第20話 文字化け

 ここ最近、スマホの挙動がおかしい。

 何故かサイトの閲覧履歴には自分が開いたことのないサイトが記載されていたり、チャットアプリでは知らない人にチャットが送られたりしている。


「バグかしら……」


 チャットの内容も文字化けしていて、正直かなり怖い。


[レイナ・ケーモント:遘√�陦梧婿荳肴�縺ョ繧ア繧、繝�繝サ繝悶Λ繧、繝、縺ョ螻��エ謇繧堤衍縺」縺ヲ縺�k]

[レイナ・ケーモント:1. 諠��ア縺梧ャイ縺励¢繧後�繧「繝シ繝舌Φ繝ュ繝�け縺ョ遘√�諡�轤ケ縺セ縺ァ譚・縺�]

[レイナ・ケーモント:2. 縺�¥繧峨〒諠��ア繧定イキ縺�°縺ッ縺昴■繧峨�蛻、譁ュ縺ォ蟋斐�繧�]


 何故こんなメッセージがあたしのアカウントから送られたのか、まったく心当たりがなかった。


「変なサイトは開いてないんだけどねー」


 ひとまず、チャットが送られてしまった人には謝罪のメッセージを送信しなければいけない。


[レイナ・ケーモント:突然のご連絡失礼致します。先日からスマホの調子が悪く、そちらに文字化けしたメッセージが送られてしまったみたいです。ご迷惑をおかけしてしまい大変申し訳ございません]

[アビゲイル・ソアレ:いえいえ、そういうことでしたら仕方ないと思います! お気になさらないでください!]


 あたしのスマホのバグでチャットが送られてしまったアビゲイルさんは優しい人で、謝罪のチャットにもすぐに気にしなくていいという旨の返信がきた。


[レイナ・ケーモント:そう言っていただけると助かります!]

[アビゲイル・ソアレ:聞いたことのない不具合ですし、もし良かったら詳しいお話を聞かせていただくことは可能でしょうか?]


 どうやらアビゲイルさんもスマホのバグの原因が気になっているようだ。


[レイナ・ケーモント:もちろんです!]

[アビゲイル・ソアレ:でしたら、直接会ってお話することは可能ですか?]

[レイナ・ケーモント:構いませんが、どうしてですか?]


 今はチャットでやり取りしているし、通話で話すこともできる。なんならビデオ通話だって当たり前の時代だ。それをわざわざ会って話すなんて手間じゃないだろうか。


[アビゲイル・ソアレ:やり取りをするのにスマホを使ってたら原因を調べられないかと思いまして]


 まあ、それもそうだ。スマホを使っている状態じゃ、スマホそのものは調べることはできない。


[レイナ・ケーモント:わかりました。あたしは直接会うということで問題ないです]

[アビゲイル・ソアレ:ありがとうございます。では、予定の調整をしましょうか]


 こうして不思議な縁で繋がった私達は、直接会う約束をした。

 それから三日後。アビゲイルさんの都合の良い日とあたしが空いている日にちが合い、実際に顔を合わせてお話しすることになった。

 場所はアース神域首都アーバンロックにあるカフェだ。

 アビゲイルさんも活動拠点はアーバンロックらしいから、ちょうど良かった。


「あの人、かな……」


 待ち合わせ時間より十分ほど早く着いたのだが、すでにアビゲイルさんらしき人物の姿が見えた。チャットアプリのアイコンでなんとなく容姿は知っていたが、実物はとんでもない美人だ。

 遠目からでもわかるほどの美しい金髪と碧眼。まるで絵画から抜け出てきたような美人さんだ。肩口まで伸びたウェーブがかかった髪はまるで黄金の糸のようにキラキラと輝いていた。スタイルもよくて、まさに理想の女性像みたいな人だ。

 アビゲイルさんもこちらに気付いたのか笑顔で手を振ってくれた。なんだか恥ずかしくて小走りで駆け寄る。


「遅くなりました!」

「いえ、あたしが早く着いただけですから気にしないでください」


 近くで見るとますます綺麗な人だ。同性なのにドキドキしてしまうくらいである。


「あのー……レイナさん?」


 しばらく見惚れていたら、アビーさんは困ったように苦笑していた。


「あっ、ジロジロ見ちゃってすみません!」


 いけない、初対面の相手にいきなり変な態度を取ってしまった。

 慌てて頭を下げて謝ろうとしたところで、アビーさんは微笑みながら自己紹介してくれた。


「いいんですよ。改めましてアビゲイル・ソアレと申します。本日はご足労ありがとうございました」

「レイナ・ケーモントです! よろしくお願いします!」


 勢いよく挨拶はしたものの、それ以上に言葉が思い浮かんでこない。


「本日はお日柄もよく……えーっと、その……」

「ふふっ、そんなに緊張しなくてもいいよ」


 アビゲイルさんはくすりと笑うと、あたしの緊張をほぐすために口調を砕けたものにしてくれた。


「積る話もあるけど、カフェでお茶でもしながらお話ししよ? それとアビィって呼んで。親しい人はみんなそう呼ぶの」

「は、はい、アビィさん! 私もレイナって呼んでください!」

「よろしくね、レイナ」


 アビィさんは柔らかく微笑むと私を連れてカフェへと向かう。……あれ、そんなに積る話なんてあったかしら?

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