第37話 かつての相棒
特訓も終わり、スマホ内に戻ってきた俺はレイナから流れ込んでくる魔力で特訓の疲れを癒していた。
スマホ内の空間が神秘の森になっているためか、気分的にも真っ新な空間よりリラックスすることができる。
「アニキ、この果物うまいッスね!」
「たんとお食べなさい。ケイム様はともかくあなたのことは歓迎いたします」
トライコーンをはじめとして、アビィの使役するモンスターは俺のいる場所には近寄ってこない。いるのは隣で神秘の森で生った果物を頬張るマチョル、そしてミサキだけ。
「相変わらず俺への風当たりは強いのな」
「あなたを歓迎する理由などございませんもの」
棘のある言葉を浴びせてくるミサキは、言葉を選ぶように間を置くと尋ねてくる。
「……何故、訓練の間は全ての攻撃を寸止めされたのですか?」
俺の攻撃は全てミサキに当たる寸前で止めていた。それが気になっていたのだろう。
「あれはレイナに最適な戦い方を気づかせるためのものだ。お前を戦闘不能にすれば回復に時間がかかる。それじゃ効率が悪いだろ」
「私以外にも戦える者はおります。それこそ模擬戦ならばスクーデリアの方が戦術指南には合っています。私と彼を交互に倒し、魔力を吸収する。そうすればケイム様自身が急成長できる上に、レイナ様も新たな戦闘スタイルを確立できたことでしょう」
言い逃れなど許さないとばかりに、ミサキは次々に言葉を並べ立てる。
「何が言いたい?」
「効率を重視するあなたらしくありませんね。かつて相棒だった私に情けをかけるなんて」
どうやら、ミサキは俺が止めを刺さなかったことに不満を抱いていたようだ。
「えっ、どういうことッスか?」
果物を頬張る手を止め、マチョルは不思議そうな顔でこちらを見上げてきた。
「ケイム様がミシカライザーとなった日。原初の石版から生まれたのが当時ダギツネだった私なのです」
「じゃあ、アキニは相棒すら捨てたってことッスか!?」
目を見開いて驚きの表情浮かべるマチョルに、ミサキは静かに首を縦に振る。
「この方にとって石版大戦での勝利が全て。石版大戦で負け筋を増やす私はお払い箱というわけです」
「石版大戦で勝てるようにモンスターを揃えた結果、ミサキが戦力外になったからスタメンから外しただけだ」
ミサキと一緒に勝ちたい。そう思っていた時期もあった。だが、ミサキの火力不足は想像以上に負け筋を増やす原因となっていた。何でもできるように見えて痒いところに手が届かない。属性のデパートなどという異名こそ立派だが、実際はただの器用貧乏である。
だから、俺はミサキをスタメンから外した。そして、もう二度と戦いの場に立たないことを考慮して恋人であるアビィへと預けたのだ。
「ならば、私に情けをかけた理由はなんですか」
「勘違いするな。レイナに戦術を確立させるのが目的だと言っただろ」
俺は話を打ち切るために立ち上がると、吐き捨てるように告げる。
「トライコーンは直情的で、公式戦に出れるまで俺が育てたってのにまるでなっちゃいない。長年、俺と一緒に戦い続けたミサキの方が仮想敵としては理想的だっただけだ」
それだけ言って立ち去ろうとすると、ミサキが俺の尻尾を掴み引き留めてきた。
「あなたは――」
『セット、カスレア! ミシカライズ!』
ミサキが何かを言いかけたとき、俺はレイナの呼びかけによって召喚されてしまった。
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