第25話:魔王【サタン】VS勇者【ヒビキ】


「……ぅ、ぅん?」


「おっ、起きた?」


目が覚めると、ヒビキさんが僕の顔を覗き込んでいた。……ってこれ膝枕ってやつじゃ///


「あ、あの……ヒビキさんっ……近いですっ///」


「おっ、ごめんごめん。そいじゃ、ユーリくんも起きた事だし、そろそろ移動しますか。」


そう言いながら、ヒビキさんは立ちあがる。そして準備が整ったことを確認すると次の階層へと繋がる階段を上り始めた。


「そういえば、これで四天王全て倒したことになるから。普通に考えれば、次の階で魔王と対面することになるんだよな。」


「この城の構造的にも次の階層が最後であるからな。」


「僕たち遂に魔王の喉元まで迫ったんですね。……なんだか感慨深いです。」


「そこで満足したらダメ……ちゃんと喉元まで迫ったなら食いちぎらないと」


「ミナさん思考が物騒ですね!」


……なんだろう、普通なら緊張や恐怖で震えてもおかしくないのに。なんというか、いつも通りだ。今から魔王を倒しに行くパーティーには思えない。


……それが僕たちらしいと言えば、そうなのかもしれない。そんなことを思いながら階段を上りきり、最後の階層に足を踏み入れる。


現れたのは横の通路が存在せず、奥にある扉まで直通の長い長い一本の廊下。


「うっわ、長い一本道だ!階層の無駄遣い!」


「横に部屋作って空間を有効利用すべきですよね!勿体ないですね!」


「無駄に部屋を作っても掃除が面倒だから増設はしなかったのではないか?」


雑談しながら廊下をゆっくりと進んでいく。さっきの階層と同様にこの階層にも一切の魔物がおらず、魔王の圧倒的な自信が伝わってくる。


「いやぁ……扉越しなのにすっごい威圧感漂ってくるねぇ。」


遂に扉の前に着いたが、扉の奥から感じる異様な気配に固唾を飲んでしまう。膨大が部屋の外にまで漏れ出ている。


「これは……凄まじいな。これ程の魔力は見たことがない。」


「……なんかゾワッてする。」


「空気に魔力が入り交じってて、ちょっと気分悪くなりますね……」


各々が漏れ出る魔力に対して嫌悪感を抱く。僕も例外ではなく、多少気分が悪くなっている。……魔力だけでこうなるとは魔王と相対したらどうなるのかと想像していると、ヒビキさんが僕たちに向かって言葉を紡ぐ。


「お前ら、準備はいいか?……あっ、言い忘れてたけど、今から魔王の重要情報話していくぜ。」


「「「「今っ!?」」」」


「伝えないよりかはマシだろ?じゃあ早速1つ目。魔王は火に弱い。2つ目、魔力探知に優れている。3つ目、遠距離も近距離も得意な万能型。文献ではこう書かれてた。それを頭に置いとけよ。じゃ、張り切っていこうぜ!」


ヒビキさんは僕たちにそう伝えると、分厚い扉を開いた。


部屋の中は薄暗く、城の一室にしてはどこか質素で閑散としたものだった。……ただ、部屋の真ん中にある玉座。そこに鎮座している者がこの場の雰囲気を一気に相応しいものにしている。


「……やっと来たか。侵入者ども。」


男の低い声が辺りに響く。その男は銀色の長髪を携え、荘厳な衣服を身にまとい、真っ赤な眼光をギラつかせている。


一目で生物としての格が違うと感じさせる威圧感。例え道端でばったり出会ったとしても強者だと確信したであろう。その男こそ、僕たちの最後の敵【魔王】であった。


「貴様らがこの城で暴れ回ったせいで、我は多くの仲間を失った。非常に嘆かわしいことだ……償いは命で払ってもらおう。貴様らのちっぽけな命で精算できるかは分からんがな」


ヤツはそう言うと体から膨大な魔力を放出し、こちらにぶつけてくる。圧倒的な魔力の量に気圧され、萎縮してしまう。


「ぐっ……!」


「……この程度か。よくここまで来れたものだな。……む?」


「……およ?」


しかし、ヒビキさんだけは魔力の影響を一切受けず、僕たちの様子を見て戸惑っている。


「ほう、我の威圧に動じぬとはなかなかに肝が据わっておるのだな。……勇気ある者……これが俗に言う【勇者】というやつか?」


「勇者ねぇ……その肩書きは俺には不相応だけど……魔王と戦うシチュエーションなら勇者名乗っても許されるか。……よし!そうだ!俺は勇者だ!」


声高らかにそう宣言し、魔王に向かって剣を構える。


「魔王さんよ、今日がお前の命日だ。遺言でも考えとけよ!」


「クハッ!面白い冗談を言うな勇者よ!貴様を殺し、世界の支配に王手をかけるとしよう!我が名は【サタン】この世界を統べ、全生物の頂点として君臨するものなり!」


今ここに魔王と勇者一行の戦いが幕を上げるのだった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


さてさて、魔王に勇者と認められた男の魔王討伐はぁじまぁるよー!!まずはユーリくんに支援魔法をかけてもらいます。……あれ?怖気付いてる?発破をかけてあげないとダメか。


「ユーリくん!このままだとボコボコにされちゃうよ!君が要なんだからシャキッとしんしゃい!一旦防御全振り!」


「は、はい!【付与・硬化&再生】」


よし、バフを貰えたな。とりあえず魔王の攻撃パターンを把握するために守りの体制に入るとしよう。


「ふむ、我の攻撃を受けようというのか。勇者よ、不敬であるぞ。【燼滅光デイライト】」


魔王の手のひらから極太の黒いレーザーが放たれ、俺たち目掛けて飛んでくる。なるほど、遠距離攻撃はこんな感じか。


「アレン、頼む」


「分かった。【遮光盾シャットシールド】」


目の前に厚めの半透明な壁が複数枚展開される。フェンリル戦で1枚じゃ砕かれやすいことが分かったからな。何枚か砕かれるが、なんとか防ぎ切る事に成功する。


「フィレス!行ってこい!ユーリくん、支援魔法をフィレスに偏らせて」


「はい!【付与・俊敏&硬化『二倍トゥワイス』】」


「ユーリさんありがとうございます!……行きます!」


地面を踏み抜き、一気に魔王の目の前へと距離を詰める。ここで魔王の近距離攻撃手段を把握する。フィレスは竜だし、硬さと回復に寄せてるから一撃で殺されなければどうとでもなるだろう。


「貴様、ファフニールの令嬢か。昔見た時よりも成長したようだな。喜ばしいことだ。……ただ、我に歯向かうその態度は気に食わんな。」


「私はもう貴方の手下でも仲間でもないですからっ!【降竜こうりゅう】!」


竜の形をした魔力がフィレスの足に纏わり、そのままかかと落としを繰り出す。だが、ヤツは頭部に直撃する前にフィレスの足を掴んで攻撃を阻止した。


「威力は十分だが……速さが足りん!」


空いている拳でフィレスの腹部に打撃を叩き込んで、後方に吹っ飛ばす。


「ガハッ!!?」


「あぶねっ!」


凄まじい勢いで飛んできたフィレスを追いかけ、空中でキャッチし、勢いを殺す。危ない危ない。あのままだと壁に叩きつけられてたな。……にしても、魔王さんは徒手空拳で戦うスタイルか。まぁ、見た目からして武器とか持ってないもんな。


「フィレス大丈夫か?」


「だ、大丈夫ですっ……はぁ……それよりも情報を伝えますっ……ヤツは全身に魔力を纏ってます、だから生半可な攻撃は通らないし、一撃一撃が重くなってます……」


なるほど、魔力の鎧にメリケンサックつけてるみたいな感じね。


「OK。じゃあちょっとそこで休んでな。1分くらいしたら戻ってこい。その状態で戦われても困る。」


「……分かりました。」


「気を落とすなよ。お前の力が必要だから大切にしたいんだ。それに俺たちは仲間だ。もっと信頼しろよ」


「……はいっ!」


うん、いい返事だ。……よし!急いで戻るぞ!時間がゆっくり進んでる訳じゃないからな。


魔王の方に目をやると、ミナとアレンが攻撃しているのが目に入る。さっきの攻撃を見たからか、受けると言うよりかは回避に専念している感じだな。ナイス時間稼ぎだ。


「お前ら!そろそろ攻めに移るぞ!ユーリくん!支援魔法を攻撃寄りに!」


「はい!【付与・強化&敏捷】」


「アレン!炎の魔法を多用していけ!あと出来ればミナの剣に火属性の付与、よろしく!」


さっきも確認したが、魔王は文献から察するに火が弱点だ。フィレスの情報から予想するとヤツの魔力が熱に弱い、もしくは燃えやすいのだろう。


「了解。ミナ殿失礼する。【付呪エンチャントファイア】」


ミナの双剣が綺麗な紅色に変化する。……この世界のエンチャントって炎纏うとかじゃなくて、刀身が熱される感じか。


「……ありがと、じゃあ行くね。」


「援護は任せたまえ。」


ミナが魔王の前に飛び出し、激しい連撃を繰り出す。魔王はそれを最小限の動きで躱している。……目が抜群にいいっぽいな。


「素早いが、視線と力の入り方から動きが丸分かりだ。」


「貴殿も回避の先が見え見えであるぞ。【炎弓フレイムアロー】」


アレンが魔王の回避する方向を予見し、そこに炎の矢を放つ。


「その程度で調子づくとはたかが知れてるな。ふッ!」


ヤツはそう言い放ち、飛んできた矢を素手で叩き落とす。ミナに掌底を叩き込もうとする。


「させるかぁッ!」


俺は用意していた短剣を魔王の拳目掛けて投擲する。手を引かれることで避けられたが、それによってミナが後ろに下がる数瞬を稼げたから良し。


「ご主人様、ありがと……」


「どういたしましてっ……ってあぶねェ!」


ビームが俺に向かって放たれる。くっそ、狙いをこのパーティーで1番弱い俺に定めやがったな!


「へっ!はっ!ほぁァアッ!」


飛んだり、横に走ったりして全力で攻撃を避ける。かすって傷が付くがまともに当たってないから問題は無い。


そしてヤツの目は俺に釘付けだ。


「油断禁物ですよ!【竜撃りゅうげき】!」


「見えてるに決まっているだろう」と見せかけて【竜槍りゅうそう】!」なっ!?……ぐッ!!」


体が回復したフィレスが殴りかかる。受け止められそうになるが、拳による攻撃はフェイントで、手をひっこめ、直ぐさましゃがんで魔王の顎目掛けて蹴りを叩き込む。


よし!ようやくまともに一撃が入ったぞ!俺が一喜一憂していると、魔王の様子がおかしいことに気づいた。フィレスも異様な気配を感じとったようで後ろに飛び退く。


ヤツは仰け反りながらも目だけはギロリとこちらを睨みつけている。そして顔を俯かせ、ゆっくりと口を開いた。


「……もういい。戯れは終いだ」


そう言うとヤツは両手に2つの異なる色の光球を生成する。そして2つの球を無理やり融合させ、1つの大きな球を作る。


あっ、これアレだ。魔王の奥義的なやつだ!


「お前ら固まれ!アレン盾展開!ユーリくん防御に全特化!」


「【付与・硬化&再生『二倍トゥワイス』】!!」


「【水鎧抱擁アクアヴェール】、【土森壁アースフォレスト】!」


壁を幾重にも巡らせ、壁の森を形成し、体に水の鎧を纏わせることで、衝撃を緩和する。そして防御力の高いフィレスを先頭に置き、各々防御を固める。


こちらの準備が整ったところで、遂にヤツの技が解き放たれる。


「……散れ【終光残滅アポカリプス】」


ヤツの手のひらに浮かんだ球が発光し、光が周囲を覆い尽くす。それは全てを焼き尽くす終焉の光。壁が溶け、鎧を貫通して身体を焦がし尽くす。


「…………ら…………っ……ぃて…………ぉ…………」


そんな中、俺はその光を浴びながらも、懸命に仲間に向かって指示を出す。何故ならこれはピンチでもあり、魔王の目を欺く、チャンスでもあるからだ。


……魔王、今からお前をアッと言わせてやるぜ……


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


……しぶといな。我が奥義を喰らっているにも関わらず、魔力反応が消えない。……やはり魔道士と支援者は潰しておくべきであったか。


とはいえこのまま続けていればいずれは死に絶える。所詮は矮小な生命よ。


「む?」


ヤツらから魔力の乱れを感じる。まだ何かをするつもりか?


……警戒を強めると見えないが、圧縮された魔力が複数、こちらに飛んでくるのが魔力探知で分かった。しかし軌道的にどうやっても我に届くとは思えない。


……つまらん。悪あがきにしても面白みもない攻撃よ。


我の周辺でバァンッ!と破裂音が響き渡る。周囲の音が聞こえなくなる程に絶え間なく破裂音が何度も繰り返される。


「チッ……やかましいっ!」


騒音に腹が立ったので、早く息の根を止めようと威力を上げようとした、その時だった……


「ぅッ!?」


胸部に鋭い痛みが発生する。目でゆっくりと胸を確認すると、剣が我の肉体を貫き、血が滴り落ちているのが見えた。あまりの衝撃から奥義の発動を中断してしまう。


まさかと思い、振り返ると……そこには皮膚が焼け爛れながらも、剣を我の臓腑に突き立てる男……勇者の姿があった。


「……ふぅー……はぁ……危なかったぁ……ユーリくん達に支援魔法やら防御の魔法をかけてもらわなかったらッ……きっとここに来る前に死んでただろうな」


ありえない……何故勇者が我の背後にっ!……我は常に魔力探知を作動させていた。近づこうとしたらすぐに認識できるはず……


「疑問で頭がいっぱいって顔だな?……俺の作戦自慢したいから教えてやるよ。」


ニタリと笑みを浮かべながら勇者は口を開いた。


「俺はどうやら魔力が存在しないらしくてな。視覚と聴覚さえ潰せれば、お前にとって俺はほぼ透明人間みたいなもんだ。……だからあの状態はお前に不意打ちできる唯一の機会だった。」


……だから音を出し続けて接近を気づかせないようにしていたのか……対面した時た我の魔力の影響を1人だけ受けていなかったのもそういう理屈か……っ


「……そ……ぅかっ……だが……この程度で我を倒せると……本気で思っているのかっ?」


「心臓貫いて死んでないのはショックなんだけどなぁ。そこは死んどけよ生物として。……まっ、攻撃はこれで終わりじゃないけど、なッ!」


ヤツは剣を引き抜くと、我の背中に思い切り蹴りを入れ、前方へ吹っ飛ばす。


「やっと出番来ましたッ!【昇竜しょうりゅう】!」


いつの間にか目の前まで迫っていた竜の娘が我の胴体に天に昇る竜のように拳を振りかぶり、我の体を宙に打ち上げる。


「ごはッ!!??」


「次は吾輩の番であるな【炎雷衝破インパクトプラズマ】!」


「ぐっ!」


電気を纏った炎を衝撃波が我の体に襲いかかり、電気が我の体を巡り、体が痺れてそのまま地に落ちる。


「……私の番【爪牙滅殺そうがめっさつ】!」


動けずにいる我の体を獣人の娘が滅多切りにする。次々に体に傷が刻まれていき、血が吹き出す。そして最後の一撃は首元へ……


「これで終わりっ!」


「この程度で……このサタンを殺れると思うなッ!」


すんでのところで痺れが取れ、首元への一撃を回避し、獣人の娘を蹴りで吹っ飛ばす。そして周囲を見渡して狙いを定める。


「我を……舐めるなよッ!!!!」


ヤツらの力の増幅源である支援者を潰せば我の勝ちは揺るぎないッ!我は支援者の懐に一瞬で潜りこみ、拳を振りかぶる。


「舐めてないから徹底的にやるんだ【熱防ヒートシールド】」


魔道士が支援者の体と我の拳の間に熱を纏った壁を出現させ、我の拳を受け止める。


「ッ!!」


「ユーリ殿!頼んだ!」


「任せてくださいっ!【付与・強化『無限インフィニット』】!せぇーのッ!!」


「ガハッ!!!?」


支援者が我の腹部に拳を叩き込み、後方へと吹っ飛ばす。まともに地に足をつけることさえ許さないほどの連携により、我の体は悲鳴を上げる。


「ヒビキさん!お願いします!」


そして……我が飛ばされた先に、既にヤツは居た。剣を構え、憎たらしいゲスのような表情を浮かべている。


「これが連携ってやつだ。1人で最強なお前には分かんないだろうけどなァ!」


そう言い放ち、ヤツは剣を振った。


「お前は運が悪かった。ただそれだけだ。恨むなら天使とか神様を恨んどけ。」


「…………ぁぁ……クソがッ…………」


ヤツの剣が我の首を通り抜ける。その瞬間、意識が朧気になり、天と地が逆転する。


最後に見たのは切り離された我が胴体と達成感に満ち溢れた清々しいまでの笑みだった。





「……あぁー……俺、やり遂げたんだなぁ……」


魔王を倒し、遂に終わりを迎えた勇者は自分の身に余る業績を与えられた喜びと長い旅路の終わりによる寂しさが合わさり、なんとも言えない気分に陥っていた。……そんな勇者が数分の沈黙を経て、遂に言葉を捻り出した。


「よし、帰って寝るかぁ!」



《魔王サタンVSヒビキ》


勝者【ヒビキ】






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