第21話 スマホのバグ?

 アビィさんに案内されたのは、路地裏の目立たない場所にあった小さなカフェだった。店内は薄暗く、ジャズの流れる落ち着いた雰囲気のお店だ。

 席について注文を終えると、あたしは早速スマホのバグの件について謝罪した。


「あの、先日はご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした!」

「大丈夫だよ。不可抗力なのはよくわかってるから」


 コーヒーを飲みながらアビィさんは穏やかに笑ってあたしの謝罪を受け入れてくれた。


「でも、原因は気になるよね。ちょっとスマホを見せてもらってもいいかな?」


 それから表情を引き締めると、アビィさんはあたしのスマホを確認させてほしいと言ってきた。

 スマホは生体とリンクしている肉体の一部ともいえるものだ。そのうえ、中身は個人情報の塊。本来、おいそれと人に渡すようなものではないが、今回は状況が状況だ。アビィさんなら悪いようにしないだろうという安心感があった。


「もちろんです」


 スマホをテーブルの上に置くと、アビィさんはそれを手に取り真剣な様子でチェックしていく。

 そして、すぐ眉間にシワを寄せた。何かおかしな点でもあったんだろうか。


「……あれ以来、他の人にチャットが送られたりはした?」

「チャットはないですけど、見たことのないサイトが履歴に残ってたり、メモ帳に文字化けした文章が残ってたりはしてます」

「……スマホをハッキングされた? でも、生体とリンクしているスマホのハッキングなんてそうそうあることじゃない」


 アビィさんはぶつぶつ呟きながらスマホを確認している。どうやらかなり深刻な事態になっているみたいだ。

 あたしは不安になりながらも何もできない自分に歯痒さを感じていた。

 しばらくして、アビィさんは難しい顔をしたままスマホを差し出してきた。


「ごめんなさい。原因はわからない」

「そうですか……」


 眉間に皺を寄せているアビィさんは唇を噛み、どこか悔し気な表情を浮かべている。わからないことはスマホのバグだけではない。


「あの、アビィさん。どうしてわざわざあたしに会いにこようと思ったんですか?」

「言ったじゃない。スマホを調べるなら直接見た方が――」

「嘘ですよね」


 言葉を遮ってそう告げると、アビィさんは驚いたように目を丸くした。

 最初に彼女に連絡をとったときから感じていた疑問。それを口にする。


「だって、スマホのバグを疑うなら本来は真っ先に石版管理局へ連絡することを勧めるじゃないですか」

「それは、そうだけど」


 あたしの指摘にアビィさんは言葉に詰まった。

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