第22話 恋人の行方
スマホを直接調べたいから、直接会いたい。確かに最もらしい理由だ。
でも、専門家でもないアビィさんがそれを望むのは不自然なのだ。
「何か気がかりなことがあるんじゃないですか。スマホのバグそのものじゃなくて、それに付随する何かで」
あたしがじっと見つめると、アビィさんは観念したのか小さく息を吐いた。
「……はぁ、あなたって意外と鋭いんだね」
それから姿勢を正すと真っ直ぐこちらを見据えてくる。
「私ね、恋人を探してるの」
「恋人、ですか」
アビィさんの口から飛び出してきた予想外の単語に思わず聞き返してしまった。この容姿だ。恋人の一人や二人いてもおかしくないが、それがあたしのスマホのバグとどう関係があるのだろうか。
「一週間前、私の恋人はセレスティア神域で行方不明になったの。メディアにはまだ発表されてないんだけどね」
アビーさんは悲痛そうな面持ちで俯き、真剣な面持ちであたしの顔を見ると、意を決したように口を開いた。
「だから、どんな小さな手がかりだろうと見逃したくはないの」
「それって、今回のスマホのバグと何か関係があるってことですよね」
「うん、あなたのアカウントから届いたメッセージ。それは文字化けしていて何を言っているかはわからなかったけど、一つだけ気になることがあったの」
アビィさんはそこで言葉を切ると、あたしの瞳を覗き込んで告げる。
「このメッセージの文字化けしていない数字部分。これは送ってくる文章の前に数字をつけて要件を端的に伝える――私の恋人が送ってくる文章の癖にそっくりなんだ」
「それって……」
何か事件に巻き込まれ、あたしのスマホをハッキングして何かしらのSOSをアビィさんへと送った。でも、それだと文字化けの理由がわからない。
正直、アビィさんには悪いけど正当性のある話には思えない。
「ごめんなさい。バカみたいな話だよね」
アビィさんは自嘲気味に笑うとコーヒーを口に含む。
「ただ、彼が死んだなんて思えないの……信じたくないの」
きっと、こんな話をしても警察も石版管理局も信じてくれない。それでも藁にもすがる思いであたしに助けを求めたのだろう。
そんな彼女の力になりたいと思った。
「だからお願い、レイナ。彼の行方の手掛かりを探すために協力してほしいの。手がかりはあなただけなんだ」
「もちろんです!」
あたしは大きく首を縦に振る。あたしなんかが力になれるとは思えないけど、それでも協力したい。アビィさんの力になりたい。
「でも、具体的に何をしたらいいんですかね……」
「もし、その文字化けしたメッセージが私の恋人が送ったものなら、レイナが選ばれた理由があるはず。だから些細なことでもいい、最近あった変わったことがあれば何でもいいから教えてほしい」
アビィさんの表情には鬼気迫るものがあった。それほどまでに彼は大切な人なんだろう。
あたしは少し考えてからここ最近の出来事を思い出す。印象的な出来事といえば、やっぱりアレだろうか。
「アビス神域の地下闘技場でモンスターも何もかも失ったことですかね」
「えっ」
アビィさんは驚いたようにあたしの頭から足元まで視線を往復させる。
「驚くのも無理ないですよね」
あたしは苦笑しながら、ここ数日の出来事を話した。
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