第47話 ルビィ
そういえば、今は宿屋に泊まっているからこの空間にレイナも来れるんだったな。
「マチョル、いくぞ」
「えっ、どうしてッスか?」
「バカ、ただでさえ初対面の俺達にビビってるんだぞ。ここはレイナ一人に任せた方がいいだろ」
サンドラはチャガに虐待同然の扱いを受けてきた。ミシカライザーはおろか、仲間のモンスターにすら気を許すことは難しいだろう。そんな状況でガタイが良くて威圧感のあるマチョルと、そのマチョルをボコボコにした俺がいたんじゃ萎縮してしまう。
俺はマチョルを引き摺って木陰に身を潜め、レイナとサンドラの様子を窺った。
「良かった。ここにいたのね」
レイナは安心したように笑顔を浮かべると、小柄なサンドラに目線を合わせるために屈んだ。
「あたしはレイナ。一応、チャガからあなたの権利を譲り受けたことにはなってるんだけど……」
そこで言葉を区切ると、レイナは大きく深呼吸をしてから告げる。
「ごめんなさい。あたしはあなたの意志を無視して使役してしまったわ。もし、あなたがミシカライザーに使役されたくないのなら、あなたを解放する」
「キュル?(え?)」
レイナの謝罪にサンドラは困惑したように首を傾げた。
そりゃあ、いきなり解放するなんて言われても困るよなぁ……そういえば、俺にも嫌なら解放するって言ってきたっけか。
「キュ、キュラ……(わ、私は……)」
長い前髪で片方しか出ていない深紅の瞳が揺れ動く。
「キュララン!(あなたと一緒にいたいです!)」
サンドラはレイナの手を竜鱗で覆われた両手で握り締める。たとえ、言葉が通じなくともそれが肯定の意だと察するのは難しくないだろう。
「うん、これからよろしく頼むわね!」
サンドラの気持ちに、レイナは満面の笑みで応えた。
それから、恒例のアレが始まった。
「それじゃ、名前を決めないとね」
「キュラン?(名前ですか?)」
そう名前付けである。
俺やチャガは碌に名前を付けず種族名で呼んでいたが、レイナやアビィのようなモンスターとの絆を大切にするミシカライザーにとって、モンスターの名付けとは重要なことなのだ。
そして、名付けが重要なのはモンスター側も同様である。
レイナのネーミングセンスは壊滅的だ。マチョルとバニラというラインナップの時点でたかが知れている。
そういえば、前に使役していたらしいオルカディアンはシャチマルだったか。
「あの子、どんな名前になるんスかね?」
「俺の予想だと、ヒノコとかアカッチとかそんなところだな」
「オイラはドララとかファイアン辺りだと思うッス」
「まあ、何はともあれ」
「「こちら側へウェルカム」」
俺達はダサい名前の同士が増えることを願って、木陰に隠れながらサンドラへサムズアップをした。
「うーん、そうね……あなたの瞳、赤い宝石みたいで綺麗だから〝ルビィ〟はどう?」
レイナは安直でありながらも、良い感じに綺麗な名前を口にした。
「キュルルン!(そんな綺麗な名前でいいんですか!)」
「ふふっ、気に入ってくれたみたいね」
サンドラ改め、ルビィも名前を気に入ったようで目を輝かせていた。
「「はぁぁぁぁぁ!?」」
俺達は自分達との名前の落差に叫び声をあげた。おいコラ、ふざけんな! 俺達との差はなんだ!
「あっ、マチョルとバニラもいたのね。紹介するね、新しく仲間になったルビィよ」
「ニャウ、ニャウニャ!(ふざけんな、俺なんてバニラだぞ!)」
「グル、グゥムァ!(オイラだって、マチョルッスよ!)」
俺達は二人の元へ駆け寄り必死に抗議する。
「キュウ、キュルル……(あの、なんかごめんなさい……)」
俺達の剣幕に、ルビィは申し訳なさそうに縮こまった。
「コラ! 二人共ルビィを怖がらせないの!」
レイナに叱られて、俺達は歯嚙みしながらも引き下がるしかなかった。
こうして俺達に新たな仲間であるルビィが加わるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます