第3話 反省会

 やっとのことでインタビューも終わり、俺は控え室へと戻る。

 神剋ケイム・ブライヤ様と書かれたプレートのある部屋のドアにスマホをかざすと、自動的に扉が開く。そのまま室内に足を踏み入れると、そこには物一つない白い空間が広がっていた。


「コード認証、神剋ケイム・ブライヤ」

『認証完了。神剋ケイム・ブライヤ様、おかえりなさい』


 天井から音声が鳴り響き認証が完了すると、何もなかった部屋に壁紙や家具が勝手に配置されていく。

 そして、全ての配置が終わると、ホテルの豪華な客室のようになったいた。

 部屋の内装はスマホに送られた部屋セットを魔力で再現する仕組みになっている。俺が神剋の称号を持っていることもあり、スポンサー企業が張り切って用意してくれたようだ。


 高級感溢れるソファに腰掛け、スマホの中に入っているSNSアプリを起動する。エゴサのためだ。

 トレンドには〝最長防衛記録〟〝最強の神剋〟などのワードが並んでおり、トレンドワードの覧に飛んでみれば、そこには先ほど戦ったレイブとのツーショット写真が表示されていた。

 レイブは悔しそうな表情を浮かべていたが、どこか満足気でもあった。


 一通りエゴサを終えた俺は魔力を飛ばし、壁に埋め込まれたモニターを起動した。

 俺のスマホと連動したモニターにはネットニュースの番組が映し出されており、ニュースキャスターが興奮気味に先程の神剋戦の結果を伝えていた。


『速報です。ケイム・ブライヤ選手がついに四十回目の神剋防衛を達成いたしました。ケイム選手は若干十六歳で神剋の称号を手にし、そこから十年も神剋の称号を保持し続けています。最年少で神剋の称号を得て、最長の防衛記録。前人未踏の記録に、多くの人が湧いております』


 どこを見ても、ケイム・ブライヤというミシカライザーがいかに最強無敵の存在であるかがクローズアップされている。悪くない気分だ。


『ケイム選手は多くのミシカライザーの成長にも貢献しており、彼が運営するサイトの育成論は、今やミシカライザーの聖書とまで呼ばれています。魔力を多く持つモンスターであり、石版大戦需要の低いモンスター、カスレアを討伐することで劇的にモンスターの成長を促せる方法は今やミシカライザーの常識と言ってもいいでしょう』


 当然の評価だ。それだけの戦績を俺は重ねてきたのだから。

 しかし、いつまでも当然の勝利を喜んでいるようじゃダメだ。気持ちを切り替えなければ。


 俺はモニターへの魔力供給を切ると、部屋に召喚されているモンスター達へ声をかける。


「おい、さっきの試合はなんだ」


 俺が声をかけると、くつろいでいたモンスター達が一斉に姿勢を正した。


「特にトライコーン、お前試合中に戦闘不能にもなってないのに立ち上がらなかったよな?」


 俺がそう指摘すると、トライコーンはビクリと身体を震わせた。

 トライコーンは馬型モンスターの中でもトップクラスのスピードを持ち、同時に圧倒的な魔力も兼ね備えたモンスターである。


 そんなトライコーンだが致命的な弱点がある。それは耐久力がないことだ。

 普通のミシカライザーならばトライコーンをアタッカー運用するため、耐久力を度外視した〝倒される前に倒す〟モンスターへと育て上げることだろう。

 俺はあえて耐久力を鍛え上げ、石版大戦中に相手の攻撃を受けながら召喚できるように耐久調整を行った。トライコーン自身も召喚するだけで相手を弱体化させられることもあり、ある程度の活躍はできた。


「相手がバカで油断してくれたからよかったものの、あそこで追い打ちをかけられてたら負けてた可能性もあったんだぞ。この試合で一番負ける確立を跳ね上げたのはお前だ。神話モンスターが聞いて呆れる」

「ヒィン……」


 しかし、今日の試合で完全に理解した。こいつには精神力があまりにも足りない。

 神話モンスターということにプライドでもあるのか、体力が残っているのに諦めて倒れ込んだりしやがった。はっきりいって論外である。

 俺が睨みつけると、トライコーンは申し訳なさそうに俯き、耳を垂らしてしまっていた。


「試合展開を組み立てて指示を出すのは俺だ。タイマンで負けるのはまだいい。そこから繋がる戦略だってある。だが、勝ち筋を潰すようなお粗末な立ち回りは二度とするな」


 実力的にできないことは仕方がない。無理をしたところで結果はついてこないからだ。

 だが、できるのにやらないのはただの怠慢である。


「ったく、使えないカスレア野郎だ」


 俺が吐き捨てるようにそう言うと、トライコーンはこちらを見つめてきたが、その瞳からは何の感情も伝わってこなかった。

 石版大戦でモンスターを使う上で大切なことは戦術と判断力だ。信頼と愛情なぞ一ミリだって必要ない。


 よくモンスターの気持ちがわかるなどとほざくバカがいるが、ああいう手合いは〝こう思っていたら嬉しい〟という自分の理想をモンスターに押し付けているだけだ。


「言いたいことがあるなら結果を出せ」


 くだらない慣れ合いは不要だ。そんなものは石版大戦中の判断を鈍らせる無用の長物でしかない。


「他の奴らも同じだ。この使えない駄馬みたいなマネしやがったらすぐスタメンから外す。いいな?」


 俺の言葉に、他のモンスター達は勢い良く返事をした。こいつらは生粋の戦闘狂だ。石版大戦を誰よりも好み、敵に打ち勝つことに何よりも喜びを覚える。そう俺が育てた。

 だから、未だに全自動弱体化装置以上の成果を挙げられていないトライコーンはそもそも個体の厳選に失敗したとも言えるだろう。


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