう問いかける。……何かと思えば、そんなことか……でも、最後に、そんくらいは……答えないとな……
「……お前らと旅ができて……俺は楽しかった……さ………」
そう答えた瞬間、俺は意識を失った。
享年87歳。仲間に見守られながら勇者は大往生でこの世を去った━━━
━━━目が覚めると、俺はどこか懐かしさを感じる空間に佇んでいた。ふと、自分の体を見ると、異世界に転生する前の頃へと体が若がっているのが見て取れた。……状況を把握しようと分析していると、何十年ぶりかに聞く声が耳を刺激する。
「あっ、起きましたか?」
振り返るとそこにはかつて見た天使の姿があった。姿はあの頃と何一つ変わっていない。
「…………天使か。ってことは死んだのか。」
「死んだのに落ち着いてますね?」
まぁ、そりゃ2回目だしな。さすがに前回みたいに激昂したりはしないさ。
「2度目の人生、いかがでしたか?」
「……まぁ、楽しかったよ。仲間にも恵まれたしな。やれることはやりきれたよ。」
思い残したことは何も……何も?……違う……一つだけ、たった一つだけ。やり残したことがある。
「……なぁ、天使よ。そういえばなんだけどさ。」
「なんですか?」
「俺な、どうしてもやらなくちゃいけないことを思い出したんだよ。」
思い出される数十年前の決意。あの日から決して揺らぐことのなかった感情。それを今ここで解放しよう。
「……よくも説明なし、特典なし、財産なしのナイナイづくしで異世界に送りやがったなこの堕天使がよォ!」
「あ、あっ、それは〜そのぉ……」
「テメェの顔面を凹ませてやらァ!!」
「ひッ!?お許し下さァァい!!!」
そう言って天使は全速力で逃亡する。もちろん逃す訳もなく天使を全速力で追いかける。生きてきた中で今が1番足速い気がするわ。
「逃がすと思ってんのかァ!地の果てまで追っかけてやるわァ!ハッハッハッハッ!!!」
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こうして彼の【三雲 響】の冒険は終わりを告げたのであった。
世界を救った彼の物語の幕引きはどこかコミカルなものだったね。まぁ、それが彼らしいといえるだろう。
彼が残した業績はあまりにも大きい。きっと彼は【勇者】として何百年と語り継がれることになるだろう。
……実際、あの状況から魔王を討伐するなんて普通はできないだろう。多少運命力をおまけしてあげたけど、まさかああなるとは想像もしてなかった。
やっぱり人間には無限の可能性が秘められてるね。
……いや……ぁ……ァ……ッ!
待っ……アホ……がァ……アア!!!
なんか部屋の外が騒がしい気が……気のせいかな?そんなことを考えていると部屋の扉が勢いよく開かれる。
「神様ァァ!!!助けてくだざいぃ!!」
そこには涙を浮かべ顔をくしゃくしゃにした天使の姿があった。そしてその後ろには……
「うらァっ!逃げられると思ってんのか!覚悟し……ん?……ハッ!お前まさか……神か!天使をブラック労働させてる!」
「えっ、あっ、その……」
「部下の責任はちゃんと上司であるアナタにも取ってもらわないといけないよなぁ。……2人まとめてその綺麗な顔を凹ませてやらァ!」
彼は指をポキポキと鳴らし、シャドーボクシングをして集中力を高めている。……彼の魂を別のとこにやるのは簡単だが、死者の魂を好き勝手したら別の神に怒られてしまう。それは避けたい。……よってこの状況でボクができることは……
「…………あ、あははっ…………逃げるが勝ちっ!」
「あっ!ズルいっ!私を置いていかないでくだざぁいっ!」
「お前ら逃げるんじゃねぇぇえ!」
神や天使が住まう天界で、1人の死者の魂の怒号と2人の幼気な少女たちの悲鳴が木霊するのであった。
コレで本当におしまい。
━【完】━
【完結】追放者の回収者〜よわよわ転生者は仲間に守られたい~ @DDDmod3
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