第28話 かつて使役していたモンスター達

「まあ、アビィも一緒にいるなら、いろいろとサポートもしてくれるはずだ。予想外の結果にはなったが、俺の判断は良い方に転がったみたいだな」

「どういうことッスか?」


 俺の言葉にマチョルが疑問符を浮かべた途端、俺達のいるレイナのスマホ内にシステムメッセージが響き渡った。


『承認、対象アビゲイル・ソアレ。スマートホームデバイスの連携を開始します』


 ミシカライザー同士のスマホ連携。これは信頼するミシカライザー同士が行う、スマホ内の空間や一部機能の共有ができるようにするためのシステムである。

 新米ミシカライザーは金がない。それ故に、スマホ内の便利な機能を解放できず、モンスターの育成がはかどらない。


 そして、モンスターの育成がはかどらないため、石版大戦でも成績を残せず引退していく、という悪循環が発生する。


 そこでスマホ連携を利用するのだ。師匠に当たる中堅以上のミシカライザーが、新米ミシカライザーをサポートする。少しでも優秀なミシカライザーが育てたいと考えている石版管理局による粋な機能なのだ。

 まあ、レイナの場合は新米ミシカライザーというより、強制リセットされたミシカライザーだが。


「ここは神秘の森か」


 スマホ連携によって、俺は真っ新な空間から生い茂る森の中に転移させられた。

 確か、この空間は俺が人間だった頃にプレゼントした空間だった。まだ使っていてくれたんだな……。


「まさか、また相見えるとは思わなかったぞ、カスレア野郎」


 森の中に飛ばされた俺の目の前には因縁の相手がいた。黄金の鬣に純白の肉体。そして、特徴的な三本の角。


「立場が逆転した途端ずいぶんとイキるようになったじゃねぇかクソ駄馬」


 俺が使えないと判断してアビィに送ったモンスター、トライコーンがそこにはいた。


「そのようなみすぼらしい姿になってもまだ態度を改めないとは……どうやらバカは死んでも治らぬようだ」

「ハッ、治る必要がないからバカじゃねぇってことだろ」


 俺は全身に気怠さを感じ、トライコーンが臨戦態勢に入っているということを理解した。

 こいつの特殊能力〝トライダウナー〟はその場に召喚されただけで対象の筋力、魔力、肉体の強度を下げることができる。敵に回すと厄介な能力だ。


「お前は使えないからスタメンから外した。それが正しい判断だったってだけだ」

「……どうやらもう一度胸に風穴を開けられたいようだな」


 俺は即座にデバフ解除魔法〝クリアレイ〟をかける。これによってこいつの厄介なデバフは打ち消せた。


「やれるもんならやってみろ」


 対面的に戦えばまず勝ち目はない相手だ。それこそアリがゾウに挑むようなものだろう。


「セイクリッドダスター」

「無駄だ! 貴様の光速詠唱があろうと、我の早さには敵わん」


 確かにカスレアの長所であるスピードでもトライコーンには敵わない。そんなことは百も承知である。


「〝グリンホーン!!!〟」

「それは直線上のスピードの話だろ」


 こいつのスピードは確かに目を見張るものがあるが、同時に明確な欠点もある。それは咄嗟の方向転換が苦手という点だ。それに攻撃の癖や性格も把握している俺にとって、こいつの攻撃ほど読みやすい相手はいない。


「くっ、ちょこまかと……!」

「やっぱ俺の指示がないとそんなもんか。こんなカスレア如きに翻弄されてる程度だからスタメンから外されるんだよ」

「ほざけ!」


 俺が煽れば、面白いほど攻撃が単調になっていく。スピードバフを掛け、三次元的な動きができる俺にこいつの攻撃など当たらない。


「それと視野は広く持て。さんざん言ってきたが、雑魚は捨てられても治らないみたいだな」


 トライコーンは繰り返し相手の魔力を吸い取る〝グリンホーン〟を使用して突っ込んでくる。

 グリンホーンは相手の魔力吸収に重きを置いた技のため、威力は低い。実際、レイナに使役される前に俺がくらったときも死にかけただけで死にはしなかった。


 俺自身、モンスターとしても成長はしている。

 レイナに使役されたこと、先日のランドーガとの戦いで勝利したことでかなり魔力も肉体も強化されていた。

 おかげで圧倒的な実力差を持つグリムゾンの一撃をくらっても、一撃で戦闘不能になることはなかった。

 俺はさっきまでギリギリで躱していた一撃をあえて自分からくらいにいく。


「ぐっ……」

「だっばっば! さっきまでの勢いはどうした!」


 急所を外し、ダメージは最小限に抑えているとはいえ、やはり魔力吸収の効果は厄介だ。

 脱力感に襲われながらも俺は爪を構えて狙いを定める。


「〝ライトニングネイル!!!〟」

「ぐわぁぁぁ!?」


 トライコーンの耐久力が低いとはいえ、それ以上に俺の攻撃力も低い。マチョルから棍棒を借りなければ火力なんて到底足りないだろう。

 だから、攻撃力が足りなくても確実にダメージを与えられる場所、眼球を狙った。


「胸に風穴開けられたお返しだ。別にいいよな、どうせ治るんだし」


 抉りだした眼球でジャグリングをしながら俺は笑ってみせる。


「貴様ぁぁぁ!」


 両目を失ったトライコーンは明後日の方向に駆け出し、樹木に頭部を強打する。

 そのまま角が刺さって抜けなくなっているところに俺は追い打ちをかける。


「カスみたいな攻撃でも、積み重ねればそこそこ効くよなァ!〝ライトニング――」

「おやめなさい!」


 俺の勝利が確定したその瞬間、俺の身体は金縛りにあったようにピクリとも動かなくなった。


「誰だ! ……ぐえっ」


 突然の乱入者に声を荒げるが、俺はそのまま念力のような力で地面に叩き付けられた。


「大丈夫ですか。スクーデリア」

「ミサキ……」

「まったく、油断するからこんな方にやられてしまうのですよ」


 下手人は俺の言葉に答えることなくトライコーンの元へと歩み寄る。


「ミサキって、お前まさか……」


 聞き覚えのある名前に顔を上げると、そこには美しい金色の体毛に九つの尻尾を持つ、狐の獣人が立っていた。


「お久しぶりです。ケイム様」


 キュー・ビコリのミサキ。石版大戦のスタメンから外した、かつて俺が使役していたモンスターの一体だった。

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