第25話 密着取材
「あのさ、提案なんだけど」
「提案?」
「レイナ・ケーモントさん。かつてジュニア部門の公式戦を総舐めにしたあなたに密着取材を申し込みたいのですが、いかがでしょうか?」
口調を取材モードへ変えたアビィさんの提案。それはあくまでも表向きの理由だということはわかっている。
アビィさんは、またあたしを通してケイム選手から何かしらの接触があるのではないかと踏んでいるのだ。
「わかりました。その取材お受け致します!」
アビィさんだけではない。憧れのケイム選手の役に立てるのなら、あたしに断る理由はなかった。
「じゃあ、決まりだね! 一応、あなたのことは事前に調べてたからちゃんと聞きたいこともあったの」
「えっ、あたしにですか?」
こんなオワコンミシカライザーであるあたしに取材できることなんてあるのだろうか。
心当たりがなくて首を傾げていると、アビィさんはSNSアプリを立ち上げて画面をあたしに見せてきた。
「最近SNSで話題になっているのだけど、このゴンドラゴンから飛び降りた少女はレイナのことでしょ」
「ぶふっ!?」
そこには、雲より高い場所から躊躇なくバンジージャンプをする頭のおかしい女の動画が載っていた。あっ、頑張ってロープを持ってくれてるマチョル可愛い。
「トレンド入りしてたけど、気づかなかったの?」
「エゴサは病むのでSNSの方はケイム選手の話題くらいしか見ていなくて……」
世間でどういうことが流行ってるとか、どんな事件が起きたとかはあまり興味がない。
まさか自分の行動がそんなに話題になっていたとは思わなかった。
「どうしてこんなことしたの?」
「あたしも危ないのはわかってたんですが、身体が勝手に動いたといいますか……」
あのあと、運転手さんとお巡りさんにはこっぴどく怒られた。普通に考えれば危険行為どころの話ではない。
「あたし、セレスティア神域にいたんですけど、アース神域への帰りのゴンドラゴンに乗ってたら上からモンスターが落ちてくるのが見えたんです」
「モンスターが?」
「はい、その子はボロボロになってて、このまま落ちたら死んじゃうって思ったら身体が勝手に動いていました」
あのときボロボロになって地面へと落下していくバニラを見捨てることはできなかった。
あたしの言葉に、スマホを向けていたアビィさんの手が震え始める。
「待って、そのモンスターってもしかしてカスレアじゃないかな」
「そう、ですけど?」
何故かアビィさんの顔色が突然真っ青になった。まさか……。
「……たぶんだけど、その子を吹っ飛ばしたの私かも」
「世間って狭いなぁ……」
あたしはしみじみと呟きながら、アビィさんと共にアーバンロックの中心街であるディアマンドの裏通りを歩いていく。
「でも、なんであの子をセレスティア神域から落とすことになったんですか?」
「カスレアって言ったら弱い割に大量の魔力を内包してるレアモンスターじゃない? だから、その、狩ろうとしてたら吹っ飛ばしちゃって、そのまま……」
それでバニラはあんなにも傷だらけだったんだ。野生のモンスターを狩るのは普通のことだけど、狩り損ねたモンスターほどかわいそうな子もいないだろう。
アビィさんに悪気はないのもわかっているのだが、ちょっとモヤっとする。
「ちなみにだけど、そのカスレアは助けたあとはどうしたの?」
恐る恐るといった様子で訊ねるアビィさん。たぶん、彼女もその後バニラがどうなったかは理解しているのだろう。
「……あたしのモンスターになってます」
「本っ当に、ごめんなさい」
アビィさんは深々と頭を下げて謝罪してくれた。でも、謝るにしても相手はあたしではないと思う。
「あたしに謝られても困ります」
「そう、だよね。ごめんなさい」
これで謎が一つ解けた。
バニラがあたしの指示を無視したり、懐いてくれないのは人間に酷い目に遭わされたからだ。
「こんなことあたしの言えることじゃないんですけど」
結果的にバニラは今も元気にしているし、あたしは気にしていない。だけど、問題はバニラがどう思うかだ。
「モンスターを強くする手段として野生のモンスターを狩る行動も理解はできます。それでも、あの子に謝ってくれませんか?」
「もちろんだよ!」
アビィさんは力強く返事をしてくれた。自己満足にしかならないとしても、今後一緒に行動するなら禍根は残さない方がいい。
バニラには悪いけど、今は我慢してもらおう。
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