第27話 強い奴が正義

 大量の魔力が流れ込み、欠損した肉体を癒していく。

 ミシカライザーのときは何も思わなかったが、こうして自分がモンスターとして治療されてみると、なかなか不思議な感覚だ。


「やっと、治療が終わったみたいだな」


 俺は手を握ったり、腕を回して身体の感覚を確かめる。異常はないようだ。


「あいつマジで許せないっす!」


 俺が身体を動かしていると、隣からマチョルの怒りの声が聞こえてきた。どうやら俺が召喚されてからは外の様子が見えていたようだ。


「確かにムカついたはムカついたが……」


 今の俺はあまりにも情報量が多すぎて怒るどころじゃなかった。

 アビィに無視されたと思っていたメッセージはそもそも文字化けしていて、それを見たアビィはレイナの元までわざわざ訪ねてきた。


 しかも、アビィは確証なんてどこにもないのに、藁にも縋る思いで俺の手がかりを探しにきたのだ。それがわからなかった。

 アビィの必死な様子からして俺を探しているのは嘘ではないのだろうが、アビィへの想いが揺らいでいた俺は素直に彼女の想いを信じることはできなかった。

 ……つい苛立ちから威嚇してしまったのは、申し訳なさで死にたくなるくらいだ。


「とにかく、レイナはアビィと行動を共にすることになった。これで多少はやりやすくなるだろ」

「アニキは落ち着きすぎッス! 危うく燃えカスになるとこだったんスよ!」

「誰が燃えカスだ」

「違っ、そういう意味じゃ……痛でで! アニキ、爪が食い込んでるッス!」


 何故か俺以上に怒り狂っているマチョルにアイアンクローをかます。


「何でオイラには怒るんスか!」

「まあ、落ち着けって。大事なのはこれからだ」

「落ち着かせる方法が乱暴すぎるッス!」


 抗議の声を上げるマチョルは捨て置き、俺はグリムゾンを使役していたミシカライザーについての情報を検索し始めた。


 チャガ・ソック。ここ最近台頭してきたミシカライザーで、火属性のモンスターの使役に特化している属性統一型のミシカライザーだ。

 特にチャガが使役しているグリムゾンは、その巨体を活かしたパワーとタフネスを併せ持つ強力なモンスターである。グリムゾン以外のモンスターもなかなかのラインナップである。


 だが、それだけ強力なモンスターを使役する実力の高さとは裏腹に、チャガ自身はジュニア部門の頃から大きな実績を残していない。

 おそらく、バフやデバフをうまく使えるタイプではあったが、ごり押し正義のジュニア部門では輝かなかったといったところだろうか。


「なかなか見所のある奴だな」


 こいつを石版大戦で下したとなれば、レイナにも箔が付く。俺を勘違いから一方的に攻撃したとして因縁もできた。状況は悪くない。


「アニキはあのチャガって奴を随分と気に入ってるんスね」

「まあな。石版大戦の勝利に性格の善し悪しは関係ない。俺から見れば、こいつは勝利のためなら手段を選ばない貪欲なタイプだ。温いこと言って負けてる奴よりよっぽど立派だ」


 いつだって勝負の世界は勝つか負けるかの二つに一つだ。モンスターと敗北の傷を舐め合って現状に満足するようなミシカライザーになんて俺はなりたくなかった。

 だから、愛情や信頼なんてものを捨てて勝ち続けた。


「この世界は結果が全てだ。野生の頃だってそうだっただろ?」

「オイラは石版から生まれたんでわからないッス」

「……そういえばそうだったな」


 マチョルは例外として、本来のゴブソイルは群れをなして暮らしていて、餌を食べるのも強い奴からだ。強い奴が獲物を仕留めたり、外敵を排除したり、最も群れに貢献しているからである。


「ミシカライザーも強い奴が正義だ。どんなに正しい言葉を吐いたところで、実績が伴わない奴の言葉なんてただの妄言だ」


 逆に言えば、実績がある奴の言葉はどんなに間違っていようが正義なのだ。


「チャガから見たレイナの評価は正しい。傍から見ればレイナは雑魚モンスターすら指示通りに動かせない未熟なミシカライザーだ」


 でも、俺は知っている。

 レイナはしっかりカスレアというモンスターを知り、その長所を活かす指示を土壇場で出すことができた。

 そして、レイナには神剋のミシカライザーだった俺が付いている。


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