第7話 神剋戦でまた会おう
珍しく他のミシカライザーに肩入れしてしまった。どうにも、レイナを見ていると昔の自分を思い出してしまうのだ。
純粋でまだ石版大戦でも碌に勝てなかった頃。俺は必死に勉強した。専門学校に通うこともなく、ひたすら実戦での経験を元に自分なりの理論を組み上げ、今のスタイルまで到達した。その過程で犠牲にしたものは多かったが、そのおかげで今がある。後悔はない。
「そういえば、ケイム選手は観光ですか?」
レイナに問いかけられ、思考の海から浮上する。
「いや、霊峰アルカンシエルへの入山許可が出たから修行に向かうところだよ。神剋の称号を背負うには自分はまだまだ弱いからね」
これは対外的な理由だ。世間的に俺は物腰が柔らかい人格者であり、石版大戦には妥協をしないストイックな性格で通っている。
そんな人間が堂々と幻のモンスターを捕まえに行くという俗物的な理由で危険区域に立ち入ることなどイメージダウンもいいところだ。
「さすがケイム選手……防衛戦も終わったばかりなのに、ストイックなんですね」
俺の返答を聞くと、レイナは目を輝かせた。
それから俺はレイナの話を聞きながら感傷的な気分に浸り、ゴンドラゴンに揺られ続けた。
そうこうしているうちに、ゴンドラゴンは目的地であるクラウディアへと辿り着いた。結局、一睡もできなかった……。
ゴンドラゴン発着場へ到着すると、アース神域よりも薄い空気に肺が圧迫されるのを感じた。
「ケイム選手、これからも応援してます! 修行頑張ってください!」
「ああ、ありがとう」
レイナの表情はすっかり明るいものになっていた。
「そうだ、一つ言い忘れてたことがあった」
そんな彼女に言うべきことを思い出した。
「神剋戦でまた会おう」
彼女ならば、俺のいる領域まで登ってこれるのではないか。そんな根拠もない期待が胸の中に渦巻いていた。
「っ……はい! 必ず!」
レイナは元気な声で返事をしてゴンドラゴン乗り場から去っていく。休めはしなかったが、なんだか不思議とこちらも元気をもらえた気分だ。
時間は限られている。眠気はあるが、さっさと霊峰アルカンシエルへ向かわなければ。
虹の幻獣アルコバレアス。
霊峰アルカンシエルに稀に発生する虹色の霧。その霧が発生しているときのみ、アルコバレアスは姿を現すと言われているのだ。
霧が出ている時間は限られる。セレスティア神域の天候データをかき集め、今日の昼過ぎから夕方まで霧が発生することはわかっている。
一直線に関所に向かい、手続きを済ませて先へと進む。
「セット、グリフォイア。ミシカライズ」
俺はスマホからモンスターを召喚する。
燃える翼を持つ鷲の上半身と竜の下半身を持つモンスター、グリフォイア。空中から一方的に炎で相手を攻撃できる性能を持っていることもあり、移動、石版大戦、両方で活躍できるモンスターだ。体毛も温かいため、気温の低い上空でもこいつがいれば暖房いらずだ。
「目標は霊峰アルカンシエル。真っ直ぐに飛んでればつくはずだ」
「グァ!」
短く鳴いて答えると、グリフォイアは霊峰アルカンシエルへと飛び立った。
グリフォイアの背に乗り、雲を突き抜けて進んでいく。高度が上がるにつれて徐々に寒さが増していく。
やがて見えてきたのは、灰色の岩肌に囲まれた天空に浮かぶ巨大な山々。それが霊峰アルカンシエルだ。さらに近づくと、その異様な光景がより鮮明になる。
山頂から麓にかけて、まるで生きているかのように脈動を繰り返す、七色に輝く鉱脈。虹色の霧が発生するのはこの鉱脈が関係しているのではないかという説もある。
霊峰アルカンシエルの周囲を旋回し、様子を探る。
虹色の霧が発生する詳細な時刻までは割り出せない。このまま空中に留まっていても消耗してしまうため、俺はグリフォイアに命じて適当な足場へと着陸した。
「インプリズン」
グリフォイアを石版に戻すと、俺はスマホでアルコバレアスについての情報を整理し始めた。
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