第29話 嫌われ者のミシカライザー

 スマホ内に溢れるレイナとアビィの魔力によって治療が終わったタイミングで、俺達は神秘の森の中心部にある巨木の根元にある広場に集まった。


「いきなり喧嘩とか何考えてんスか」

「初対面でいきなり殴りかかってきたお前に言われたくない」


 常識人面をしているが、マチョルがいきなり喧嘩腰で殴り掛かってきたことを俺は忘れていない。

 俺が睨みつけると、マチョルは露骨に目を逸らした。どうやら自覚はあるらしい。


「というか、あのエロい狐のお姉さんは誰スか!?」


 マチョルは話題を変えるためか、ミサキのことを聞いてくる。

 いや、エロい狐って……どんなにスタイルが良くても顔がそのまま狐な時点でエロいもクソもないだろうに。


「あいつはキュー・ビコリ。ダギツネのときから俺が育て上げたモンスターで、使えなくなったからスタメンから外してアビィにプレゼントした奴だ」

「アニキ、あの馬といい、そんなんばっかッスね……」


 呆れたような視線を向けてくるマチョルだったが、上位のミシカライザーではこんなこと日常茶飯事である。……恋人にプレゼント代わりで送っているのは俺くらいかもしれないが。


「はじめまして、キュー・ビコリのミサキと申します」


 マチョルへと優雅に一礼すると、ミサキは切り株に腰掛ける。


「お話はスクーデリアから窺っております。大変な目に遭われたようですね、ケイム様」

「まさかお前と話ができる日が来るなんてな」


 かつて俺がミサキを使役されていた頃は、言葉が通じることなど一度もなかった。それだけに、こうして向かい合って話をしていると感慨深いものがある。


「他のモンスター達はどうしたんだ?」

「……彼女達はケイム様をひどく嫌っております。最近仲間に加わったスクーデリアも含め、アビゲイル様に使役されるモンスター達であなたに好意的な者はおりません」

「お前もか?」

「聞くまでもないことかと」

「だろうな」


 ミサキとはそれなりに長い付き合いだったが、スタメンから外すことに躊躇いはなかった。それが勝つために必要なことだったからだ。


「ケイム様の現状には同情致します。ですが同時にこうも思います、因果応報だと」

「……それで?」

「あなたのことですから、現在の主であるレイナ様を神剋のミシカライザーにして自分の強さを証明したいのでしょうが、それに私が協力することはありません」


 随分はっきりと言ってくれるものだ。俺の本心を見透かすように見つめてくる瞳には確かな覚悟がある。


「そこのゴブソイルの坊や。あなたも気をつけなさい。この方は勝利のためなら仲間だろうと容赦なく切り捨てますよ」


 ミサキはマチョルにそう告げると、切り株から腰を上げて去っていった。


「アニキって想像以上に嫌われてるんスねー」

「まあな」

「褒めてないッス」


 トライコーンの言う通り、俺は使役していたモンスター達に須らく嫌われていた。


 だが、俺はそのことに後悔はない。

 ミサキが言ったように、俺は勝つために手段を選ばない。たとえ、それが原因で周囲から反感を買っても構わない。

 ずっと、そうやって勝利に執着して生きてきたのだ。モンスターに転生してしまった今でもその考えが変わることはない。


 むしろ、生まれ変わった今の環境の方が俺にとっては居心地がいいのかもしれない。

 結局のところ、自分の戦術を最大限活かせるのは自分自身だ。何を考えているかわからないモンスターを使役するよりも、自分で戦える今の方がよっぽどいい。


「でも、オイラはアニキのこと好きッスよ」

「そうかい。俺もマチョルのことは嫌いじゃない」

「へへっ」


 俺の返しにマチョルは嬉しそうな表情を浮かべる。

 こいつは基本的に素直で真っ直ぐな性格だ。だからこそ、グランドーガとの戦いでも、俺を信じて自分の役割を遂行してくれた。


「絶対、お嬢を神剋のミシカライザーにしてやりましょうッス!」

「ああ、その意気だ」


 俺がマチョルの肩に手を置くと、広場の入り口から誰かが駆け寄ってくる気配があった。

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