第19話 抱いてしまった疑念
それから数日が経った。
「何故だ……何故返信が来ない……!」
真っ新な空間の中で俺は頭を掻きむしる。
ちゃんとメッセージを送ったのだが、あれから一向に返事が来る気配はない。
「恋人の生死に関わる情報だぞ! どんなに胡散臭くても食いつくところだろ! なんの反応もないなんておかしいだろ!」
「あの、アニキ? 言い辛いんスけど……」
マチョルは気まずそうに頬を掻く。
「彼女さんの方はあんまりアニキのこと好きじゃなかったんじゃないッスか」
「そんなはずは、ない……」
アビィとは俺が十四歳のときに出会った。
あの頃の俺は、まだ公式戦での連勝が評判になり始めただけの石版大戦ジャンキーだった。当時のアビィは、俺の戦績を見て惚れ込んだらしく、公式戦があるたびに観戦に来てくれていた。だから、俺を好きじゃないなんて、そんなわけ……ない。
「……アビィと付き合いだしたのって俺が神剋の称号を取ってからだったし、誕生日プレゼントもブランド物のバッグが一番喜んでたし、全然会えないのに一度も不機嫌になったことないし、それ以外にも――」
「もうやめてくださいッス! 聞いてて辛いッス!」
マチョルは耳を塞いでしゃがみ込みながら叫んだ。
「ああ、そういえば生命保険の保険金……受取人はアビィにしてたっけか」
「アニキ、強く生きてくださいッス……」
「もう死んでんだよ、クソが」
いろいろと思い出したらなんだ死にたくなってきた。いや、もう一度死んでるんだけど。
「いや、きっと気のせいだ。そもそも保険金の受取人をアビィにしたのは俺の勝手な判断だし、アビィだって知らないはずだ」
アビィは昔から俺のことを応援してくれて、忙しくてなかなか会えない現状に不満一つ零さない理解ある彼女だった。
しかし、一度抱いてしまった疑念は消えなかった。
「アビィは俺のこと好きでいてくれたのかな……」
俺の呟きは虚しく白い世界に溶けていくだけだった。
そんな俺をマチョルは必死になって慰めようとしていた。
「元気出してくださいッス! お嬢に可愛い子捕まえてもらいましょうよ!」
「俺にそっちの趣味はねぇ!」
こちとら恋愛対象は人間限定だ。まあ、その人間ともまともにコミュニケーションも取れないのが現状なのだが。
いや、方法ならまだ残っている。
「……精神的ダメージは負ったが、確かな収穫もあった」
「収穫ッスか?」
「スマホの内側から送ったメッセージはちゃんと人間の言葉になっているってことだ」
俺はチャットアプリの画面を開いてマチョルに見せる。
「このメッセージはちゃんと人間の言葉で書けている。つまり、スマホ内から送ったチャットは自動翻訳の対象外ってことだ」
「おお! さすがアニキッス! 転んでもタダじゃ起きないッスね!」
おそらく、チャットアプリにはモンスターの言語がないからこそできた裏技のようなものだろう。
何事もやってみるものだ。これを使えばレイナにメッセージを送ることも可能なはずだ。
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