第5話 ゴンドラゴンでの出会い
一晩休み、疲れを癒した俺は神剋戦が行われたアース神域首都アーバンロックを出てゴンドラゴン乗り場へと向かった。
地上にあるアース神域から上空に存在するセレスティア神域に向かうには、空中を行き来するゴンドラゴンに乗るしかない。
竜種のモンスターを召喚し、ゴンドラを取り付けたドラゴンを利用した客船、通称ゴンドラゴンは一般的な交通網として多くの人間が利用している。
セレスティア神域は天空に存在する浮遊島からなる列島で、最も大きい島が中央に位置する浮遊島ランドルクスだ。そして、その周辺に浮かぶ大小様々な島々がセレスティア神域の主な領土となる。
そのランドルクスから遥か西に位置しているのが、今まさに俺が向かおうとしている霊峰アルカンシエルだ。霊峰アルカンシエルに行くには、まず首都である〝クラウディア〟へ行き、そこから関所を通って自身の飛行能力を持つモンスターで飛んでいくしかない。一般人は立ち入り禁止の場所のため、面倒だが仕方ない。
到着まで時間もまだある。最近スケジュールが詰め詰めだったこともあり、眠気が襲ってきた。
少し仮眠でもとろうかと思ったところで、隣から視線を感じた。
そちらに視線を向けてみると、そこにはボブカットの赤髪に、首元に巻かれた黒いマフラーと白を基調とした服、黒タイツにブーツといった出立ちの少女が座っていた。年齢は十代後半くらいだろうか。
うーん、どこかで見たことがあるような気がする……。
「……あの、何か?」
「あっ、いえ……何でも、ないです……」
少女は慌てて首を横に振ると、気恥ずかしそうに俯いてしまった。
よく見たら鞄から俺が表紙を飾っている雑誌がはみ出ているのが見えた。
「ファンの方ですか?」
スルーしても良かったのだが、ファンサは神剋のミシカライザーとしてのイメージを保つためにも大事だ。俺は笑顔で話しかけた。
「えっ、どうして?」
「ほら、それ」
俺が雑誌を指差すと、彼女は顔を真っ赤にして慌てふためく。
しかし、すぐに落ち着いたのか、観念したかのように小さくこくりと肯く。どうやら、人見知りのようだ。
「良かったらサイン書きましょうか?」
「あ、ありがとうございます!」
俺がそう提案すると、ファンガールは満面の笑みを浮かべてコクコクと何度も首を縦に振った。
「お名前は?」
「レイナ・ケーモントといいます」
「レイナさんね」
何度も書いたサインをファンガール改めレイナの雑誌にサインを書き込んでいると、レイナは申し訳なさそうに告げる。
「あっ、でも……ご迷惑じゃありませんでしたか?」
「いや、そんなことないよ」
向こうから話しかけてきたのならともかく、これは俺から提案したことだ。面倒だとは思っても、迷惑とまでは思わない。
「いつも応援してくれてありがとう。これからも負けないから、応援よろしくね」
「は、はい!」
サインを書いた雑誌を受け取ると、レイナは満面の笑みを浮かべた。それにしても、レイナ・ケーモントか。
「……どこかで聞いたような名前だな」
「っ!」
俺の呟きが聞こえたのか、レイナはビクリと肩を震わせた。
いくら記憶を辿っても、彼女と出会ったことはないはずだが、レイナという名前に聞き覚えがあるのは事実。
必死に記憶の糸を手繰っていると、思い当たる二つ名が頭に浮かんだ。
「そうだ、神童レイナ。君、ジュニア部門の大会でいつも優勝してたレイナ・ケーモントさんじゃないか?」
「ご存じ、だったんですね」
「『ケイム選手を倒すのは、このあたしよ!』って、カメラの前で啖呵切ってたときリアタイしていたからね」
「うぅ……忘れてください。あのときのアレは調子に乗ってイキリ散らかしてただけなんです」
俺の言葉に、レイナは両手で顔を覆った。
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